僕の実家は虚園
虚園に引っ越して来てから数日。
父さんは虚夜宮に集まっていた虚達に向かって、そこはかとなく良い感じに付き従うのを促すような文句を並べたりした。
内容は自分に従えば欲しい物が手に入るとかそんな感じ。持ち前のカリスマのせいか、はたまた虚達の現金な性格のせいかすんなりと受け入れられたようだ。
それでもって、その次。今度は虚園を管理しやすいように体制を整える事にしたらしい。
聞いた話しによると曖昧な認識だった力関係や階級をはっきりさせる為に上から順に番号を与える事にしたとか。
その内の特に上位ナンバーの者を自分直属の従者として、良い待遇の元据え置く。虚達はより上位に立とうと競争し、結果、父さんはより強い戦力を確保……とそんな狙い。
新しく仲間に引き入れられそうな虚を探してみたり、その内戦力になる虚の造兵をしつつ入れ替えていく予定だって。
既に自ら仲間入り志願に来る者もいるそうだから、もしそれらしい申し出や虚に会ったら自分の所へやってほしいと僕もお願いされている。
確かに効果的ではあるけど、見えない所で泥沼的な修羅場が繰り返し勃発するのがもう目に浮かぶよ。
今まで何となしに上下を争って自由競争をしていたのが目に見える形になったのだから、今後はより一層荒れるだろうなぁ。
あとはそう、戦力の編成はそういう感じで、それと並行して虚夜宮の改修をする事にしたらしい。
これについては僕にも結構関係がある話しだ。何故なら、僕が父さんの持ってる案を元に手を掛ける役だから。
どういう事かと言うと、早い話しが土木作業要員。僕の斬魄刀、鬼羅星砂時雨の能力を使えないか言われていたんだよね。
詳しい説明は省くけれど鬼羅星、ひいては僕の扱う能力は「霊圧と霊子の操作・分解と構築・異化と同化」というものだ。
虚夜宮の改築にどう利用できるかといえば、解体も建築も僕一人で作業が済んで、手っ取り早く気軽に改築ができる。
だからきっと父さんが僕を虚園に連れてきたのもそれが大きな目的なんだろう。
終わった後はここで自由に過ごして良いそうだし、僕を作戦に参加させる事はあんまり望んでいないんだってさ。
そういう訳で僕の仕事は体制づくりまでになりそうだ。
【第2話:眼鏡と リフォームと】
「すまないね玲人、それじゃあ宜しく頼むよ」
「うん。いってらっしゃい父さん」
改修してほしい部分や新しく作りたい物の案件リストは貰ったし、一通り説明は聞いた。
父さんの送り出しも終わった所で早速取り掛かろうかと思う。
……とその前に、チラチラと僕の様子を伺っている彼について触れてあげた方が良いんだろうな。
淡い桃色の髪が特徴的な外見も背丈も人間と変わりないこの人、先程父さんが出ていく前に「彼が手伝ってくれるそうだから」と言って連れてきた虚だ。
バラガンの時もそうだったけれど、感じられる霊圧は一般的な虚のそれよりもずっと力強い。虚の成体の、確か破面って言ったかな。彼もその類なんだろうと思う。
「僕は藍染玲人、どうぞ宜しくね」
手伝ってくれるという人を態々邪見にする性格でもないので、とりあえず話しかけてみる。
改めて顔を見てみると何だろうコレ、眼鏡? レンズは入っていないようだけれど、虚もお洒落を嗜むものなのかな。
もしそうだとしたら中々可愛らしい所があるものだなぁ。
「ザエルアポロ・グランツと申します。
私の研究者としての力がお役に立てるかと思い、参上致しました。 何なりとお申し付け下さいませ、玲人様」
そう言って優雅に一礼。
成程、手伝うって科学方面のサポートか。
確かに作る物の中には特殊な物もいくつかあるし、そういう分野に明るい人がいてくれると助かるかもしれない。
けれど流石虚園。僕が現世で見た事のあるのとは色んな意味で違う虚が沢山いるみたいだ。
まぁ、人間の魂の成れの果てのようなものだからそういう事もあるだろう。
「ありがとう。 貴方みたいな虚もいるんだね、僕は貴方達や虚園についてまだ知らない事ばかりだから色々教えてくれると嬉しいな」
「ええ、是非」
〈ザエルアポロSide〉
虚園に新しい支配者が現れた。
その噂は瞬く間に虚の間に広まり、至極当然の事ながら僕の耳にも届いた。
曰く「あのバラガンが戦う前から敵わないと認めた」「その場にいた何百もの虚を一瞬の間に切り捨てた」
その話しだけで新たな支配者とやらが反則的な強さを持っている事は窺い知れる。
しかし、どれ程の霊圧なのか。どのような能力なのか。それはどんな性質で、どれ程の効力があって、どう防げるものか。
噂だけでは不明瞭な事が多すぎて如何せんスッキリしない。僕は研究者、実際に自分自身の目で確かめたいものだ。
本来、僕は自分の目的の為に研究が続けられるのなら他はどうでもよかった。
各所で誰が野蛮な上下争いをしていようが、僕に関係無いのなら知った事じゃない。
今度の王は蛮行を繰り返すような輩でなければ良いのだけれど。
結果から言おう、僕の期待は良い意味で裏切られた。
全ての存在を超え己が天に立つと言った男は、この人ならば成し遂げると感じさせられる何かを秘めていた。
新しい支配者が死神だった事に驚かされはしたが、それはこの際些細な問題だろう。
彼の言葉は胸に心地よく、また、その思想には共感を覚えた。きっと虚園は変わる。流石の僕も無関係ではいられまい。
それにだ、彼の元に在れば僕の研究もより高みへ近づけられる。そんな確信を感じた。
身を寄せるならば早い段階から。更に今の内により良い印象を持たせた方が良い。
そう考えて行動に移した結果、僕は早速藍染様の元へ赴き、協力する事を申し出た。
運の良い事には虚夜宮の改修をする事が決まっており己の働きを見せるには丁度いい。僕はとても好ましい形で家臣の仲間入りをする事ができたのだ。
改修に取り掛かるこの日、僕が藍染様に連れられて向かった先にいたのは一人だけ。
青年というにはやや幼い外見。藍染様と同じ色のふわりとした髪と、襟足から伸びた2本の尻尾毛。美しいがどこかあどけなさの残る顔立ち。
噂で聞いた話しでは確か藍染様と共にいたという三人の内の一人だ。
その腰には見慣れない形状をした刀が一振り。戦えない訳ではなさそうだが、その割に霊圧は全く感じ取れない。
「すまないね玲人、それじゃあ宜しく頼むよ」
「うん。 いってらっしゃい父さん」
(父さん? 藍染様のご子息と、そういう事なのだろうか)
様子を伺う僕に、向き直った玲人様がこちらへ歩み寄って来た。
近距離に来て漸く分かったが、どうやら霊圧が全くない訳ではないようだ。
とはいえ注意して探らなければ分からない程度の至極僅かな霊圧であり、感じ取れるそれは常人以下も良い所。
自分より劣る相手に対して下手に出るのは少々癪だが……この際仕方あるまい。
息子に気に入られれば僕の評価が上がるかもしれないからね、自分の為と思えばなんて事はないさ。
「僕は藍染玲人、どうぞ宜しくね」
「ザエルアポロ・グランツと申します。
私の研究者としての力がお役に立てるかと思い、参上致しました。 何なりとお申し付け下さいませ、玲人様」
ひとまずはしっかりと挨拶をしておく。
藍染玲人。やはり藍染様のご子息と解釈して良いみたいだ。
「ありがとう。 貴方みたいな虚もいるんだね、僕は貴方達や虚園についてまだ知らない事ばかりだから色々教えてくれると嬉しいな」
「ええ、是非」
掴みは上々か。
玲人様は僕を前にしても恐怖するでもなく、かといって侮った様子もない。
危機感がないという可能性もあるがすこぶる自然体だ。相手への礼儀も弁えているようでそこは好感が持てる。
改修が終わった後に虚園や虚について教えるという約束も取り付けた所で本題に入る事になった。
「――と、このような仕組みで作成するのが良いと思います。しかし、これだけの件数を僕達で?」
玲人様が提示したリスト内容を拝見して自分の考えを述べたのだけれど、これを二人だけで完成させろというのは無理があると思った。
虚夜宮の中心に同程度の規模の宮を10程度、それらを覆って青空を閉じ込めた造りの天蓋、それぞれを繋ぐ回廊、藍染様用の研究施設、特定部分の用水路……他にもいくつか。
いくらなんでも人手が足りないだろう。これじゃあ何年掛かる事か分からない。
「確かに多いかもね。でも大丈夫だと思う」
玲人様はそう言って微笑んでみせたが、何を根拠にそんな事が言えるのか。
外へと歩く玲人様の後を追っている間、早くも頭痛がしてきた。
しかし、その後。
「な、んだこれは……」
……僕は目の前の光景に驚きを隠せないでいる。
玲人様が砂に手をかざすと、変化は起こった。
周囲の霊子が急速に引き寄せられ、その膨大な量は瞬く間に密度を増していき、可視化できる程にまで成長。
それだけでなく地面の大量の砂までもが輝きを放ち、霊子の渦と合わさっていく。
眩しいほどの光の粒子が入り乱れながら宙を舞う様は、まるで星が弾け踊るような、何とも言えない幻想的な光景。
それらが意思を持っているかの様に四方へと流れていき、更に寄り集まり、形を組み上げていく。
「それなりに時間が掛かるから、戻っていても良いよ?」
不意に声を掛けられてハッと我に返った。どうやら思わず見入ってしまっていたみたいだ。
玲人様は手をかざした格好のままでいて、何でもないように笑いかけてくる。
僕としてはこれを見ないだなんて当然考えられないから、このまま待機している事にした。
おそらくは玲人様の能力なのだろうが、一体どんな能力なのだろう。
いや、大体どういう類のものかは推測できる。けれど、だとしたらなんて素晴らしい能力だろう。
「……ふー。ちょっと休憩」
それから小一時間程度、完成した基礎部分を見渡して玲人様が呟いた。
組み上がった白い壁に触れてみると、しっかりとした固さと確かな質量を持っている事が分かる。
「信じられない……。 玲人様は霊子を操る事が出来るのですか?」
「うん。鬼羅星、僕の斬魄刀のおかげかな。
けれどまだ一つ目の一肯定分だし、もう少し早くしてみるね。あまり付き合わせても申し訳ないし……。霊圧を抑え過ぎなのかな?」
どうやら僕の予想通りみたいだ。
それにしても一度にこれだけの範囲、これだけの規模の物を組み上げてしまうなんて。
おまけにその気になればもっと早くできると……待ってくれ、今サラッと凄い事を言わなかったか?
「もしかして、ご自分の霊圧まで……?」
「一応ね。都合があって外に出さないようにしている間にそれに慣れちゃって。
父さん達の後ろに立つと度々驚かせてしまうから、ここに来てからは少し緩めてるよ」
呼吸を止めるのが出来ないように、身体から一定量放出され続ける霊圧を出さずに遮断するだなんてそう出来る事じゃない。
特殊な道具があれば可能かもしれないが、自力でやってのける者がいるなんて。全くなんて人だろう……だから霊圧が小さいと感じたのか。
「さ、残りの分も終わらせないとね」
やれやれ、侮っていたのはどうやら僕の方だったようだ。どれ程の実力の持ち主なのかが一気に未知数になってしまった。
とはいえ早くに気が付いた僕はやはり運が良いと言えるだろう。
今後は一層、身の振り方に注意をしておこうかな。
父さんは虚夜宮に集まっていた虚達に向かって、そこはかとなく良い感じに付き従うのを促すような文句を並べたりした。
内容は自分に従えば欲しい物が手に入るとかそんな感じ。持ち前のカリスマのせいか、はたまた虚達の現金な性格のせいかすんなりと受け入れられたようだ。
それでもって、その次。今度は虚園を管理しやすいように体制を整える事にしたらしい。
聞いた話しによると曖昧な認識だった力関係や階級をはっきりさせる為に上から順に番号を与える事にしたとか。
その内の特に上位ナンバーの者を自分直属の従者として、良い待遇の元据え置く。虚達はより上位に立とうと競争し、結果、父さんはより強い戦力を確保……とそんな狙い。
新しく仲間に引き入れられそうな虚を探してみたり、その内戦力になる虚の造兵をしつつ入れ替えていく予定だって。
既に自ら仲間入り志願に来る者もいるそうだから、もしそれらしい申し出や虚に会ったら自分の所へやってほしいと僕もお願いされている。
確かに効果的ではあるけど、見えない所で泥沼的な修羅場が繰り返し勃発するのがもう目に浮かぶよ。
今まで何となしに上下を争って自由競争をしていたのが目に見える形になったのだから、今後はより一層荒れるだろうなぁ。
あとはそう、戦力の編成はそういう感じで、それと並行して虚夜宮の改修をする事にしたらしい。
これについては僕にも結構関係がある話しだ。何故なら、僕が父さんの持ってる案を元に手を掛ける役だから。
どういう事かと言うと、早い話しが土木作業要員。僕の斬魄刀、鬼羅星砂時雨の能力を使えないか言われていたんだよね。
詳しい説明は省くけれど鬼羅星、ひいては僕の扱う能力は「霊圧と霊子の操作・分解と構築・異化と同化」というものだ。
虚夜宮の改築にどう利用できるかといえば、解体も建築も僕一人で作業が済んで、手っ取り早く気軽に改築ができる。
だからきっと父さんが僕を虚園に連れてきたのもそれが大きな目的なんだろう。
終わった後はここで自由に過ごして良いそうだし、僕を作戦に参加させる事はあんまり望んでいないんだってさ。
そういう訳で僕の仕事は体制づくりまでになりそうだ。
【第2話:眼鏡と リフォームと】
「すまないね玲人、それじゃあ宜しく頼むよ」
「うん。いってらっしゃい父さん」
改修してほしい部分や新しく作りたい物の案件リストは貰ったし、一通り説明は聞いた。
父さんの送り出しも終わった所で早速取り掛かろうかと思う。
……とその前に、チラチラと僕の様子を伺っている彼について触れてあげた方が良いんだろうな。
淡い桃色の髪が特徴的な外見も背丈も人間と変わりないこの人、先程父さんが出ていく前に「彼が手伝ってくれるそうだから」と言って連れてきた虚だ。
バラガンの時もそうだったけれど、感じられる霊圧は一般的な虚のそれよりもずっと力強い。虚の成体の、確か破面って言ったかな。彼もその類なんだろうと思う。
「僕は藍染玲人、どうぞ宜しくね」
手伝ってくれるという人を態々邪見にする性格でもないので、とりあえず話しかけてみる。
改めて顔を見てみると何だろうコレ、眼鏡? レンズは入っていないようだけれど、虚もお洒落を嗜むものなのかな。
もしそうだとしたら中々可愛らしい所があるものだなぁ。
「ザエルアポロ・グランツと申します。
私の研究者としての力がお役に立てるかと思い、参上致しました。 何なりとお申し付け下さいませ、玲人様」
そう言って優雅に一礼。
成程、手伝うって科学方面のサポートか。
確かに作る物の中には特殊な物もいくつかあるし、そういう分野に明るい人がいてくれると助かるかもしれない。
けれど流石虚園。僕が現世で見た事のあるのとは色んな意味で違う虚が沢山いるみたいだ。
まぁ、人間の魂の成れの果てのようなものだからそういう事もあるだろう。
「ありがとう。 貴方みたいな虚もいるんだね、僕は貴方達や虚園についてまだ知らない事ばかりだから色々教えてくれると嬉しいな」
「ええ、是非」
〈ザエルアポロSide〉
虚園に新しい支配者が現れた。
その噂は瞬く間に虚の間に広まり、至極当然の事ながら僕の耳にも届いた。
曰く「あのバラガンが戦う前から敵わないと認めた」「その場にいた何百もの虚を一瞬の間に切り捨てた」
その話しだけで新たな支配者とやらが反則的な強さを持っている事は窺い知れる。
しかし、どれ程の霊圧なのか。どのような能力なのか。それはどんな性質で、どれ程の効力があって、どう防げるものか。
噂だけでは不明瞭な事が多すぎて如何せんスッキリしない。僕は研究者、実際に自分自身の目で確かめたいものだ。
本来、僕は自分の目的の為に研究が続けられるのなら他はどうでもよかった。
各所で誰が野蛮な上下争いをしていようが、僕に関係無いのなら知った事じゃない。
今度の王は蛮行を繰り返すような輩でなければ良いのだけれど。
結果から言おう、僕の期待は良い意味で裏切られた。
全ての存在を超え己が天に立つと言った男は、この人ならば成し遂げると感じさせられる何かを秘めていた。
新しい支配者が死神だった事に驚かされはしたが、それはこの際些細な問題だろう。
彼の言葉は胸に心地よく、また、その思想には共感を覚えた。きっと虚園は変わる。流石の僕も無関係ではいられまい。
それにだ、彼の元に在れば僕の研究もより高みへ近づけられる。そんな確信を感じた。
身を寄せるならば早い段階から。更に今の内により良い印象を持たせた方が良い。
そう考えて行動に移した結果、僕は早速藍染様の元へ赴き、協力する事を申し出た。
運の良い事には虚夜宮の改修をする事が決まっており己の働きを見せるには丁度いい。僕はとても好ましい形で家臣の仲間入りをする事ができたのだ。
改修に取り掛かるこの日、僕が藍染様に連れられて向かった先にいたのは一人だけ。
青年というにはやや幼い外見。藍染様と同じ色のふわりとした髪と、襟足から伸びた2本の尻尾毛。美しいがどこかあどけなさの残る顔立ち。
噂で聞いた話しでは確か藍染様と共にいたという三人の内の一人だ。
その腰には見慣れない形状をした刀が一振り。戦えない訳ではなさそうだが、その割に霊圧は全く感じ取れない。
「すまないね玲人、それじゃあ宜しく頼むよ」
「うん。 いってらっしゃい父さん」
(父さん? 藍染様のご子息と、そういう事なのだろうか)
様子を伺う僕に、向き直った玲人様がこちらへ歩み寄って来た。
近距離に来て漸く分かったが、どうやら霊圧が全くない訳ではないようだ。
とはいえ注意して探らなければ分からない程度の至極僅かな霊圧であり、感じ取れるそれは常人以下も良い所。
自分より劣る相手に対して下手に出るのは少々癪だが……この際仕方あるまい。
息子に気に入られれば僕の評価が上がるかもしれないからね、自分の為と思えばなんて事はないさ。
「僕は藍染玲人、どうぞ宜しくね」
「ザエルアポロ・グランツと申します。
私の研究者としての力がお役に立てるかと思い、参上致しました。 何なりとお申し付け下さいませ、玲人様」
ひとまずはしっかりと挨拶をしておく。
藍染玲人。やはり藍染様のご子息と解釈して良いみたいだ。
「ありがとう。 貴方みたいな虚もいるんだね、僕は貴方達や虚園についてまだ知らない事ばかりだから色々教えてくれると嬉しいな」
「ええ、是非」
掴みは上々か。
玲人様は僕を前にしても恐怖するでもなく、かといって侮った様子もない。
危機感がないという可能性もあるがすこぶる自然体だ。相手への礼儀も弁えているようでそこは好感が持てる。
改修が終わった後に虚園や虚について教えるという約束も取り付けた所で本題に入る事になった。
「――と、このような仕組みで作成するのが良いと思います。しかし、これだけの件数を僕達で?」
玲人様が提示したリスト内容を拝見して自分の考えを述べたのだけれど、これを二人だけで完成させろというのは無理があると思った。
虚夜宮の中心に同程度の規模の宮を10程度、それらを覆って青空を閉じ込めた造りの天蓋、それぞれを繋ぐ回廊、藍染様用の研究施設、特定部分の用水路……他にもいくつか。
いくらなんでも人手が足りないだろう。これじゃあ何年掛かる事か分からない。
「確かに多いかもね。でも大丈夫だと思う」
玲人様はそう言って微笑んでみせたが、何を根拠にそんな事が言えるのか。
外へと歩く玲人様の後を追っている間、早くも頭痛がしてきた。
しかし、その後。
「な、んだこれは……」
……僕は目の前の光景に驚きを隠せないでいる。
玲人様が砂に手をかざすと、変化は起こった。
周囲の霊子が急速に引き寄せられ、その膨大な量は瞬く間に密度を増していき、可視化できる程にまで成長。
それだけでなく地面の大量の砂までもが輝きを放ち、霊子の渦と合わさっていく。
眩しいほどの光の粒子が入り乱れながら宙を舞う様は、まるで星が弾け踊るような、何とも言えない幻想的な光景。
それらが意思を持っているかの様に四方へと流れていき、更に寄り集まり、形を組み上げていく。
「それなりに時間が掛かるから、戻っていても良いよ?」
不意に声を掛けられてハッと我に返った。どうやら思わず見入ってしまっていたみたいだ。
玲人様は手をかざした格好のままでいて、何でもないように笑いかけてくる。
僕としてはこれを見ないだなんて当然考えられないから、このまま待機している事にした。
おそらくは玲人様の能力なのだろうが、一体どんな能力なのだろう。
いや、大体どういう類のものかは推測できる。けれど、だとしたらなんて素晴らしい能力だろう。
「……ふー。ちょっと休憩」
それから小一時間程度、完成した基礎部分を見渡して玲人様が呟いた。
組み上がった白い壁に触れてみると、しっかりとした固さと確かな質量を持っている事が分かる。
「信じられない……。 玲人様は霊子を操る事が出来るのですか?」
「うん。鬼羅星、僕の斬魄刀のおかげかな。
けれどまだ一つ目の一肯定分だし、もう少し早くしてみるね。あまり付き合わせても申し訳ないし……。霊圧を抑え過ぎなのかな?」
どうやら僕の予想通りみたいだ。
それにしても一度にこれだけの範囲、これだけの規模の物を組み上げてしまうなんて。
おまけにその気になればもっと早くできると……待ってくれ、今サラッと凄い事を言わなかったか?
「もしかして、ご自分の霊圧まで……?」
「一応ね。都合があって外に出さないようにしている間にそれに慣れちゃって。
父さん達の後ろに立つと度々驚かせてしまうから、ここに来てからは少し緩めてるよ」
呼吸を止めるのが出来ないように、身体から一定量放出され続ける霊圧を出さずに遮断するだなんてそう出来る事じゃない。
特殊な道具があれば可能かもしれないが、自力でやってのける者がいるなんて。全くなんて人だろう……だから霊圧が小さいと感じたのか。
「さ、残りの分も終わらせないとね」
やれやれ、侮っていたのはどうやら僕の方だったようだ。どれ程の実力の持ち主なのかが一気に未知数になってしまった。
とはいえ早くに気が付いた僕はやはり運が良いと言えるだろう。
今後は一層、身の振り方に注意をしておこうかな。
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