類は友を呼ぶ、ゆえに必然だった
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▽
額に感じるひんやりとした感覚に意識が覚醒する。私、どうなったんだっけ。それよりもなんだが胸の辺りが苦しい……。そう思いながら目を開けると、まず目に入ったのがもう随分と深い青が目立ち始めている空。そして私のそばで本を読んでいる夏目。それから……なんか視界の下の方に白い何かが居る。目線を動かせば、そこには、私の胸の上に乗っている真ん丸とした白い生き物が居た。私は思わず目をパチクリとさせ、固まってしまう。何だこの生き物は?妖か?
困惑している私をよそに、その生き物は目を覚ました私に気が付き小さくニャアと鳴いて私の上から降りる。え?猫なの??
「ん?あ…!よかった……起きたのか…」
「え、あ、うん…おはよう」
「あぁ、おはよう…ってそれよりも体調は大丈夫か?」
「う、うん…さっきよりかは…」
そういえば、酷く痛かった頭痛が弱くなっている。それに身体の倦怠感も前よりかマシになって……もしかして、あの妖怪を追い払ったのだろうか。体の内から感じていた気持ちの悪い気配が無くなっているような気がする。
流石に今回ばかりは、もうダメかと思っていた。だから本当に、本当に夏目には感謝している。感謝してもしきれないぐらいだ。
ゆっくりと自分の上半身を起こすと、額から何かが落ちる。これは――濡れたハンカチ?
「…その、おでこは大丈夫か?痛みはないか?」
申し訳なさそうな顔の夏目にそう言われて、そいえば気を失う前に彼に殴られたような記憶があることを思い出す。少しじんじんとした痛みがあるが、笑って大丈夫な事を伝える。
「そうか……ごめん、俺が殴ってしまって……」
「……ううん、いいんだよ…だって、お互い様でしょ」
夏目は大きく目を見開いたあと、何かを思い出したかのように小さく声を漏らしていた。あの踊り場で、私が君の首を絞めてしまったから、この痛みはそのお返しをされたに過ぎない。だから、お互い様なのだ。きっと彼も私が言いたいことを分かっている。
私は笑顔で立ち上がる。頭がくらくらとしているが、今から家まで帰らないといけないので気にしてられない。空を見やれば、一番星が煌々と輝いていた。隣で夏目が立ち上がったのを視界の端で捉えている。
こんな時間まで彼の時間を奪ってしまって申し訳ない気持ちになり、視線を落とす。
「……ごめんね、こんな時間まで」
「…中島は悪くないよ、悪いのは―――」
そこまで言って彼は黙り込む。多分、というか十中八九、妖怪のせいだと言いたいのだろう。けれど、私が視えることを知らない彼は、言うのを躊躇した。正直、言うべきか迷っている。失礼だとは分かっているけど、もしもの事を考え、裏切られることを恐れて私は人を疑う事を止められない。
今回の件で彼が良い人だという事は分かった。けれど、それでも……。
「……もう暗くなるから帰ろう」
そう言って私は、気まずそうな顔をしている夏目を横目に歩き出す。「送ってくよ」と言えば、病人にそんなことさせられないと言われた。それもそうか。完全に自分が病人だったことを忘れていた。頭痛はちゃんとしているし、身体だってまだ絶不調だというのに。
「寧ろ、俺が送っていくよ」
「え!?わ、悪いよそんなの…!」
「中島は病人だろ?もしかしたら途中で体調が悪くなるかもしれないだろ」
「う、それは……あ!でも、帰り夏目一人だよ?危ないよ!」
「大丈夫だよ、この用心棒が居るから」
夏目は一緒に歩いていた猫(仮)を抱きかかえてそう言った。私が困惑気味に何度か夏目とその猫を交互に見ていると、彼は「結構頼もしいんだ」と眉尻を下げながら笑っていた。また何度か夏目とその猫を交互に見て、猫が頼もしいってなんだろうと思ったが、よく分からないので思考を放棄する。そして私は猫の顎を撫でながら「ちゃんと夏目を守るんだよ~」と呟くと、猫は当たり前だと言いたげにニャアと鳴いた。
「……あ、そういえばこれ…」
「ん?あ!私の香り袋!」
夏目が懐から取り出したのは、私が失くした香り袋だった。時間が経つにつれ効果が薄くなるし、あの時はそれどころじゃなかったから探さなかったが、まさか返ってくるなんて。私はお礼を言ってそれを受け取る。夏目は何か言いたげにこちらを見ていた。
「……?どうしたの?」
「…あ、いや……お守りじゃないんだな、と思って…」
やはりこれに魔除けの効果があることに気が付いていたのだろうか、と変に勘繰る。真意は分からないが、本当の事を言うつもりはないので、何とか頭を働かせて言葉を紡ぐ。
「実はですね……お守りの効果もあるらしいんですよ!」
「え?」
「昔、友人に教わったお守りの作り方と、香り袋の作り方を混ぜ合わせて作ってるんだ!」
実際に効果があるかは分かんないんだけどね~、なんておちゃらけた言い方で濁す。夏目は少し考える素振りを見せて「そうなんだな」と前にも見た笑みを浮かべていた。
他愛のない話をして家の近くまでたどり着く。わざわざ私の家まで送ってくれて、本当に彼には感謝してもしきれない。深々と頭を下げて夏目にお礼を言う。
「え⁉いや、俺は別に……」
「ううん、夏目は私を助けてくれたよ。だからありがとう」
顔を上げて夏目の目を見て笑いかけると、彼は少し戸惑いを見せながらも「どういたしまして」と笑みをこぼす。未だ抱かれたままの猫に視線を移して、少しだけ屈んで頭をひと撫でする。
「……猫ちゃん、夏目を無事に家まで送り届けたらご褒美上げるから、ちゃんと夏目の用心棒をするんだぞ」
言葉を理解しているのか、猫は目をキラキラと輝かせながら食い気味にニャと鳴いている。任せろと言っているようにも感じるし、褒美をくれるのだな!?と言っているようにも感じる。夏目は私の発言に難色を示しているようで、眉を顰めさせていた。
「…あんまりそういうこと言うと、本当に中島の家に行くから……」
「いいよいいよ、寧ろウェルカムって感じ!」
「この猫、食い意地張ってるぞ」と言うが、猫が人間並みに食べるとは思えないので、私は「大丈夫大丈夫~」と答える。まさか猫がそんな、ね~?はははは。
姿勢を正して、夏目を見やる。心地の良い秋の風が頬を撫でている。笑顔で彼に向かって手を振った。
「それじゃあ、またね夏目」
「あぁ、中島。また学校で」
家に入って、玄関で限界が来てしまった私はそのまま倒れこんでしまった。偶然の巡り合わせで、彼の存在を知り、彼に私の存在を知られ、そのおかげで彼に助けてもらった。最初こそ、彼に関わる気などなかったけれど、今回の件で多少なりとも関わっても大丈夫かもしれないと思った。随分と上から目線だが、どうか許してほしい。だって、自分と――自分の大切な人を守るために必要な事だと私は思っているのだから。ねえ、そうだよね―――。
昔の大切な友人を思い浮かべながら、遠くから父の心配する声が耳に入ってくる。ああ、父さん。ごめんね心配かけて。そう言いたいが、そうする気力もない私は目を閉じて、冷たい床に心地よさを感じながら眠りについた。
額に感じるひんやりとした感覚に意識が覚醒する。私、どうなったんだっけ。それよりもなんだが胸の辺りが苦しい……。そう思いながら目を開けると、まず目に入ったのがもう随分と深い青が目立ち始めている空。そして私のそばで本を読んでいる夏目。それから……なんか視界の下の方に白い何かが居る。目線を動かせば、そこには、私の胸の上に乗っている真ん丸とした白い生き物が居た。私は思わず目をパチクリとさせ、固まってしまう。何だこの生き物は?妖か?
困惑している私をよそに、その生き物は目を覚ました私に気が付き小さくニャアと鳴いて私の上から降りる。え?猫なの??
「ん?あ…!よかった……起きたのか…」
「え、あ、うん…おはよう」
「あぁ、おはよう…ってそれよりも体調は大丈夫か?」
「う、うん…さっきよりかは…」
そういえば、酷く痛かった頭痛が弱くなっている。それに身体の倦怠感も前よりかマシになって……もしかして、あの妖怪を追い払ったのだろうか。体の内から感じていた気持ちの悪い気配が無くなっているような気がする。
流石に今回ばかりは、もうダメかと思っていた。だから本当に、本当に夏目には感謝している。感謝してもしきれないぐらいだ。
ゆっくりと自分の上半身を起こすと、額から何かが落ちる。これは――濡れたハンカチ?
「…その、おでこは大丈夫か?痛みはないか?」
申し訳なさそうな顔の夏目にそう言われて、そいえば気を失う前に彼に殴られたような記憶があることを思い出す。少しじんじんとした痛みがあるが、笑って大丈夫な事を伝える。
「そうか……ごめん、俺が殴ってしまって……」
「……ううん、いいんだよ…だって、お互い様でしょ」
夏目は大きく目を見開いたあと、何かを思い出したかのように小さく声を漏らしていた。あの踊り場で、私が君の首を絞めてしまったから、この痛みはそのお返しをされたに過ぎない。だから、お互い様なのだ。きっと彼も私が言いたいことを分かっている。
私は笑顔で立ち上がる。頭がくらくらとしているが、今から家まで帰らないといけないので気にしてられない。空を見やれば、一番星が煌々と輝いていた。隣で夏目が立ち上がったのを視界の端で捉えている。
こんな時間まで彼の時間を奪ってしまって申し訳ない気持ちになり、視線を落とす。
「……ごめんね、こんな時間まで」
「…中島は悪くないよ、悪いのは―――」
そこまで言って彼は黙り込む。多分、というか十中八九、妖怪のせいだと言いたいのだろう。けれど、私が視えることを知らない彼は、言うのを躊躇した。正直、言うべきか迷っている。失礼だとは分かっているけど、もしもの事を考え、裏切られることを恐れて私は人を疑う事を止められない。
今回の件で彼が良い人だという事は分かった。けれど、それでも……。
「……もう暗くなるから帰ろう」
そう言って私は、気まずそうな顔をしている夏目を横目に歩き出す。「送ってくよ」と言えば、病人にそんなことさせられないと言われた。それもそうか。完全に自分が病人だったことを忘れていた。頭痛はちゃんとしているし、身体だってまだ絶不調だというのに。
「寧ろ、俺が送っていくよ」
「え!?わ、悪いよそんなの…!」
「中島は病人だろ?もしかしたら途中で体調が悪くなるかもしれないだろ」
「う、それは……あ!でも、帰り夏目一人だよ?危ないよ!」
「大丈夫だよ、この用心棒が居るから」
夏目は一緒に歩いていた猫(仮)を抱きかかえてそう言った。私が困惑気味に何度か夏目とその猫を交互に見ていると、彼は「結構頼もしいんだ」と眉尻を下げながら笑っていた。また何度か夏目とその猫を交互に見て、猫が頼もしいってなんだろうと思ったが、よく分からないので思考を放棄する。そして私は猫の顎を撫でながら「ちゃんと夏目を守るんだよ~」と呟くと、猫は当たり前だと言いたげにニャアと鳴いた。
「……あ、そういえばこれ…」
「ん?あ!私の香り袋!」
夏目が懐から取り出したのは、私が失くした香り袋だった。時間が経つにつれ効果が薄くなるし、あの時はそれどころじゃなかったから探さなかったが、まさか返ってくるなんて。私はお礼を言ってそれを受け取る。夏目は何か言いたげにこちらを見ていた。
「……?どうしたの?」
「…あ、いや……お守りじゃないんだな、と思って…」
やはりこれに魔除けの効果があることに気が付いていたのだろうか、と変に勘繰る。真意は分からないが、本当の事を言うつもりはないので、何とか頭を働かせて言葉を紡ぐ。
「実はですね……お守りの効果もあるらしいんですよ!」
「え?」
「昔、友人に教わったお守りの作り方と、香り袋の作り方を混ぜ合わせて作ってるんだ!」
実際に効果があるかは分かんないんだけどね~、なんておちゃらけた言い方で濁す。夏目は少し考える素振りを見せて「そうなんだな」と前にも見た笑みを浮かべていた。
他愛のない話をして家の近くまでたどり着く。わざわざ私の家まで送ってくれて、本当に彼には感謝してもしきれない。深々と頭を下げて夏目にお礼を言う。
「え⁉いや、俺は別に……」
「ううん、夏目は私を助けてくれたよ。だからありがとう」
顔を上げて夏目の目を見て笑いかけると、彼は少し戸惑いを見せながらも「どういたしまして」と笑みをこぼす。未だ抱かれたままの猫に視線を移して、少しだけ屈んで頭をひと撫でする。
「……猫ちゃん、夏目を無事に家まで送り届けたらご褒美上げるから、ちゃんと夏目の用心棒をするんだぞ」
言葉を理解しているのか、猫は目をキラキラと輝かせながら食い気味にニャと鳴いている。任せろと言っているようにも感じるし、褒美をくれるのだな!?と言っているようにも感じる。夏目は私の発言に難色を示しているようで、眉を顰めさせていた。
「…あんまりそういうこと言うと、本当に中島の家に行くから……」
「いいよいいよ、寧ろウェルカムって感じ!」
「この猫、食い意地張ってるぞ」と言うが、猫が人間並みに食べるとは思えないので、私は「大丈夫大丈夫~」と答える。まさか猫がそんな、ね~?はははは。
姿勢を正して、夏目を見やる。心地の良い秋の風が頬を撫でている。笑顔で彼に向かって手を振った。
「それじゃあ、またね夏目」
「あぁ、中島。また学校で」
家に入って、玄関で限界が来てしまった私はそのまま倒れこんでしまった。偶然の巡り合わせで、彼の存在を知り、彼に私の存在を知られ、そのおかげで彼に助けてもらった。最初こそ、彼に関わる気などなかったけれど、今回の件で多少なりとも関わっても大丈夫かもしれないと思った。随分と上から目線だが、どうか許してほしい。だって、自分と――自分の大切な人を守るために必要な事だと私は思っているのだから。ねえ、そうだよね―――。
昔の大切な友人を思い浮かべながら、遠くから父の心配する声が耳に入ってくる。ああ、父さん。ごめんね心配かけて。そう言いたいが、そうする気力もない私は目を閉じて、冷たい床に心地よさを感じながら眠りについた。
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