僕の実家は虚園

この所は自分の宮の構想を練っている。玲人です。
やはりというかなんというか、元居た場所の森が恋しいと思って、自分の宮にも森とはいかないまでも庭園くらいは欲しいと思っている。なにせこの虚園、緑が無い。圧倒的に白、白、白である。目に痛いとは言わないまでも、何か視覚的に色彩が欲しくなるというもの。そして目に優しい緑が欲しくなるというもの。そのうち父さんに果樹の種を持って来てもらおうと目論んでいる。


【第4話:犬も歩けば2】

また今日も砂漠をひた歩く。この間あった虚に出会えないかと思う事半分、暇なので散策の続きをしようと思った事半分である。

「おや、これはまぁ」

都合良く何かにエンカウントしないかと気配に気を配りつつ歩いていると、血のようなものを発見して立ち止まる。戦闘でもあったのかもしれないな。虚園はシビアな所だとザエルアポロも言っていたし。

話しによると、虚同士は喰い合って進化するらしい。ギリアンからアジューカスに進化した虚は、その身体を維持、進化させるために多くの霊力が必要で、その為にこの虚園では捕食が起きるという事だ。だからきっと、この血の跡もその印かもしれない。点々と続いている血の跡を辿っていけば、きっとその主と捕食者が争っている所に辿り着くだろう。ともなれば、これは仲間を増やすチャンスかもしれない。急いで現場に急行しよう。

「ははは!ざまぁないな!」
「くっ…ここまでか…!」

おっとこれはナイスタイミングなのでは?
血の跡を辿っていくと、虚が5体いる所に遭遇した。
一体はよくいるタイプの虚。もう一体は女性の姿をしていて、今にも止めを刺されそうだ。そしてなんとその周囲に転がってるのは先日出会ったアジューカス達だった。内心でガッツポーズを決めた僕は早速この状況に飛び入り参加する事に決めて躍り出た。

「そこの虚、待った!」
「なっ、誰だ!」
「僕は藍染玲人。彼女達の身柄は僕がもらい受ける。ここは潔く手を引いてくれないか」
「藍染玲人…藍染様の…!?」

どうやら父さんを知っているらしい。
これは話が早くて助かるんじゃないか?と思ったら、悪い顔を浮かべて舌なめずり。これは、下剋上組、かなぁ。

「丁度いい。アンタを倒せば俺のナンバーも上位入りって訳だ。悪いがここで死んでもらうぜ玲人様よぉ!」

早速襲い掛かって来た虚の攻撃を避けながら考える。これは殺してしまっていいのだろうか?父さんを知っているのならもしかしたら父さんの配下かもしれないし。勝手に消してしまったら問題なのでは?

「大人しく撤退する気はないんだね?」
「あるか馬鹿が!アンタはここで死ぬんだよ!」

やっぱり虚ってこんなのばっかりか、と思いつつ、正当防衛として黙らせる事に決めた。といっても殺しはなしだ。今回はザエルアポロの意見を採用して力にモノ言わせていう事を聞いてもらう事にしようと思う。

***

「ま、参った…」
「よし」

無事決着。地面にはいつくばっている虚の首に綺羅星を押し当てれば、案外簡単に降参してくれた。立ち去るように命令するとすたこらさっさと逃げて行ってくれて、こうもあっさりゆう事を聞いてくれるものなのかと感心した。

と、それもいいけれど彼女達の傷を見ないといけない。
仲間への勧誘も忘れずにしないとなので、上手くいく事を願おうそうしよう。

「大丈夫? 今手当をするから大人しくしていて」
「あ、あなたは?」
「玲人。藍染玲人。貴方は?」
「…ティア・ハリベルだ」

回道を使って怪我を直している間聞いた身の上話によると、彼女たちは全員メスの虚で、強力なオスの虚に対抗するべく身を寄せ合ってこの虚園で生き抜いてきたらしい。虚って協力できるんだと思ったのはちょっと失礼だったかな。でも、さっきの虚みたいなのを沢山見てきたせいなのかちょっと意外だ。

動物の場合もメスは群れを作って暮らすけれど、虚って人間の成れの果てじゃなかったの?そんな動物的な感じなの?とちょっと戸惑う。いや、僕の普段接しているのがザエルアポロだから余計にそう感じるのかもしれないけれど。

「お前、こないだのガキじゃねーかよ」
「私達をどうするつもりだ」
「だから手荒な事はしないってば…」
「お前達、今はその人のいう事に従おう」
「ハリベル様…分かりましたわ」

周囲に転がっていた彼女達はまだ僕に対して警戒していたけれど、ハリベルが説得するとあっけない程簡単に身を任せてきた。どうやらハリベルと彼女達の間にはしっかりとした絆があるようだ。ハリベル様と言っていたし、主従関係なのかもしれないけど。どうだろ。まぁどっちでもいいけれども。

「じゃあ、改めて。父さんの話しを聞いてからでいいんだけれど、僕達の仲間になってほしい」
「助けられた恩に報いよう。玲人、いや、玲人様」
「玲人でいいよ。じゃあ、父さんの所に案内するから。これから、どうぞ宜しくお願いします」

深々と頭を下げると、ハリベルも軽く一礼して答えてくれた。これで無事に仲間入り。父さんも喜んでくれる事だろう。

ひとつ懸念があるとすれば、父さんは彼女達の事を体の好い道具くらいにしか思わないんじゃないか?という事くらいだろうか。くらいといっても大きな問題だけれど。いや、父さんには問題ないけど。こういう時、僕達と彼らとの立場の違いを考えさせられるというもので。彼らと僕達は対等じゃないんだなぁって、ちょとなぁ。もやっとするというか、ね。僕が言えた義理じゃないんだけれども。

「あぁ、玲人。流石私の自慢の息子だね」
「父さん苦しい」

ハリベル達を紹介すると、父さんは僕をぎゅうぎゅうに抱き締めながら教鞭を垂れた。ハリベルは自分達の理想について語り、父さんもそれに対して意見を返した。ハリベル達は父さんの話しがいたく気に入ったよう、というかそのカリスマに当てられて、すっかり気を許したようだった。

な、なんか僕とても悪い事した気分。彼女達を騙している様で気が引ける。父さん、絶対都合の好い事言っただけだよ。いや、こんな事で気を揉んでちゃあ、これから先とてもやっていけないとは分かって居るけれど。これにも慣れちゃうのかなぁ嫌だなぁという気持ちがどこか抜けない僕なのでありましたとさ。
5/6ページ
    スキ