ゆかりと沙知が、二人のもとへたどり着けば、竹谷はニコリと笑みを浮かべた。

「助かった、俺も兵助も傘持ってきてなくてさ。二人がいて助かった」

「午前中は晴れてたもんね。で、どっちがどっちの傘に入る？」

ゆかりは竹谷を誘うなんて勇気は出ず、竹谷に選択を求めた。
自分を求めてくれれば嬉しいが、沙知を選んだら、ちょっと寂しいが致し方がない。
女としての魅力は自分よりも沙知の方が上だと知っているからだ。

「俺はどっちでも。兵助どうする？」

竹谷はゆかりに求められた選択を兵助に委ねた。

「俺が千川の傘に入るよ。八左ヱ門は五十嵐の傘に入って。」

「じゃ、俺はゆかりの傘に入るよ。」

竹谷はそう言い、ゆかりの持っていた傘に邪魔をした。

「傘持つな。なるべく濡れないようにするからさ」

「う、うん。ありがと」

ゆかりは竹谷に傘を渡して、忍術学園へ歩き出した。
久々知が沙知の傘に入ったことで、結果的に竹谷と一緒になっただけだが、こうして一緒の傘に入って変えることにゆかりは嬉しかった。
ふと竹谷を見れば、彼の右肩が濡れていた。

「八左ヱ門、濡れてるよ。もっと中入ってよ」

「えっ、いや。あんまり近づいたら嫌だろ。それにこのくらい平気だし」

「嫌じゃないから、ちゃんと傘の中入って」

「いや、俺、汗臭いから。臭いの嫌だろ？」

「気にしないから、ちゃんと入って。それとも私のことを嫌い？」

「嫌いなんかじゃない。むしろ好きに決まってるだろ」

竹谷のその言葉にゆかりは目を丸くした。
そして自分の頬が赤くなっていくのを感じる。そしてその様子を見て竹谷は自分が何を言ったのか、わかったようだった。

「わ、悪い。こんなこと言って。ごめん。忘れてくれ」

そう言い竹谷はゆかりから目を逸らせば、ゆかりは竹谷の袖を掴んだ。

「やだ。忘れない。私だって八左ヱ門のこと好きだもん」

ゆかりの言葉で、今度は竹谷の顔が赤くなり、間抜けな声を出した。

「八左ヱ門の好きは私の好きと同じ？それとも違う？」

ゆかりは竹谷に詰め寄り、好きの真意を尋ねる。竹谷は頭を掻きながらゆかりの言葉に返答した。

「そりゃ、異性としての好きに決まってんだろ。」

「私の好きも同じ。八左ヱ門のことを1人の男として好きだよ」

その言葉に竹谷は更に赤くなる。
そして惚れた女に、ここまで言わせてしまったことを後悔しつつ、自分の気持ちを述べた。

「ゆかり、好きだ。俺と付き合ってくれるか？」

「うん、もちろん」


その言葉を聞いた竹谷はゆかりをギュッと抱きしめ、お姫様抱っこをした。
お姫様抱っこをされたことに驚いたゆかりは目をぱちくりさせた。

「後ろに兵助達いるから、まくぞ。この雨だから俺達の話の内容なんか聞こえちゃいないだろうけどよ。それに二人きりになりたいし」

「うん、私も八左ヱ門と二人きりになりたい。」

「よし、しっかり捕まってろよ」

竹谷のその言葉にゆかりは大きく頷き。脇で傘を抱え、ゆかりをお姫様だっこしたまま駆け出した。