雅は実家に戻り、とある家に輿入れしていた。
結婚相手は四十過ぎの役人だ。何人も妾を侍らしているような男で、雅もその妾の一人だ。
なぜこんなことになっているのかといえば、実家の借金返済の目処が立たないことから、相手から結婚を強いられた。
そこで実家内で話し合いが行われ、白羽の矢がたったのが、雅だったというわけだ。

雅からすれば、こんな身売りのような結婚は御免だ。
それに、実家の借金は暴利ともいえる法外な金利がつけられており、日々利息は増えていくため、できるだけ早く見つけないといけない。

そのため、邸内で暮らしつつ、借用書を探しているのだが、中々見つからない。
明日に備えて床につこうとしていれば、障子が開いた。

「どうだい、雅さん。屋敷での暮らしは慣れたかな」

「旦那様。えぇ、もちろん。皆様よくしてくださいます。どうぞこちらへ」

男を自分の部屋に招き入れれば、障子は閉まる。
男は雅の布団の上に座れば、値踏みをするかのように見つめた。

「こんなに美しい娘とは、知らなかったな。」

「お褒めいただき光栄です。お酒でも用意いたしましょうか」

「いや、酒よりそなたの方がよいな。優しくしよう」

酒を用意し、薬でも仕込もうかと考えていたが、そうはいかないらしい。
ゆっくりと押し倒され、男女の交わりが始まろうとする。
気持ち悪いとか、加齢臭がするとか、思いつつ、情報を仕入れるためには、相手を受け入れるしかない。
触られた箇所は悪寒が走るが、艶っぽい声を出して、さも喜んでいるかのように振る舞う。

私がお姫様だったのなら、王子様が迎えにきてくれるだろうけど、私は没落貴族の娘でくのたま。自力でどうにかするしかないのよ。
情報を仕入れて、借用書を手に入れないと私には未来はないと思いつつ、本番を覚悟すれば男の手が止まった。

「このようなところに、傷。そなた、まさか、くのいちか」

男は胸元にある傷を見つめて、こう語る。

「まさか、これは殺されかけた時に出来たものですわ。貴族の娘が、くのいちになるなど。聞いたことがありまして？」

「聞いたことはないが、貴族の娘にしては、少し筋肉がつき過ぎではないかね」

雅の腕をつかみながら語る男を見て、雅は雲行きが怪しいことに感づいた。

「最近、邸内のいたる所で、君を見かけてね。貴族の子女ならば入らなそうな場所でも見かけると報告があった。それにここ最近、ネズミがコソコソと私のことを嗅ぎまわっているという噂も聞く。君はそのネズミの使い手ではないのかい？」

男がグッと顔を近づけ、吐息を吹きかける。
その気持ち悪さに咳き込みつつも、返答をする。

「なんのことでしょう。忍なら変装は容易いのでは？私はこちらに輿入れしたばかり。それを利用してそのネズミが屋敷にいるのでは？」

男の言うネズミには全く心当たりはない。
しかし、役人にしては派手な暮らしをしているのだから、ネズミが這うのも仕方ない。

「疑わしきものは罰せよだ。幸い君は私の所有物。夫が妻をどのようにしても問題なんぞない。
病で死した。好きな男がいて自害を選んだ。なんとでも説明がつく」

男がそう言えば、部屋の障子が空く。
そして男の部下と思わしき人物が、大勢入ってきた。彼らは雅を値踏みするかのような目で見た。

「連れて行け。そして殺せ」

男の言葉を合図に部下達は雅を拘束し、地下牢に連れて行ったのだった。