パラレルの行く先
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アーロとの信頼関係の構築というものを目指して日々共にしていると、水中では比較的呼応できることが分かった。
スクアーロを乗せて泳ぐと尚のこと。
やはり水の中では刺激を感知する能力が高いのだろうか。
ジムに併設しているプール内で、訓練用に作らせたターゲットを狙わせる。
最初はアーロの行動の癖や意思を読み取るのに難儀したが、漸く推測できるくらいには慣れてきていた。
基本的にはやはり兵器。
攻撃への本能があるようで、殺気や向かってくるものに対して攻撃態勢をとるのがうかがえる。
向きをそちらへ向けるだけなのでそれが攻撃態勢だと理解するのも難題だったが、直線上でしか攻撃手段がないアーロにとってはその行為は大前提で最重要なのだろう。
「右から行けぇ」
アーロのトップスピードは速い。
用意された水中ターゲットは限られた範囲を縦横無尽に逃げるのだが、アーロも機敏に動きを変え、鰭や尾を駆使して掠め捕らえる。
触れてしまえばこちらのもので、あとは徹底的に機能不全になるまで弄ぶ。
だがその巨体をトップスピードまで上げることは一瞬では不可能に近い。
どちらかというと大型トラックのように徐々に加速し、重量と掛け合わされた突進力を誇るのだ。
左右へのシフトは全身に纏う筋肉と肌、鰭、その全てが完璧なまでに機能していて不自由なく、水中ターゲット相手ならばもう練習にもならないほど。
だが、水中の戦いなんてそうそうありはしない。陸上では雨の炎で浮力が掛け合わされてはいるものの、逆に速さは漸減されてしまう
炎の注入を増やせば火力も出るが、リスクを考えると安易には出来ない。
それでも匣からこの体積のアーロを射出するスピードを考えれば奇襲としては直接攻撃も現実的と言えるだろうか。
つまるところ陸上戦で遠距離攻撃の幅が少ないアーロにとって、姿を現してからの攻撃は致命的であり、奇襲、及びカウンターを主体とする動きが主体になってくる、という事だ。
(…回りくどくなくて大変結構だが )
以前の自分なら特攻による撹乱だどうだと言っていただろうが、事実、直線的な攻撃は格好の的であることはよく理解している。
自分のスタイルを変えることは一切考えていないため、火薬仕込みや自身の反射速度、駆動閾を超えることでカバーしてきた。
そこにアーロという存在がプラスされたはずなのに、まさかアーロの弱点も自身と一緒とは一興だ。
せめて自身で機転が利かせられるくらいの経験値を積ませたい。
匣兵器であるアーロが果たして経験というものを蓄積してくれるのかどうかはこの際触れないでおこう。
ひと月ほどあちこち飛び回り、戦闘以外にも人や機械、役に立つのかはわからないが、天災のいくつかも経験させることが出来た。
何よりの成果は簡単な指示をサインを通しながら少しずつ理解できるようになっていることだ。
戦闘に使えるわけではないが、道中の行く先や行動の制限であったり。
さらには泳がなければ出来ない呼吸を、炎を体表で流れさせることでアーロが“停止”出来るようになった。
最初はこちらからアプローチをかけて流してみたのだが、見よう見まねで自分でするようになったのだ。
やはり鮫は知能が高い、そう感じざるを得ない。繰り返し伝える言葉なら既に反応を示すようになってきているから、潤滑な意思疎通はもう見えているようなものだ。
普段は動いていないと気が済まないのか部屋の中をぐるぐる泳いでいるのだが、視線がぶつかると気づいたように止まるのが面白い。
感情は無いだろうし、こちらの勝手だが慌てているように見えるのだ。
それも、こちらが目を離したらほっとしたようにまた泳ぎ始める。といったように。
寝転んで見上げていると、まるでアトラクション色の強い水族館にいるようだ。
何も考えず、本能に任せて動いている。
見ていて気持ちのいいものだった。
「あっ!おーいスクアーロ!」
「いたなぁ山本」
相も変わらず野球をしている山本の姿を見つける。
やはり普段の姿と真剣の殺気が噛み合わない。
馬鹿げたやろうだ。
「何しにきたんだ?観光か?」
「ンなわけねぇだろぉ!!!てめぇの腕が鈍ってねぇか確認しにきたんだぁ!」
「へぇ!いいぜ!じゃぁスクアーロ!マウンド上がれよ!」
「馬鹿かぁ!!野球のじゃねぇ!!!」
「いいからいいからっ」
「獄寺くん…俺、ここにいるはずない見覚えのある人が見えるんだけど」
「いいえ気のせいです10代目、今日はさっさと帰りましょう」
野球対決が始まって3球目。
「スクアーロ、次がないぜ!このままいけば俺の勝ちなのな!」
顔面に当たるように投げ続けるも避けられてしまいフォアボール。
そんなの知ったことじゃねぇが負けるのは癪、ただそのままこいつの言う通りにするのも癪で。
いつのまにかギャラリーもちらほらいる。
あまり注目を集めるのも面倒だ。
「う〝おぉい山本ぉ!これが終わったら匣持って裏山まで来やがれ!いいなぁ!」
「おーいいぜー!!」
返事をもらうやいなや、左を振りかぶってミットまで放り込む。
バスンッ
いいキャッチャーじゃねぇか、とミットに収まったボールに驚く。
「ひえぇ〜あいつ本当は左投げなのな…今度草野球誘ってみっかな…」
左は義手。投擲するには肩と肘に負担がかかりすぎる上コントロールはいちかばちか。
ここぞで本領発揮できる性格が幸を制し、ボールは見事にストライク。
ただでさえ酷使してるのだ、それに耐えられる筋力をつけているのだから、マウンドからバッターボックスまでの距離ぐらいなら一般的な豪速球くらいは放てる。
じゃああとでなと叫ぶ山本を背に足早に後にする。
「ちっ、そんなもんに使うために鍛えてるんじゃねぇよ…」
さっさと時間つぶし出来るところを探そう。
日本に来るのも久しぶりだ。
イタリアからは流石に遠く、渡航も滅多にない。
さっさとガキ共が卒業してボンゴレ本部に引っ越せば面倒も減るのだが。
三代目剣帝はきっとあいつがなるだろうと、いや、あいつにすると決めている。
すでに一度負かされている身だ。今負ける気はさらさら無いがあいつが他の奴に負けるのは腹立たしい。
「ちゃおちゃお」
「…!」
「山本を鍛えに来たのか?」
見たことある赤ん坊だ、この口調、沢田のとこのガキだったか。
「あぁ、またボール遊びしてやがるだろうと踏んでなぁ」
「…鍛えてやるのは歓迎だが、あんまりいじめてやるんじゃねぇぞ」
「あぁ?」
「山本から野球を取ったら、お前が負けた山本の剣は無くなるぞ」
「…?どういうことだぁ」
「じゃぁな」
ひらっと消える。
「あっガキ…っ」
不思議なやろうだ、マーモンといい、アルコバレーノってのは底が見えない。
帽子に乗ってた爬虫類の目がしっかり俺を見ていたのも気に食わず、…そういえばマーモンにはアニマル匣はねぇなとふと思うも、いつも頭に変なものが乗っているのを思い出す。
そういえばフランも。
幻術で作り出せるからだろうか。
不意に紅茶のいい香りがしてカフェに立ち寄る。
ひっそりとした佇まいで客もあまり入っていないが、学校から裏山までの道沿いにあり、時間つぶしにはいいだろうと店内に足を運んだ。
ベルトにかけたアーロの匣が出たいと震えているがもう少し待ってろと言い聞かせつつアールグレイを啜る。
口に入れるものに関しては、食べられるものならなら味が悪くたって構わないがうまいものはうまいので良い。
壁に埋め込まれた本棚には古雑誌が並べられ、飾り気のない曲と食器。
連れのないものばかりが点々といるだけの店内は静かで、天井に吊るされたシーリングファンの音まで聞こえてきそうだ。
うつらうつらしていると、だんだん日が傾いてきた。
まだ夏の気候だが冬が近づいてきている。
窓から影が伸びるのを眺めていると、見知ったエナメルのスポーツバッグが見えた。
慌てて勘定を済ませ店を出る。
「う″おぉい!遅ぇぞぉ!」
「スクアーロ!いたのな、びっくりした!」
後ろから呼び止めると言葉通り心底びっくりした様子で笑う。
紛れもなく子どもだ。
「さっさと行くぞぉ!」
「いいけど絶対腕落ちてるからなぁ…ま、なんとかなるか!」
どうしてこいつに負けたのか。
剣の腕は認めても、人となりが認められない。
「あっ、でも竹刀取ってくるからよ、先に行っててくれ!」
「あぁ!?得物くらい肌身離さず持ちやがれ!!2分と待たねぇぞぉ!!」
「ひぇ〜おっかねぇ!」
まるで暖簾に腕押し糠に釘。
欠点でもあるが長所でもあるんだろう。
未来の記憶で剣を鍛えた時のあいつの意志は疑うことなく本物だった。
あの振る舞いで、剣帝という名を軽んじられなければいいのだが。
(腕が本物ならその必要はねぇか…)
平和ボケした山本の腕はすっかりぬるまっていた。
反射速度は一級品だが真剣にもキレがなく匣を出すも芸がない。
最終的には腹が立って握り拳を叩き込んでしまった。
徐々に勘は取り戻してきたのか表情が変わったがそれだけではどうにもできずにいた。
やはり定期的に顔を出す必要があるようだ。
「やっぱスクアーロの剣は痺れんな〜」
「当然だ、そういう技だぁ」
「ちげぇってそういう意味じゃなくってよ…」
俺じゃない俺の記憶を知ってから焦りもある。
匣兵器は有り難いものだが、このアーロ以外俺には扱えない。
道具なんかは出し入れすればいいだけだろうが、それも任務上や必要に限る。
山本なんかはうまく二体のアニマル匣を駆使していたが、未来の俺が他の匣兵器も、指輪さえもしていなかったのがおそらく証拠。
夢で得た記憶はユニの知る範囲のものに限られていて自身がどのように戦っていたのかも分からない。
渡航には時間がかかる。己を振り返る時間も増えるというもので。
戦闘に関してなら相手の技を見切ることには自信があった。
だが、こと匣になると常人の為せる技じゃない。
それも常人(本当は達人の域なのだがスクアーロ達にとってはの常人)であれごろごろと匣から思いもよらない特殊なものを出すのだから堪ったものじゃない。
都合のいいことに自身のアーロなら敵の匣を無効化することが出来る。
スクアーロにとって持ってこいの匣だった。
匣だよりの連中ならアーロを持ってすれば一撃でのせる。
それでも押してくるやつがいれば俺がボコボコに始末するまで。
だが、アーロで無効化出来なければ?剣ではどうにもならないことがあれば?
それは、普段は叩き斬るだけだと豪語するスクアーロでも、ナーバスになるほどのことだった。
時代は変化する。それも、考え得るよりも急速に。
夢で見た10年後よりももっと早くに匣は広がるだろう。
確実に未来は変わってきている。
そしてこの変化を感じ取れないやつはヴァリアーにはいない。
口に出さずとも、打開策を各々講じていることだろう。
有難いことに匣での戦闘がどういうものかも知ることが出来た。
ボンゴレのガキ共の戦い方も。
そして世界ごとボンゴレが無くなるという最大の危機も去った。
共通の敵がいなくなればおそらく、もう一度ゆりかごが実行される。
幹部全員それを感じ取っている。
あのボスが1度負かされたくらいで大人しくするたまじゃないことなんて百も承知。
いつ実行を促されても動けるように、歯は研ぎ澄まさなければならない。
その時はボンゴレボスの座を、明け渡してもらう。
(血が拒んでも、俺が許さねぇ。)
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