女であるということ
ここは''司法の島''エニエス・ロビー。偉大なる航路 前半に位置する世界政府の直轄の地である。
私は世界政府直下暗躍謀報機関サイファーポールNo.9、通称CP9の一見習いである。戦闘面では特に目立った能力はない。今はまだ外での任務はほとんどなく、日々鍛錬に励んでいる。
今日も日課の鍛錬を終わらせ、部屋に戻ろうとしたところで腹部にどろりとした感覚があった。しまったと思わずその場に留まる。
2、3日前から頭痛と倦怠感があり、ここ最近司令長官であるスパンダムに事務処理を押し付けられ、終わった後もすぐ鍛錬をして、とかなり身体の負担が多かった。
ズクズクと痛み始めているお腹をさすりながらトイレの個室に入る。確認してみるとやはり生理が始まっていた。
月一でやってくる生理は、私にとって嫌なものでしかない。まだ17歳というのもあり、症状が重いのが原因だ。特に生理痛がひどく貧血になりやすい。
CP9であるカリファさんは20歳という若さで活躍しているが、なんでもカリファさんは症状が軽いらしく、戦闘面にもほとんど影響がないそうだ。
私なんて2日間は使い物にならないのに。どうして自分だけが、とカリファさんは何も悪くないのにそんな思考になってしまう自分がもっと嫌になる。
早く部屋に帰って安静にしておこうとトイレから出て部屋の方に向かう。
部屋までの道のりが残り半分にさしかかろうとした辺りで身体中から血の気が引いていくような感覚があり、だんだんと視界が真っ白になっていく。私はこれ以上立っていることができないと思い、ゆっくりと身体を丸めるようにしてしゃがみこんだ。
無理をすると後から辛くなるのは分かっているので一度休憩してから戻ろうと目をつぶった。
__
しばらく経っただろうか。時間なんて気にする余裕が無くなるくらい体調が悪化してきていた。生理痛の痛みと貧血で汗が出てきてふぅふぅと息を吐く。これは今よりマシだった内に部屋に戻るべきだっただろうか。なんて、もう過ぎたことをうだうだと考えてしまう。
「こんなところで蹲るな」
ふと頭上から声が聞こえ、うっすらと目を開けると目の前にはCP9の実質的リーダーであるロブ・ルッチがポケットに手を入れ、ギロリとこちらを見下ろしていた。肩にはハトのハットリがのんきにクルッポーと鳴いている。
ルッチさんはCP9の歴代最強と言われている人で13歳の時には既にCP9に所属していたらしい。彼は既に六式を完成させており、全て中途半端な私とは比べ物にならないほどすごい人なのだ。
「少し休憩したら…、っ移動しますので…」
痛みで声を出すのにも精一杯で、どうにか通路を塞いですみませんと絞り出し、ルッチさんが早く通りすぎてくれるのを待つが、羨ましくなるほどの長い脚が歩き出す気配はない。なぜ?頭の中で疑問符を浮かべている間に、お腹の下辺りがえぐられるような痛みが断続的に襲ってくる。私はぐっ、と痛みに耐える。この痛みに耐えられるんだったら並大抵の怪我くらいじゃ痛くも痒くも無さそうだな、なんて思う。
「怪我でもしているのか」
ルッチさんはスンと匂いを嗅いだあと、ピクリと片眉を上げた。
「…いえ。…やっぱり、部屋に戻りますね」
身体が訴えてくる痛みを無視してフラフラと立ち上がる。これ以上ルッチさんに迷惑をかけられないと思ったからだ。さっさと部屋に戻って寝たらマシになるだろう。明日には痛みも治まってる。きっとそうだ。そう信じて壁伝いに部屋に戻ろうとしたが、身体の力が抜け視界が傾いた。
「あ、れ?」
あ、これは頭から落ちるな、そう思ってキュッと目をつぶったが、いつまで経っても衝撃は訪れなかった。私の身体はルッチさんの筋肉質な腕でしっかりと支えられていた。安心で力が抜け身体が重力に従う。しかし、そのまま地面に着くことなく次の瞬間には全身が宙を浮いていた。
「無理をするな」
ルッチさんはそう言って、私を横抱きにしてスタスタと歩き出した。
「っぁ、の…!ルッチさんに迷惑をかける訳には」
私が言った言葉にも意に介さず、私を抱えていることをものともしない速度で進んでいく。しかも身体に負担がかからないようにか振動がほとんど来ない。
ルッチさんはこちらを見て、月のものか、と聞いてきた。疑問符をつけるのが申し訳なくなるくらい断定的だったその言葉におずおずと頷く。
「そうか。なら無理をするな」
「行き先は医務室がいいか?…それとも部屋の方が?」
「…部屋が、いいです…」
確か以前医務室で出してもらった痛み止めの薬がまだ部屋に残っていたはず。それに医務室のベッドは落ち着かない。そう思い部屋の場所を伝え、私は痛みに耐えるために目を瞑った。
「着いたぞ」
私の部屋にはすぐに着いた。意外と部屋まで距離があったのにルッチさんにとっては大した距離にもならないようだ。足の長さも私と雲泥の差がある。
立ち止まっていたルッチさんは私を抱えているにも関わらず、がちゃりと器用に扉を開け部屋に入る。
そして私を窓際のベッドにそっと横たわらせ布団までかけてくれた。
「っありがとう、ございました」
生理痛の痛みで見動きが取れずに横になったまま礼を言う。下腹部に重く抉られるような痛みにうぐぐと歯を食いしばる。痛み止めの薬は早いところ飲んでおきたいけれど動けないなら仕方が無いと今は諦める。
「構わん。それで何かして欲しいことはあるか?」
私をベッドに寝かせたら帰ると思っていたルッチさんはまだ世話を焼いてくれるらしい。CP9の中でも優秀なルッチさんの手を煩わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そんな…っは、申し訳ない、です」
「いい。好きに使え。それで?」
「で、では…2段目の引き出しの…痛み止めの薬、取って欲しいです」
「これで合ってるか?」
「は、い」
薬を私のところに持ってきてくれたルッチさんは少し待ってろと言い置いて部屋のキッチンの方に入っていった。少しして戻ってきたルッチさんの手にはコップに入った水があった。わざわざ水まで用意してくれたらしい。
「起き上がれるか」
私は力無く首を横に振る。
ルッチさんはコト、と持っていたコップをテーブルに置き、私をそっと抱き起こしてくれる。その後に渡された水と一緒に薬を飲む。早く痛みが治まるといいんだけどな。効果は抜群だが効き始めるまでに少し時間がかかるためもうしばらく痛みに耐える必要がある。
「他には?」
「…もう大丈夫、です…」
もう大丈夫なんてそれは嘘だ。本当はこのつらい時に誰かがいて欲しい。ルッチさんに部屋から出て行って欲しくない。1人では寂しくて耐えられないのだ。
「気を遣う必要は無い」
ルッチさんは私の言葉が本当ではないことがわかったのだろうか。その一言で心にじんわりとした暖かいものが広がる。
「…そばに、いてくれませんか」
「わかった」
パタタッとハットリがルッチさんの肩から窓際に降り立つ。そしてルッチさんは私の狭いシングルベッドに入ってきた。ルッチさんは横に寝転がって肘をつく。
「…え?っえ」
急な展開に脳が追いつかない。
「ほら。もっとこっちに寄りかかれ」
身体を引き寄せられ、布団が掛けられるもされるがままである。私の頭は疑問符で埋めつくされている。てっきりベッドのそばに座ってくれる程度だと思っていたのだ、私は。思わずひぃと小さく悲鳴をあげる。密着した身体から私よりも暖かく心地よい体温が伝わってくる。
「どこが痛いんだ?」
「お腹の下らへん…が、」
「この辺りか?」
ルッチさんの大きな手がお腹の少し下側をするすると撫でる。私はその言葉に頷く。ルッチさんの手によってお腹がじんわりと温まっていく。なんだか痛みが軽減していっている気がする。
それにしてもルッチさんが優しすぎる。抱き起こす時もあの筋力からは想像できないような優しい力でそっと抱き起こしてくれたし、声も普段より柔らかさがあるような気もする。こんなに甲斐甲斐しく世話をしてもらっていいのか。まだCP9でも下っ端の自分が…。どんどん思考がマイナスになってくる。惨めさに涙が滲んできた。
こんなに良くしてもらっても返せるものはないのに。仕事ではまだまだ役には立てない。なんでこんなに何も出来ないんだろう。今回はいつもよりメンタルにキてるなぁ、なんて思うが自分でも制御出来ない。気分が沈んでしまってどうしようもなくなる。
「おい」
その言葉でぐるぐるしていた思考が引っ張りあげられる。ルッチさんと目が合う。
「内に溜め込むより吐き出した方が良い。今なら吐き出す相手もいるしな」
ルッチさんはニヤリと口角を上げる。気がつけばルッチさんの胸元に顔を埋めて感情を吐き出していた。
「なんで、こんなつらい思いをしなきゃいけないの…っ」
「…あぁ。よく頑張ってる」
「お腹、痛いし、…っ身体もきつい」
「そうだな」
「…仕事でも全然役に立てないし」
「自分を卑下するな。お前はよくやってる」
「それに…ルッチさんに迷惑をかけてしまってるし…」
「俺は気にしていない。なんなら毎月付き合ってやるが」
「何よりこんな弱い自分が嫌」
「お前は弱くない。…今日明日はゆっくり休め」
ルッチさんは自分の泣き言を全部受け入れてくれる。感情が抑えきれなくなって目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「泣くんじゃない」
ルッチさんにそう言われたが、涙を止めようとしても溢れ出す涙は止まらない。
「な、なんで…」
服の袖で擦っても止めることは出来ない。ゴシゴシと目元を擦る。
ルッチさんは私の頭を自分の方へ引き寄せ、後頭部を撫でてくる。
「悪かった。わざわざ止めなくていい…擦ったら目が腫れるぞ」
そう言ってルッチさんは私の涙を拭う。
「…なんでこんなに優しくするん、ですか」
「弱ってる女を放っておくほど甲斐性のない男では無いんでな」
そう言って、ルッチさんは口角を少しだけ上げた笑い方でフッと笑う。
「み、耳元で笑うの、だめです…!」
「なんだ、嫌いか?」
ルッチさんは流し目でこちらを見ながらククッと喉奥で笑う。顔が熱い、見なくてもわかる。今絶対に顔が真っ赤になっている。ルッチさんはなんてずるい男なんだ。今も楽しそうに私の方を見てクツクツと笑っている。
私はこれ以上見られるのが恥ずかしくなり目元まで布団を引っ張りあげて顔を隠した。
ようやく薬の効果が効き始め痛みが引いてきたようだった。私は詰めていた息を吐き出しゆっくりと呼吸をする。
「痛いのはマシになったか」
「…はい、大丈夫そうです」
「ほら、そろそろ休め。お前が寝るまではそばにいてやろう」
私はルッチさんのその言葉に安心する。
「本当に、ありがとうございました…」
ルッチさんに感謝の言葉を伝え、意識が緩んだのかだんだんと眠気が襲ってくる。
「おやすみ」
「は…い、おやすみ…なさい」
ルッチさんとおやすみの挨拶を交わし夢の中に微睡んでいった。薄れゆく意識の中でハットリのクルッポーという鳴き声が聞こえたのだった。
──
他の女性たちより症状が重めの女の子(17)
生理は痛いし心が弱くなるからキライ
CP9達には基本さん付け
ルッチさんとは今回がほぼ初対面。
カクとは歳が近いこともあり仲がいい
戦闘はあまり強くはない、事務仕事の方ができる
悪魔の実の影響で鼻がいい男
女性に優しくできる紳士。弱っている女性なら尚更
これから月一でベッドに引きずり込んで看病するようになる
お礼?当たり前のことをしただけだ
自分のミスは部下のミスな司令長官
重要書類がないィ!?そうだ、あの女のせいにしてやれ!ワハハハ!
続きは長官が大事な書類と一緒に捨てました
私は世界政府直下暗躍謀報機関サイファーポールNo.9、通称CP9の一見習いである。戦闘面では特に目立った能力はない。今はまだ外での任務はほとんどなく、日々鍛錬に励んでいる。
今日も日課の鍛錬を終わらせ、部屋に戻ろうとしたところで腹部にどろりとした感覚があった。しまったと思わずその場に留まる。
2、3日前から頭痛と倦怠感があり、ここ最近司令長官であるスパンダムに事務処理を押し付けられ、終わった後もすぐ鍛錬をして、とかなり身体の負担が多かった。
ズクズクと痛み始めているお腹をさすりながらトイレの個室に入る。確認してみるとやはり生理が始まっていた。
月一でやってくる生理は、私にとって嫌なものでしかない。まだ17歳というのもあり、症状が重いのが原因だ。特に生理痛がひどく貧血になりやすい。
CP9であるカリファさんは20歳という若さで活躍しているが、なんでもカリファさんは症状が軽いらしく、戦闘面にもほとんど影響がないそうだ。
私なんて2日間は使い物にならないのに。どうして自分だけが、とカリファさんは何も悪くないのにそんな思考になってしまう自分がもっと嫌になる。
早く部屋に帰って安静にしておこうとトイレから出て部屋の方に向かう。
部屋までの道のりが残り半分にさしかかろうとした辺りで身体中から血の気が引いていくような感覚があり、だんだんと視界が真っ白になっていく。私はこれ以上立っていることができないと思い、ゆっくりと身体を丸めるようにしてしゃがみこんだ。
無理をすると後から辛くなるのは分かっているので一度休憩してから戻ろうと目をつぶった。
__
しばらく経っただろうか。時間なんて気にする余裕が無くなるくらい体調が悪化してきていた。生理痛の痛みと貧血で汗が出てきてふぅふぅと息を吐く。これは今よりマシだった内に部屋に戻るべきだっただろうか。なんて、もう過ぎたことをうだうだと考えてしまう。
「こんなところで蹲るな」
ふと頭上から声が聞こえ、うっすらと目を開けると目の前にはCP9の実質的リーダーであるロブ・ルッチがポケットに手を入れ、ギロリとこちらを見下ろしていた。肩にはハトのハットリがのんきにクルッポーと鳴いている。
ルッチさんはCP9の歴代最強と言われている人で13歳の時には既にCP9に所属していたらしい。彼は既に六式を完成させており、全て中途半端な私とは比べ物にならないほどすごい人なのだ。
「少し休憩したら…、っ移動しますので…」
痛みで声を出すのにも精一杯で、どうにか通路を塞いですみませんと絞り出し、ルッチさんが早く通りすぎてくれるのを待つが、羨ましくなるほどの長い脚が歩き出す気配はない。なぜ?頭の中で疑問符を浮かべている間に、お腹の下辺りがえぐられるような痛みが断続的に襲ってくる。私はぐっ、と痛みに耐える。この痛みに耐えられるんだったら並大抵の怪我くらいじゃ痛くも痒くも無さそうだな、なんて思う。
「怪我でもしているのか」
ルッチさんはスンと匂いを嗅いだあと、ピクリと片眉を上げた。
「…いえ。…やっぱり、部屋に戻りますね」
身体が訴えてくる痛みを無視してフラフラと立ち上がる。これ以上ルッチさんに迷惑をかけられないと思ったからだ。さっさと部屋に戻って寝たらマシになるだろう。明日には痛みも治まってる。きっとそうだ。そう信じて壁伝いに部屋に戻ろうとしたが、身体の力が抜け視界が傾いた。
「あ、れ?」
あ、これは頭から落ちるな、そう思ってキュッと目をつぶったが、いつまで経っても衝撃は訪れなかった。私の身体はルッチさんの筋肉質な腕でしっかりと支えられていた。安心で力が抜け身体が重力に従う。しかし、そのまま地面に着くことなく次の瞬間には全身が宙を浮いていた。
「無理をするな」
ルッチさんはそう言って、私を横抱きにしてスタスタと歩き出した。
「っぁ、の…!ルッチさんに迷惑をかける訳には」
私が言った言葉にも意に介さず、私を抱えていることをものともしない速度で進んでいく。しかも身体に負担がかからないようにか振動がほとんど来ない。
ルッチさんはこちらを見て、月のものか、と聞いてきた。疑問符をつけるのが申し訳なくなるくらい断定的だったその言葉におずおずと頷く。
「そうか。なら無理をするな」
「行き先は医務室がいいか?…それとも部屋の方が?」
「…部屋が、いいです…」
確か以前医務室で出してもらった痛み止めの薬がまだ部屋に残っていたはず。それに医務室のベッドは落ち着かない。そう思い部屋の場所を伝え、私は痛みに耐えるために目を瞑った。
「着いたぞ」
私の部屋にはすぐに着いた。意外と部屋まで距離があったのにルッチさんにとっては大した距離にもならないようだ。足の長さも私と雲泥の差がある。
立ち止まっていたルッチさんは私を抱えているにも関わらず、がちゃりと器用に扉を開け部屋に入る。
そして私を窓際のベッドにそっと横たわらせ布団までかけてくれた。
「っありがとう、ございました」
生理痛の痛みで見動きが取れずに横になったまま礼を言う。下腹部に重く抉られるような痛みにうぐぐと歯を食いしばる。痛み止めの薬は早いところ飲んでおきたいけれど動けないなら仕方が無いと今は諦める。
「構わん。それで何かして欲しいことはあるか?」
私をベッドに寝かせたら帰ると思っていたルッチさんはまだ世話を焼いてくれるらしい。CP9の中でも優秀なルッチさんの手を煩わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そんな…っは、申し訳ない、です」
「いい。好きに使え。それで?」
「で、では…2段目の引き出しの…痛み止めの薬、取って欲しいです」
「これで合ってるか?」
「は、い」
薬を私のところに持ってきてくれたルッチさんは少し待ってろと言い置いて部屋のキッチンの方に入っていった。少しして戻ってきたルッチさんの手にはコップに入った水があった。わざわざ水まで用意してくれたらしい。
「起き上がれるか」
私は力無く首を横に振る。
ルッチさんはコト、と持っていたコップをテーブルに置き、私をそっと抱き起こしてくれる。その後に渡された水と一緒に薬を飲む。早く痛みが治まるといいんだけどな。効果は抜群だが効き始めるまでに少し時間がかかるためもうしばらく痛みに耐える必要がある。
「他には?」
「…もう大丈夫、です…」
もう大丈夫なんてそれは嘘だ。本当はこのつらい時に誰かがいて欲しい。ルッチさんに部屋から出て行って欲しくない。1人では寂しくて耐えられないのだ。
「気を遣う必要は無い」
ルッチさんは私の言葉が本当ではないことがわかったのだろうか。その一言で心にじんわりとした暖かいものが広がる。
「…そばに、いてくれませんか」
「わかった」
パタタッとハットリがルッチさんの肩から窓際に降り立つ。そしてルッチさんは私の狭いシングルベッドに入ってきた。ルッチさんは横に寝転がって肘をつく。
「…え?っえ」
急な展開に脳が追いつかない。
「ほら。もっとこっちに寄りかかれ」
身体を引き寄せられ、布団が掛けられるもされるがままである。私の頭は疑問符で埋めつくされている。てっきりベッドのそばに座ってくれる程度だと思っていたのだ、私は。思わずひぃと小さく悲鳴をあげる。密着した身体から私よりも暖かく心地よい体温が伝わってくる。
「どこが痛いんだ?」
「お腹の下らへん…が、」
「この辺りか?」
ルッチさんの大きな手がお腹の少し下側をするすると撫でる。私はその言葉に頷く。ルッチさんの手によってお腹がじんわりと温まっていく。なんだか痛みが軽減していっている気がする。
それにしてもルッチさんが優しすぎる。抱き起こす時もあの筋力からは想像できないような優しい力でそっと抱き起こしてくれたし、声も普段より柔らかさがあるような気もする。こんなに甲斐甲斐しく世話をしてもらっていいのか。まだCP9でも下っ端の自分が…。どんどん思考がマイナスになってくる。惨めさに涙が滲んできた。
こんなに良くしてもらっても返せるものはないのに。仕事ではまだまだ役には立てない。なんでこんなに何も出来ないんだろう。今回はいつもよりメンタルにキてるなぁ、なんて思うが自分でも制御出来ない。気分が沈んでしまってどうしようもなくなる。
「おい」
その言葉でぐるぐるしていた思考が引っ張りあげられる。ルッチさんと目が合う。
「内に溜め込むより吐き出した方が良い。今なら吐き出す相手もいるしな」
ルッチさんはニヤリと口角を上げる。気がつけばルッチさんの胸元に顔を埋めて感情を吐き出していた。
「なんで、こんなつらい思いをしなきゃいけないの…っ」
「…あぁ。よく頑張ってる」
「お腹、痛いし、…っ身体もきつい」
「そうだな」
「…仕事でも全然役に立てないし」
「自分を卑下するな。お前はよくやってる」
「それに…ルッチさんに迷惑をかけてしまってるし…」
「俺は気にしていない。なんなら毎月付き合ってやるが」
「何よりこんな弱い自分が嫌」
「お前は弱くない。…今日明日はゆっくり休め」
ルッチさんは自分の泣き言を全部受け入れてくれる。感情が抑えきれなくなって目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「泣くんじゃない」
ルッチさんにそう言われたが、涙を止めようとしても溢れ出す涙は止まらない。
「な、なんで…」
服の袖で擦っても止めることは出来ない。ゴシゴシと目元を擦る。
ルッチさんは私の頭を自分の方へ引き寄せ、後頭部を撫でてくる。
「悪かった。わざわざ止めなくていい…擦ったら目が腫れるぞ」
そう言ってルッチさんは私の涙を拭う。
「…なんでこんなに優しくするん、ですか」
「弱ってる女を放っておくほど甲斐性のない男では無いんでな」
そう言って、ルッチさんは口角を少しだけ上げた笑い方でフッと笑う。
「み、耳元で笑うの、だめです…!」
「なんだ、嫌いか?」
ルッチさんは流し目でこちらを見ながらククッと喉奥で笑う。顔が熱い、見なくてもわかる。今絶対に顔が真っ赤になっている。ルッチさんはなんてずるい男なんだ。今も楽しそうに私の方を見てクツクツと笑っている。
私はこれ以上見られるのが恥ずかしくなり目元まで布団を引っ張りあげて顔を隠した。
ようやく薬の効果が効き始め痛みが引いてきたようだった。私は詰めていた息を吐き出しゆっくりと呼吸をする。
「痛いのはマシになったか」
「…はい、大丈夫そうです」
「ほら、そろそろ休め。お前が寝るまではそばにいてやろう」
私はルッチさんのその言葉に安心する。
「本当に、ありがとうございました…」
ルッチさんに感謝の言葉を伝え、意識が緩んだのかだんだんと眠気が襲ってくる。
「おやすみ」
「は…い、おやすみ…なさい」
ルッチさんとおやすみの挨拶を交わし夢の中に微睡んでいった。薄れゆく意識の中でハットリのクルッポーという鳴き声が聞こえたのだった。
──
他の女性たちより症状が重めの女の子(17)
生理は痛いし心が弱くなるからキライ
CP9達には基本さん付け
ルッチさんとは今回がほぼ初対面。
カクとは歳が近いこともあり仲がいい
戦闘はあまり強くはない、事務仕事の方ができる
悪魔の実の影響で鼻がいい男
女性に優しくできる紳士。弱っている女性なら尚更
これから月一でベッドに引きずり込んで看病するようになる
お礼?当たり前のことをしただけだ
自分のミスは部下のミスな司令長官
重要書類がないィ!?そうだ、あの女のせいにしてやれ!ワハハハ!
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