短編
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叶わない恋だと知った時から、ずっと諦め方を探してる。
私が生まれ育った場所はお世辞にもいい環境とは言えず、父親は最初から知らないし風俗嬢をしていた母はいつの間にか客の男といなくなっていた。
母が最後にいた店で私は同じような境遇の龍宮寺堅と育った。
兄弟のように一緒に育ち、乱暴だけど優しい堅はいつも私と一緒にいてくれた。
そして私はいつしか堅に家族以上の感情を持つようになった。
我ながら絵に描いたような初恋だと思う。
だけど、そんな2人の間にある変化が起きた。
堅がマイキーと出会ったのだ。
堅以上にめちゃくちゃで、でも純粋なマイキーは素直にいい奴だと思ったし、一緒にいるのも楽しかった。
でも、いつの間にか堅の隣にいるのは、私じゃなくてマイキーになったし、堅は私も周りと同じようにドラケンと呼ぶこと望んだ。
そして何よりエマと出会って堅は初恋というものを知り、堅の中で私の立ち位置は大きく変わっていった。
神様は何て残酷なんだろう。私には堅しかいないのに。
誰よりも堅を見ていたからこそ、堅がエマに恋した瞬間が私にははっきりとわかってしまった。
あの時以上の絶望を私は知らない。
堅の中で私は1番の女の子ではなくなってしまったけど、変わらず堅は私をそばにおいてくれた。
嫌な顔を少しするものの集会に顔を出せば帰りは一緒に帰ったし、なんでも話せる家族のような存在に変わりはなかったはずだった。
「ナマエはさ、ケンチン以外に何かないわけ?」
「え?」
ある日、まわりから見ればじゃれあっているようにしか見えないエマと堅の言い合いをボーっと眺めていたら、マイキーに突然問いかけられた。
「朝、一緒に学校行って、帰りはいつもケンチンにくっついて俺たちのところにきて、夜になればケンチンにまたくっついて一緒に帰る。その繰り返し。ケンチンと一緒にいる以外何かねぇの?」
「別に帰る場所だって同じだし、特に放課後にすることもないし・・」
言いながら、自分でもどんどん声が小さくなっているのがわかる。
もはや依存と呼べる域に達しているのは自分でもわかっている。
「ケンチンも幼馴染にエマに世話する相手がいっぱいいて大変だ。」
「それ、マイキーが言う?」
「それもそっか。でも毎回辛そうな顔するくせによく来るよな。嫌じゃないんだ?」
あぁ、この自分で立ち上げたチームのこと以外考えてなさそうな男にバレていたとは・・
意外と周りをよく見ているんだと感心して気づく。
そうか、エマがかかわってるからか。自分の妹の幸せの邪魔になりそう奴がいるのが気になるのか。
「安心して。別にエマの邪魔しようとか、いじわるしようとかそういうことは考えてないから。」
これは、本心だ。あの日、自分の初恋が叶わないと知ったとき、心の底からエマが羨ましいとは思ったが別にエマがいなければとか、仲を引き裂こうとは全く思わなかった。
そんなことをしても堅がこちらを向いてくれる性格じゃないのは痛いほどわかっている。
「別にそんなこと思ってねーけど。エマがケンチンのこと好きでも決めるのはケンチンだし。」
意外と冷静で公平なんだな。さすが総長になるだけのことはあるなと思う。
「別に今さら本当にどうこうしようとは思ってない。ただやっぱ一番居心地いいからさ。堅の優しさにつけこみつつ、終わり方を探してるだけ。」
「終わり方?」
「うん。叶わない恋の諦め方ってやつ。」
「ふーん。」
ここにきて、マイキーとこんな話をしているのが、むず痒くなった。
居たたまれなさをどうしようかと思っていたら、言い合いの仲裁をしていた三ツ谷がチラチラこちらを見ているのに気づく。
そろそろ止めろってことか。
損な役回りなことに、堅とエマの仲裁に入るのは私の役目になっていた。
堅のことは把握しているし、エマにはなぜか姉のように思われ懐かれていたからだ。
「ほら、2人ともその辺で。そろそろ他のみんなも集まるだろうから。」
「だって!ナマエちゃん!ドラケンが・・!」
「いや、俺は事実を言ってるまでだ。」
はい!そこまで!と終わらない2人をもう1度無理矢理止める。
そうしないといつまでも終わらないからだ。
本当に相性がよくて羨ましくなる。
しばらくはこのまま堅の優しさに甘えてぬるま湯につかっていよう、なんてずるいことを考えていた私に、天罰が下ったのはその後すぐのことだった。
夏祭りにエマと行った堅が、抗争が原因で意識不明の重体となり、病院に運ばれた。
私は夏祭りにエマと堅が行くこと自体が寝耳に水で、あまりのショックに驚くことが出来なかった。
肺が破けるんじゃないかというほど急いで向かった病院には、ボロボロな顔をしたエマとヒナちゃんと、黙ったままただ手術終わるのを待つマイキーを初めとした東卍のメンバーがいた。
唯一、家族と呼べるような存在を失うかもしれないという恐怖に押しつぶされそうで、泣き続けるエマに「大丈夫」と声をかけることしかできず、みんなと合流したのはいいが、ただ、ただ茫然として、自分が震えていることにも気付かなかった。
手術が成功したと聞いて本当に安心した。
ただ、その後は自分が蚊帳の外にいたことに言い表せない絶望感を感じ、おそらく涙を流すのに見つからない場所を探しに行くマイキーを横目に私は動けずにいた。
私は堅となんでも報告し合う間柄でもなければ、なにかあった時、1番に知らせが入る存在でもなくなったんだ・・
もうここに私の居場所はない。
あんなに終わりにすることを望んでいたのに、みんなが手術の成功に涙する中、私は突き付けられた現実に絶望し、ひとり打ちひしがれて涙を流し続けた。
そのまま誰にも言わずに病院を去り、みんなと距離おき、集会に顔を出すこともなく堅の見舞いにすら行かなかった。
何度も何度も堅やマイキーから連絡が入っていたが、私はひたすら無視を続けた。
堅が退院したのは、エマのメールで知った。
近くに住んでいるので、退院をしてしまうと必然的に顔を合わせてしまう。
そのため数少ない友人を頼りにできるだけ朝から出かけ、時には家に帰らず友人宅に泊まるようにしていた。
そんな努力もむなしく堅やマイキーからの連絡は止まらなかった。
そして何故かマイキーからの連絡はどんどん増えていった。
お世辞にも連絡マメには思えないんだけどな・・
このままじゃ忘れることができない。
どうしたものかと考えていた時に、恐れていた事態が起こってしまった。
家に戻ろうとした際に、ばったりマイキーと出会ってしまったのだ。
すぐさま逃げ出そうした私の腕を掴んで、それはそれは不機嫌そうな顔で「なにやってんの?」と言われた。
やばい・・。めちゃくちゃ怒ってる。
「ケンチンの見舞いにも来ねーし。何度連絡しても返事がない。どれだけ心配したと思ってんの?」
「いや、その、みんな色々あったみたいだし。部外者が邪魔しちゃ悪いかなって思ってさ。」
「は?!それ、本気で言ってんの?」
あ、本当にまずいキレちゃった。掴んでいる手に力が入り、腕がものすごく痛い。
「ちょっ。マイキー痛い。離して!」
「離したらまた逃げんだろ?今日は逃がさねーよ。」
腕は痛いし、マイキーが怖い。
そしてどう考えてもマイキーがここに1人でいるとは思えない。
頭の中で逃げろと警告音が鳴り響いている。
「何やってんだ?マイキー」
「ケンチン!ナマエ見つけた!」
ほら、やっぱりいた。
私の顔を見るなり堅の顔も、もはや般若が可愛いと思えるほど怖いものに変わった。
今ならマイキーにも勝てるんじゃないかと思う。
「ナマエ。お前今まで何やって・・」
ズカズカと音が聞こえてきそうな勢いで堅がこちらにやってくる。
マイキーもヤバいが堅も相当ヤバい。確実に殺られる・・。
もう観念するしかないと思ったその瞬間
「ちょっとーマイキーとドラケン何やってんの?」
「ちょっとナマエいつまで待たせんの?!」
マイキーと堅を待っていたエマと実は荷物を取った私が戻ってくるのを待っていた友人、双方から声をかけられた。
少しだけマイキーの手が緩んだ瞬間、思いっきり振り払い、友人の元へ走る。
「おい!こら待て!」
「ナマエ!!」
2人それぞれから叫ばれた気がするが、かまっていられない。
戸惑う友人を引っ張り、急いで客待ちのタクシーに乗り込む。
何事かという顔をしている運転手さんにとりあえず出発するようお願いする。
窓の向こうでとてつもなく怒っている2人が見える、心配そうな顔をしたエマも・・
やっぱり一緒にいたという目の前の現実に、諦めの悪い私は大きなショックを受けていた。
もう嫌だ。今すぐ忘れて楽になりたい。
出し切ったはずの涙が際限なく私の目から流れ続けていた。
邪魔をしたいわけじゃない。
ただ私にとっての堅は好きな人ってだけじゃなくて家族の同然な唯一の存在で。
堅がいなければ私は独りになってしまう。
それに引き裂きたいわけじゃないけど、仲よさそうなところ毎回見るのはやっぱり辛い。
どうしたら終わりにできるのだろう。
もう会わないようにするにはどうしたらいいのだろう。
本当は私だって素直に堅の幸せを願えるようになりたい。
ずっと答えが出ない問いかけが私の中でグルグルしてる・・。
「なんか、夏休みだから遊びまわってたわけじゃないんだね。話聞いた方がいい?聞かない方がいいかな?」
優しさがじんわりと沁みてくる。数はいなくてもいい友人に恵まれたようだ。
そこからは出来るだけで出歩かないようにしながら、友人宅に居候のようにお世話になっていた。
引きこもりながらも鬼のように来ている連絡に一応は目をとおす。
そこには堅よりも誰よりもたくさんマイキーからの連絡が入っていた。
今日こそ集会にこいとか、電話くらい出ろとか、会いたいなんていうのもあって少し驚いた。
確認した最後のメールには、
「なんでお前にはケンチン以外が見えないの?」
となかなか辛辣な内容が書かれていた。
堅がすべてだと思っていた。だって唯一の家族だし。
でももう進まなきゃ。
それにマイキーの言う通りだと思った。この世界には堅以外にも男はたくさんいる。
終わりにできないままでも無理矢理でも前に進めばいつか想い出になるんじゃないだろうか。
また、みんなと笑って会えるようになるのではないか。
そんなことを少しは考えるようになったと友人に話したら、本気なら出逢いの場を作る!とても張り切ってくれた。
そして夏休みも終わりかけたころ、友人主催の出逢いの場、もとい合コンが開かれることになった。
当日、渋谷駅で相手方と待ち合わせとなっているため、できるだけ気配を消しながら友人と向かう。
そこで病院でも会った新顔の少年とその彼女に会ってしまった。
少年ことタケミっちは、今までどこにいたのか尋ねてきたが、急いでると断りを入れ、すでに待ち合わせ場所にいたちょっとチャラそうな大学生の元へ向かう。
後ろから「あれって合コン・・?」というタケミっちのつぶやき声が聞こえたが、気づいてないフリをした。
見かけに反し、集まった中の1人を除いて、大学生達は紳士的だった。
友人も楽しそうにしている。
ただ、やっぱり私はここにいることに違和感がある。
そして好きな男に振り向いてもらえないからといって、他の出逢いを求める自分のバカな行動に嫌悪感が沸いてきた。
そのとたん、気分が悪くなってきてしまい、申し訳ないと思いつつ、友人に少し外の空気を吸ったら帰ると断りを入れて会場となっていたカラオケを出た。
すっかり夜の様相になった渋谷はお世辞にもきれいな空気ではないけど、慣れ親しんだ中で深く息を吸い込めば気持ちが落ち着いてきた。
もう少し休憩したら先に帰っていようと思いながら、街中を歩いた。
「あ、いた。やっと見つけた。」
「え?」
振り返るとそこには合コンにいた中で、総スカンを食らっていたチャラい大学生がいた。
「急にナマエちゃんいなくなっちゃうんだもんー。さみしかったよ?てかどうしたの?つまんなかった?」
退屈なら、一緒にどっか行こっか!などと言いながら肩を抱いてきた。
慣れ慣れしいな、というか触らないでほしい。
「ちょっと、やめてください。」
最悪だ。面倒な奴に目を付けられてしまった。
「まあまあ、なんか嫌なことあったんでしょ?俺、忘れさせてあげるよ?ちょうどいい所もあるし。」
力任せに押されるように足が向かった先は、渋谷でも有名なラブホ街だった。
どこまでチャラいんだ。
「とりあえず離してください。」
「えー。なに?聞こえない。」
この野郎!と思うが力が強くて少しずつホテルの入り口が近づいてくる。
なにも抵抗が出来なくて悔しくなる、結局、私は1人じゃ何もできないのか。
「大丈夫。ちゃんと俺が慰めてあげる。嫌なことなんかすぐ忘れられるって。」
いい加減抵抗すんのも疲れてきて、むしろもう引き返せないとこまでいってやろうかと思う。
そうすればいい加減、諦めもつくか・・
所謂、自暴自棄に陥った私は抵抗をやめそのまま流されるように、相手に合わせて足が進む。
「悪いけど、それ俺の役目だから。部外者はすっこんでろ。」
ドガっ。とすごい音がしたかと思えば、隣にいた男が吹っ飛んでいた。
そして私を庇う様に前に現れたのは、堅の横にいつもあった見慣れた背中だった。
「マイキー・・・」
後ろ姿からすでに怒りが伝わってくるが、助けられたことにホッとして思わず声が出る。
「お前さ、本当いい加減にしろよ。なにやってんの?」
「ごめんなさい・・・。」
あまりの顔の怖さに声が小さくなるが、なんとか謝罪を返す。
「タケミっちがすぐ知らせてくれて助かった。見つかってよかったよ。」
そういうことか、心優しい少年のお節介に感謝する。
そうこうしているうちに
「ナマエ!!!!」
「え・・・?」
振り返るとそこには、これまた怒りをあらわにした堅がいた。
「今までどこにいたんだよ!なんで避けてんだ!」
怒鳴り声が大きすぎて野次馬さえも逃げていく。
でも、堅も一緒に探してくれてたのか思うと怖いけど少し嬉しくなる。
「てめー。何笑ってんだ?」
地を這うような低い声が響く。
「あ、ごめん。いや心配してくれたんなら申し訳ないんだけど、ほら、そのさ、色々邪魔しないようにって思ってさ。」
「はぁ?お前何言ってんだ?」
心底訳が分からないといった顔をした堅が言う。いや、こっちこそそれ本気で言ってるのか聞きたいんだけど・・
不意に頭に手が伸びきて思わず目をつむるとそのまま堅の体に引き寄せられていた。
身長差がありすぎて胸の下の方に頭があたる。
「家族はお互いしかいないだろうが。何勝手にいなくなってんだ。」
その言葉にびっくりして固まる。あれ?私はどうでもいいんじゃないの?
「私ってまだ家族なの?一緒にいてもいいの?」
「あ?家族ってなくなるもんじゃねーだろ。わけわかんねーこと言ってじゃねーぞ?」
私が勝手に空回ってただけで、堅は変わってなどいなかったのか。
恋人じゃなくても私の居場所は堅の中にちゃんとあったのか。
思わず涙が出そうになった瞬間、「はい!終わり!」と声が聞こえて堅から引っぺがされた。
「あ?なんだよマイキー。」
「もういいでしょ。家族はそんなひっつかなくていいの。」
「あぁ?」
え?なんでこの2人こんな一触即発みたいになってんの?なんかあったの?
「それに、今からは俺の番だから。」
行くよ、ナマエ。と言いながら私の手を引きながらどんどん歩いていくから、戸惑ってしまう。
そこに、後ろから堅の声が聞こえる。
「おい。マイキー!あんまり困らせんなよ!」
「それはちょっと約束できないなー。もう遠慮しないって決めたし。」
堅が苦虫をつぶしたような顔をしているのが見えるが、マイキーは構わず私の手を掴んだままどんどん進んでいく。
しばらくするといつも集会に使っている神社にたどり着いた。
と言っても今日は私とマイキーしかいない。
ここに来るまでマイキーは無言になってしまい、私もなんて言っていいかわからず黙ったままだった。
そのまま無言を貫くマイキーにさすが気まずくなってきた。
なんかいろいろあって忘れそうだったけど、よくよく考えたら見つけてくれたのも助けてくれたのもマイキーだと思い出した私は、あらためてお礼と謝罪をするために口を開いた。
「マイキー、助けてくれてありがとう。心配かけてごめんね。」
「やだ。」
「え?」
謝罪拒否されたことに驚いてしまう。相当怒っているに違いない。
ちょっと厄介だなとため息とついているとマイキーの言葉が続く。
「心配したし、連絡も無視するから傷ついた。」
嘘つけそんなタマじゃないだろう!と口に出すのは恐ろしいので心の中でツッコみを入れる。
「許してほしかったら、お願い聞いて。」
でた。マイキーがよく言うセリフ。面倒くさいけど、どうせいつものたい焼き買ってきてとかそんなだろうと思いたかをくくる。
「わかったよ。何したらいい?」
そう言った私にマイキーは驚きの発言をした。
「これからはケンチンじゃなくて俺のことみて。」
「は?」
何を言われてるのか理解ができずに思わず目を見開いた。
「これから先、ナマエの隣いるのは、俺にして。
ナマエの涙を拭くのも、ナマエの居場所になるのも全部俺がいい。
でも、ケンチンの代わりになりたいわけじゃないよ。
俺だけをナマエの中の特別にしてほしい。
ずっと好きだった。」
普段のマイキーからは想像できないような、真剣さと男らしさに驚きを隠せない。
堅以外に居場所なんかないと思っていた私を見ててくれたのだろうか。
そう思うと、結局自分のことしか考えてなかった情けなさや申し訳なさ、見てる人がいたことの嬉しさがごちゃ混ぜになって目の前が滲んできた。
ただ、いまだ気持ちの整理がつかない自分ではマイキーの気持ちにこたえるわけにはいかない、そんな都合のいい話はないだろうと思う。
「ありがとう。びっくりしたけど、気持ちは嬉しい。でも「ストップ」え?」
「返事とかいらないから。
断られても拒否するし。
ナマエの中でケリがつくまで待ってようと思ったけど、今回みたいに逃げ出されちゃたまんねーから言っただけ。
大丈夫、これから俺のことしか考えられないようするから。」
断るのを拒否ってなに?てか、それよりもさらに不安要素しかないことを言われた気がするんだけど・・
不安な私をよそに、「いい加減、今日は家帰るよ。」なんて言いながらマイキーは当たり前のように手を繋いで歩きだした。
これからのことを考えると頭が痛くなるが、繋いだ手から堅とは違う包み込むような優しい強さを確かに感じていた。
その後、久しぶりに自分の家に帰り、待ち構えていた堅にさらに長―いお説教を食らいエマに泣きつかれた。
あまりに長いお説教にぐったりしながら、なかなか泣き止んでくれないエマを慰め謝り続ける私を隣にいるマイキーはニコニコと見ていた。
みんなでご飯を食べた後なぜか全員帰らず、そのまま4人で雑魚寝した。
1人用のワンルームは4人で寝るには狭すぎたけど、私は夢も見ないほどぐっすりと眠った。
それからは以前とは少し変化しつつも変わらない日常が戻ってきた。
変わった点は、私が堅ひっついていなくても、毎日マイキーが迎えにきて集会に顔を出すようになったことで、帰り道も堅がいてもいなくてもマイキーが必ず送ってくれた。
今日もまたいつもようにエマと堅のじゃれ合いを眺めながら、そっと横にいるマイキーを見る。
飄々とした顔をみていたら、マイキーの隣がいつの間にか私の定位置になっていることに気づいた。
「ん?どうした?」
「な、なんでもない!」
急に顔を向けられ焦る私が、いぶかしがるマイキーの視線から逃げようとした時、助けを求める三ツ谷の声が聞こえた。
「おい!いい加減あれ止めてくれよ。」
「わかった!」
待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がろうとした私の体は何故か動かなかった。
見ればマイキーが私の腕をがっちり掴んでいる。
だから力強いって。
「行っちゃダメ。ナマエはここにいて。」
「はい?」
謎の妨害に私もだけど三ツ谷が戸惑ってる。
「どうせじゃれ合ってるだけなんだからほっとけよ。いちいちケンチンのとこ行かないで。」
今度から俺のこと放置してケンチンのとこに行くごとにデートしてもらうから。と悪魔みたいな笑顔のマイキーに囁やかれたせいで、真っ赤になって固まってしまった。
「おい。マイキー!困らすなっつってんだろ!!」
いつの間にかそばにやってきていた堅が間に入ってマイキーに怒鳴る。
「ちょっとケンチン~。邪魔しないでよ。小姑みたい。」
「あんだと?!」
そのまま始まったマイキーと堅のじゃれ合いを茫然と眺める。
きっとマイキーが言ったとおり、私の頭の中が彼で埋め尽くされるのも時間の問題なんだろう。
これから始まる、マイキーに振り回される日々を想像して溜息が出た後、笑顔が込み上げてきた。
まぁ、それも悪くないか、マイキーはずっと私のことを気長に見守ってくれたわけだし。
実らない初恋を終わらせる方法は、新しく始まる恋かもしれない、そんな少女漫画のようなことを柄にもなく思った私は今度こそじゃれ合いを止めるべく立ち上がった。
私が生まれ育った場所はお世辞にもいい環境とは言えず、父親は最初から知らないし風俗嬢をしていた母はいつの間にか客の男といなくなっていた。
母が最後にいた店で私は同じような境遇の龍宮寺堅と育った。
兄弟のように一緒に育ち、乱暴だけど優しい堅はいつも私と一緒にいてくれた。
そして私はいつしか堅に家族以上の感情を持つようになった。
我ながら絵に描いたような初恋だと思う。
だけど、そんな2人の間にある変化が起きた。
堅がマイキーと出会ったのだ。
堅以上にめちゃくちゃで、でも純粋なマイキーは素直にいい奴だと思ったし、一緒にいるのも楽しかった。
でも、いつの間にか堅の隣にいるのは、私じゃなくてマイキーになったし、堅は私も周りと同じようにドラケンと呼ぶこと望んだ。
そして何よりエマと出会って堅は初恋というものを知り、堅の中で私の立ち位置は大きく変わっていった。
神様は何て残酷なんだろう。私には堅しかいないのに。
誰よりも堅を見ていたからこそ、堅がエマに恋した瞬間が私にははっきりとわかってしまった。
あの時以上の絶望を私は知らない。
堅の中で私は1番の女の子ではなくなってしまったけど、変わらず堅は私をそばにおいてくれた。
嫌な顔を少しするものの集会に顔を出せば帰りは一緒に帰ったし、なんでも話せる家族のような存在に変わりはなかったはずだった。
「ナマエはさ、ケンチン以外に何かないわけ?」
「え?」
ある日、まわりから見ればじゃれあっているようにしか見えないエマと堅の言い合いをボーっと眺めていたら、マイキーに突然問いかけられた。
「朝、一緒に学校行って、帰りはいつもケンチンにくっついて俺たちのところにきて、夜になればケンチンにまたくっついて一緒に帰る。その繰り返し。ケンチンと一緒にいる以外何かねぇの?」
「別に帰る場所だって同じだし、特に放課後にすることもないし・・」
言いながら、自分でもどんどん声が小さくなっているのがわかる。
もはや依存と呼べる域に達しているのは自分でもわかっている。
「ケンチンも幼馴染にエマに世話する相手がいっぱいいて大変だ。」
「それ、マイキーが言う?」
「それもそっか。でも毎回辛そうな顔するくせによく来るよな。嫌じゃないんだ?」
あぁ、この自分で立ち上げたチームのこと以外考えてなさそうな男にバレていたとは・・
意外と周りをよく見ているんだと感心して気づく。
そうか、エマがかかわってるからか。自分の妹の幸せの邪魔になりそう奴がいるのが気になるのか。
「安心して。別にエマの邪魔しようとか、いじわるしようとかそういうことは考えてないから。」
これは、本心だ。あの日、自分の初恋が叶わないと知ったとき、心の底からエマが羨ましいとは思ったが別にエマがいなければとか、仲を引き裂こうとは全く思わなかった。
そんなことをしても堅がこちらを向いてくれる性格じゃないのは痛いほどわかっている。
「別にそんなこと思ってねーけど。エマがケンチンのこと好きでも決めるのはケンチンだし。」
意外と冷静で公平なんだな。さすが総長になるだけのことはあるなと思う。
「別に今さら本当にどうこうしようとは思ってない。ただやっぱ一番居心地いいからさ。堅の優しさにつけこみつつ、終わり方を探してるだけ。」
「終わり方?」
「うん。叶わない恋の諦め方ってやつ。」
「ふーん。」
ここにきて、マイキーとこんな話をしているのが、むず痒くなった。
居たたまれなさをどうしようかと思っていたら、言い合いの仲裁をしていた三ツ谷がチラチラこちらを見ているのに気づく。
そろそろ止めろってことか。
損な役回りなことに、堅とエマの仲裁に入るのは私の役目になっていた。
堅のことは把握しているし、エマにはなぜか姉のように思われ懐かれていたからだ。
「ほら、2人ともその辺で。そろそろ他のみんなも集まるだろうから。」
「だって!ナマエちゃん!ドラケンが・・!」
「いや、俺は事実を言ってるまでだ。」
はい!そこまで!と終わらない2人をもう1度無理矢理止める。
そうしないといつまでも終わらないからだ。
本当に相性がよくて羨ましくなる。
しばらくはこのまま堅の優しさに甘えてぬるま湯につかっていよう、なんてずるいことを考えていた私に、天罰が下ったのはその後すぐのことだった。
夏祭りにエマと行った堅が、抗争が原因で意識不明の重体となり、病院に運ばれた。
私は夏祭りにエマと堅が行くこと自体が寝耳に水で、あまりのショックに驚くことが出来なかった。
肺が破けるんじゃないかというほど急いで向かった病院には、ボロボロな顔をしたエマとヒナちゃんと、黙ったままただ手術終わるのを待つマイキーを初めとした東卍のメンバーがいた。
唯一、家族と呼べるような存在を失うかもしれないという恐怖に押しつぶされそうで、泣き続けるエマに「大丈夫」と声をかけることしかできず、みんなと合流したのはいいが、ただ、ただ茫然として、自分が震えていることにも気付かなかった。
手術が成功したと聞いて本当に安心した。
ただ、その後は自分が蚊帳の外にいたことに言い表せない絶望感を感じ、おそらく涙を流すのに見つからない場所を探しに行くマイキーを横目に私は動けずにいた。
私は堅となんでも報告し合う間柄でもなければ、なにかあった時、1番に知らせが入る存在でもなくなったんだ・・
もうここに私の居場所はない。
あんなに終わりにすることを望んでいたのに、みんなが手術の成功に涙する中、私は突き付けられた現実に絶望し、ひとり打ちひしがれて涙を流し続けた。
そのまま誰にも言わずに病院を去り、みんなと距離おき、集会に顔を出すこともなく堅の見舞いにすら行かなかった。
何度も何度も堅やマイキーから連絡が入っていたが、私はひたすら無視を続けた。
堅が退院したのは、エマのメールで知った。
近くに住んでいるので、退院をしてしまうと必然的に顔を合わせてしまう。
そのため数少ない友人を頼りにできるだけ朝から出かけ、時には家に帰らず友人宅に泊まるようにしていた。
そんな努力もむなしく堅やマイキーからの連絡は止まらなかった。
そして何故かマイキーからの連絡はどんどん増えていった。
お世辞にも連絡マメには思えないんだけどな・・
このままじゃ忘れることができない。
どうしたものかと考えていた時に、恐れていた事態が起こってしまった。
家に戻ろうとした際に、ばったりマイキーと出会ってしまったのだ。
すぐさま逃げ出そうした私の腕を掴んで、それはそれは不機嫌そうな顔で「なにやってんの?」と言われた。
やばい・・。めちゃくちゃ怒ってる。
「ケンチンの見舞いにも来ねーし。何度連絡しても返事がない。どれだけ心配したと思ってんの?」
「いや、その、みんな色々あったみたいだし。部外者が邪魔しちゃ悪いかなって思ってさ。」
「は?!それ、本気で言ってんの?」
あ、本当にまずいキレちゃった。掴んでいる手に力が入り、腕がものすごく痛い。
「ちょっ。マイキー痛い。離して!」
「離したらまた逃げんだろ?今日は逃がさねーよ。」
腕は痛いし、マイキーが怖い。
そしてどう考えてもマイキーがここに1人でいるとは思えない。
頭の中で逃げろと警告音が鳴り響いている。
「何やってんだ?マイキー」
「ケンチン!ナマエ見つけた!」
ほら、やっぱりいた。
私の顔を見るなり堅の顔も、もはや般若が可愛いと思えるほど怖いものに変わった。
今ならマイキーにも勝てるんじゃないかと思う。
「ナマエ。お前今まで何やって・・」
ズカズカと音が聞こえてきそうな勢いで堅がこちらにやってくる。
マイキーもヤバいが堅も相当ヤバい。確実に殺られる・・。
もう観念するしかないと思ったその瞬間
「ちょっとーマイキーとドラケン何やってんの?」
「ちょっとナマエいつまで待たせんの?!」
マイキーと堅を待っていたエマと実は荷物を取った私が戻ってくるのを待っていた友人、双方から声をかけられた。
少しだけマイキーの手が緩んだ瞬間、思いっきり振り払い、友人の元へ走る。
「おい!こら待て!」
「ナマエ!!」
2人それぞれから叫ばれた気がするが、かまっていられない。
戸惑う友人を引っ張り、急いで客待ちのタクシーに乗り込む。
何事かという顔をしている運転手さんにとりあえず出発するようお願いする。
窓の向こうでとてつもなく怒っている2人が見える、心配そうな顔をしたエマも・・
やっぱり一緒にいたという目の前の現実に、諦めの悪い私は大きなショックを受けていた。
もう嫌だ。今すぐ忘れて楽になりたい。
出し切ったはずの涙が際限なく私の目から流れ続けていた。
邪魔をしたいわけじゃない。
ただ私にとっての堅は好きな人ってだけじゃなくて家族の同然な唯一の存在で。
堅がいなければ私は独りになってしまう。
それに引き裂きたいわけじゃないけど、仲よさそうなところ毎回見るのはやっぱり辛い。
どうしたら終わりにできるのだろう。
もう会わないようにするにはどうしたらいいのだろう。
本当は私だって素直に堅の幸せを願えるようになりたい。
ずっと答えが出ない問いかけが私の中でグルグルしてる・・。
「なんか、夏休みだから遊びまわってたわけじゃないんだね。話聞いた方がいい?聞かない方がいいかな?」
優しさがじんわりと沁みてくる。数はいなくてもいい友人に恵まれたようだ。
そこからは出来るだけで出歩かないようにしながら、友人宅に居候のようにお世話になっていた。
引きこもりながらも鬼のように来ている連絡に一応は目をとおす。
そこには堅よりも誰よりもたくさんマイキーからの連絡が入っていた。
今日こそ集会にこいとか、電話くらい出ろとか、会いたいなんていうのもあって少し驚いた。
確認した最後のメールには、
「なんでお前にはケンチン以外が見えないの?」
となかなか辛辣な内容が書かれていた。
堅がすべてだと思っていた。だって唯一の家族だし。
でももう進まなきゃ。
それにマイキーの言う通りだと思った。この世界には堅以外にも男はたくさんいる。
終わりにできないままでも無理矢理でも前に進めばいつか想い出になるんじゃないだろうか。
また、みんなと笑って会えるようになるのではないか。
そんなことを少しは考えるようになったと友人に話したら、本気なら出逢いの場を作る!とても張り切ってくれた。
そして夏休みも終わりかけたころ、友人主催の出逢いの場、もとい合コンが開かれることになった。
当日、渋谷駅で相手方と待ち合わせとなっているため、できるだけ気配を消しながら友人と向かう。
そこで病院でも会った新顔の少年とその彼女に会ってしまった。
少年ことタケミっちは、今までどこにいたのか尋ねてきたが、急いでると断りを入れ、すでに待ち合わせ場所にいたちょっとチャラそうな大学生の元へ向かう。
後ろから「あれって合コン・・?」というタケミっちのつぶやき声が聞こえたが、気づいてないフリをした。
見かけに反し、集まった中の1人を除いて、大学生達は紳士的だった。
友人も楽しそうにしている。
ただ、やっぱり私はここにいることに違和感がある。
そして好きな男に振り向いてもらえないからといって、他の出逢いを求める自分のバカな行動に嫌悪感が沸いてきた。
そのとたん、気分が悪くなってきてしまい、申し訳ないと思いつつ、友人に少し外の空気を吸ったら帰ると断りを入れて会場となっていたカラオケを出た。
すっかり夜の様相になった渋谷はお世辞にもきれいな空気ではないけど、慣れ親しんだ中で深く息を吸い込めば気持ちが落ち着いてきた。
もう少し休憩したら先に帰っていようと思いながら、街中を歩いた。
「あ、いた。やっと見つけた。」
「え?」
振り返るとそこには合コンにいた中で、総スカンを食らっていたチャラい大学生がいた。
「急にナマエちゃんいなくなっちゃうんだもんー。さみしかったよ?てかどうしたの?つまんなかった?」
退屈なら、一緒にどっか行こっか!などと言いながら肩を抱いてきた。
慣れ慣れしいな、というか触らないでほしい。
「ちょっと、やめてください。」
最悪だ。面倒な奴に目を付けられてしまった。
「まあまあ、なんか嫌なことあったんでしょ?俺、忘れさせてあげるよ?ちょうどいい所もあるし。」
力任せに押されるように足が向かった先は、渋谷でも有名なラブホ街だった。
どこまでチャラいんだ。
「とりあえず離してください。」
「えー。なに?聞こえない。」
この野郎!と思うが力が強くて少しずつホテルの入り口が近づいてくる。
なにも抵抗が出来なくて悔しくなる、結局、私は1人じゃ何もできないのか。
「大丈夫。ちゃんと俺が慰めてあげる。嫌なことなんかすぐ忘れられるって。」
いい加減抵抗すんのも疲れてきて、むしろもう引き返せないとこまでいってやろうかと思う。
そうすればいい加減、諦めもつくか・・
所謂、自暴自棄に陥った私は抵抗をやめそのまま流されるように、相手に合わせて足が進む。
「悪いけど、それ俺の役目だから。部外者はすっこんでろ。」
ドガっ。とすごい音がしたかと思えば、隣にいた男が吹っ飛んでいた。
そして私を庇う様に前に現れたのは、堅の横にいつもあった見慣れた背中だった。
「マイキー・・・」
後ろ姿からすでに怒りが伝わってくるが、助けられたことにホッとして思わず声が出る。
「お前さ、本当いい加減にしろよ。なにやってんの?」
「ごめんなさい・・・。」
あまりの顔の怖さに声が小さくなるが、なんとか謝罪を返す。
「タケミっちがすぐ知らせてくれて助かった。見つかってよかったよ。」
そういうことか、心優しい少年のお節介に感謝する。
そうこうしているうちに
「ナマエ!!!!」
「え・・・?」
振り返るとそこには、これまた怒りをあらわにした堅がいた。
「今までどこにいたんだよ!なんで避けてんだ!」
怒鳴り声が大きすぎて野次馬さえも逃げていく。
でも、堅も一緒に探してくれてたのか思うと怖いけど少し嬉しくなる。
「てめー。何笑ってんだ?」
地を這うような低い声が響く。
「あ、ごめん。いや心配してくれたんなら申し訳ないんだけど、ほら、そのさ、色々邪魔しないようにって思ってさ。」
「はぁ?お前何言ってんだ?」
心底訳が分からないといった顔をした堅が言う。いや、こっちこそそれ本気で言ってるのか聞きたいんだけど・・
不意に頭に手が伸びきて思わず目をつむるとそのまま堅の体に引き寄せられていた。
身長差がありすぎて胸の下の方に頭があたる。
「家族はお互いしかいないだろうが。何勝手にいなくなってんだ。」
その言葉にびっくりして固まる。あれ?私はどうでもいいんじゃないの?
「私ってまだ家族なの?一緒にいてもいいの?」
「あ?家族ってなくなるもんじゃねーだろ。わけわかんねーこと言ってじゃねーぞ?」
私が勝手に空回ってただけで、堅は変わってなどいなかったのか。
恋人じゃなくても私の居場所は堅の中にちゃんとあったのか。
思わず涙が出そうになった瞬間、「はい!終わり!」と声が聞こえて堅から引っぺがされた。
「あ?なんだよマイキー。」
「もういいでしょ。家族はそんなひっつかなくていいの。」
「あぁ?」
え?なんでこの2人こんな一触即発みたいになってんの?なんかあったの?
「それに、今からは俺の番だから。」
行くよ、ナマエ。と言いながら私の手を引きながらどんどん歩いていくから、戸惑ってしまう。
そこに、後ろから堅の声が聞こえる。
「おい。マイキー!あんまり困らせんなよ!」
「それはちょっと約束できないなー。もう遠慮しないって決めたし。」
堅が苦虫をつぶしたような顔をしているのが見えるが、マイキーは構わず私の手を掴んだままどんどん進んでいく。
しばらくするといつも集会に使っている神社にたどり着いた。
と言っても今日は私とマイキーしかいない。
ここに来るまでマイキーは無言になってしまい、私もなんて言っていいかわからず黙ったままだった。
そのまま無言を貫くマイキーにさすが気まずくなってきた。
なんかいろいろあって忘れそうだったけど、よくよく考えたら見つけてくれたのも助けてくれたのもマイキーだと思い出した私は、あらためてお礼と謝罪をするために口を開いた。
「マイキー、助けてくれてありがとう。心配かけてごめんね。」
「やだ。」
「え?」
謝罪拒否されたことに驚いてしまう。相当怒っているに違いない。
ちょっと厄介だなとため息とついているとマイキーの言葉が続く。
「心配したし、連絡も無視するから傷ついた。」
嘘つけそんなタマじゃないだろう!と口に出すのは恐ろしいので心の中でツッコみを入れる。
「許してほしかったら、お願い聞いて。」
でた。マイキーがよく言うセリフ。面倒くさいけど、どうせいつものたい焼き買ってきてとかそんなだろうと思いたかをくくる。
「わかったよ。何したらいい?」
そう言った私にマイキーは驚きの発言をした。
「これからはケンチンじゃなくて俺のことみて。」
「は?」
何を言われてるのか理解ができずに思わず目を見開いた。
「これから先、ナマエの隣いるのは、俺にして。
ナマエの涙を拭くのも、ナマエの居場所になるのも全部俺がいい。
でも、ケンチンの代わりになりたいわけじゃないよ。
俺だけをナマエの中の特別にしてほしい。
ずっと好きだった。」
普段のマイキーからは想像できないような、真剣さと男らしさに驚きを隠せない。
堅以外に居場所なんかないと思っていた私を見ててくれたのだろうか。
そう思うと、結局自分のことしか考えてなかった情けなさや申し訳なさ、見てる人がいたことの嬉しさがごちゃ混ぜになって目の前が滲んできた。
ただ、いまだ気持ちの整理がつかない自分ではマイキーの気持ちにこたえるわけにはいかない、そんな都合のいい話はないだろうと思う。
「ありがとう。びっくりしたけど、気持ちは嬉しい。でも「ストップ」え?」
「返事とかいらないから。
断られても拒否するし。
ナマエの中でケリがつくまで待ってようと思ったけど、今回みたいに逃げ出されちゃたまんねーから言っただけ。
大丈夫、これから俺のことしか考えられないようするから。」
断るのを拒否ってなに?てか、それよりもさらに不安要素しかないことを言われた気がするんだけど・・
不安な私をよそに、「いい加減、今日は家帰るよ。」なんて言いながらマイキーは当たり前のように手を繋いで歩きだした。
これからのことを考えると頭が痛くなるが、繋いだ手から堅とは違う包み込むような優しい強さを確かに感じていた。
その後、久しぶりに自分の家に帰り、待ち構えていた堅にさらに長―いお説教を食らいエマに泣きつかれた。
あまりに長いお説教にぐったりしながら、なかなか泣き止んでくれないエマを慰め謝り続ける私を隣にいるマイキーはニコニコと見ていた。
みんなでご飯を食べた後なぜか全員帰らず、そのまま4人で雑魚寝した。
1人用のワンルームは4人で寝るには狭すぎたけど、私は夢も見ないほどぐっすりと眠った。
それからは以前とは少し変化しつつも変わらない日常が戻ってきた。
変わった点は、私が堅ひっついていなくても、毎日マイキーが迎えにきて集会に顔を出すようになったことで、帰り道も堅がいてもいなくてもマイキーが必ず送ってくれた。
今日もまたいつもようにエマと堅のじゃれ合いを眺めながら、そっと横にいるマイキーを見る。
飄々とした顔をみていたら、マイキーの隣がいつの間にか私の定位置になっていることに気づいた。
「ん?どうした?」
「な、なんでもない!」
急に顔を向けられ焦る私が、いぶかしがるマイキーの視線から逃げようとした時、助けを求める三ツ谷の声が聞こえた。
「おい!いい加減あれ止めてくれよ。」
「わかった!」
待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がろうとした私の体は何故か動かなかった。
見ればマイキーが私の腕をがっちり掴んでいる。
だから力強いって。
「行っちゃダメ。ナマエはここにいて。」
「はい?」
謎の妨害に私もだけど三ツ谷が戸惑ってる。
「どうせじゃれ合ってるだけなんだからほっとけよ。いちいちケンチンのとこ行かないで。」
今度から俺のこと放置してケンチンのとこに行くごとにデートしてもらうから。と悪魔みたいな笑顔のマイキーに囁やかれたせいで、真っ赤になって固まってしまった。
「おい。マイキー!困らすなっつってんだろ!!」
いつの間にかそばにやってきていた堅が間に入ってマイキーに怒鳴る。
「ちょっとケンチン~。邪魔しないでよ。小姑みたい。」
「あんだと?!」
そのまま始まったマイキーと堅のじゃれ合いを茫然と眺める。
きっとマイキーが言ったとおり、私の頭の中が彼で埋め尽くされるのも時間の問題なんだろう。
これから始まる、マイキーに振り回される日々を想像して溜息が出た後、笑顔が込み上げてきた。
まぁ、それも悪くないか、マイキーはずっと私のことを気長に見守ってくれたわけだし。
実らない初恋を終わらせる方法は、新しく始まる恋かもしれない、そんな少女漫画のようなことを柄にもなく思った私は今度こそじゃれ合いを止めるべく立ち上がった。