自室で髪の手入れをしながら雅は七松に攻撃したことを悔いていた。
いつもならのらりくらりと躱すのだが、気づいたら手が出ていたのだ。

すぐに手が出るって潮江文次郎みたいで嫌ね。
何かと突っかかってくる彼のことを思い出しため息を出せば、障子の外から入室の許可を求める声がした。すぐに許可をだせば、実習を共にした同級生がいた。

「おや、ご機嫌斜めだったかな。七松をボコったって聞いて来たんだけど」

「未遂よ未遂。あの男をボコれる奴なんてアイツらの中でも限られるでしょ」

「そうかな、みんなそれなりにボコれるさ。」

クスクスと笑いながら入ってきては、雅の髪の手入れを手伝い始めた。
この同級生が雅の髪の手入れを手伝うなんて滅多にないが、こうして手伝うからには何か話があるのだろう。
黙ってなされるがままにしていれば、同級生は口を開く。

「七松のことを揶揄うのは、そろそろやめにしたらどうだい」

「揶揄ってなんかないわ、面白いから一緒にいるのよ。私、退屈なの嫌いだもの」

何を言い出すかと思っていれば、同級生はため息をついた。

「それなら食満や潮江に相手になってもらえばいいだろう。アイツらだって面白いだろう？」

「あの二人は飽きたわ。特に潮江文次郎の顔なんて、しばらく見たかぁないわよ。」

その言葉にまた同級生はため息をつく。
その様子を見て雅は1つ質問をした。

「なぜ、七松くんはダメなの？」

「逆に聞く、なぜ七松に拘る？」

質問を質問で返すなど失礼だと思いつつ、面白いからよと答えれば同級生は、それだからダメだと答えた。

「雅、私達は15なんだぞ。むやみやたらに男と馴れ合うのはよした方がいい。七松は塹壕を掘ってお前に会いに来ていたじゃないか。それが恋愛感情なのか、友情なのかは、わからない状況で深く関わるべきじゃないんだ」

真面目な口調で話す彼女に対して、雅は思わず吹き出してしまう。

「友情に決まっているじゃない。七松くんは純粋なだけ。恋愛感情なんてあるわけないじゃない。むろん私も彼に対して恋愛感情なんてもの持ち合わせてないわ」

同級生は雅の髪の手入れを済まし、軽くため息をついた。

「1つ忠告しておくよ。七松小平太をあまり甘く見ない方がいいってことを。それじゃ、またあとで」

障子を締め彼女はスタスタと自室に戻っていく。
自室に一人になった雅は忠告という言葉をポツリと呟いた。