類は友を呼ぶ、ゆえに必然だった
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▽
数学の先生に頼まれたプリントを職員室に運び終え、教室まで戻る途中の階段の踊り場で一人の女子生徒――上履きの色を見るに同学年の子だろう――が壁に手を付いて蹲っていた。もうすぐ授業が始まる故に人が居なく少しだけ不気味さが漂う。だからといって彼女をそのまま放置する理由にはならないので、俺は急いで駆け寄り声を掛けた。
俺に気が付いた彼女が顔を上げる。そして目が合った瞬間、少し目を見開いたかと思うとまるで力が抜けたかのようにふらついたので、思わず肩を掴み支える。声を掛けるも応答はない。もしかして気を失ったのだろうか。
取り敢えず彼女を保健室に運ばなければ。そう思って立ち上がろうとすると、彼女がばっと顔を上げた。急に顔を上げるものだから、思わず俺は「わぁ!!?」と声を上げ肩を跳ねさせる。
「びっっくりした……大丈夫か?」
「…………」
またもや応答がない。というか、先程見た時より顔に、表情に生気を感じられない。なんだかまるで―――――――。
その言葉を思い浮かべるより先に、彼女が俺の首に手を掛ける。その勢いで体勢を崩した俺は床に背中を打ち付けた。突然の事に頭が回らない。なんで急に……!それよりも、苦しいっ!
「うっ!」
「お前、美味そうな匂いがするな…!」
美味そうな匂い…?やっぱり、こいつ妖怪なのか…!?
力強く首を絞めつけている手をどうにかして剥がそうと抵抗するも、徐々に失われていく酸素のせいでうまく力が入らず、抵抗むなしく苦しさが身体を支配する。このままでは本当に死んでしまう…っ!
「はなっ…せっ…!」
「ふふふふ、お前を喰ってこの小娘を乗っ取る養分にしてくれよう」
その言葉に「え」と声が漏れる。それと同時に西村が俺を探す声が聞こえた。俺達の居る方に近づいているのか、徐々に声が大きくなっていく。
小さい舌打ちが真上から聞こえたかと思うと首の圧迫から解放される。俺は咳き込みながら体中に酸素を行き渡らせるように大きく息を吸う。上半身を起こそうとするも、気を失ったのか彼女が俺の上に倒れこんできたので、結局また倒れこんでしまった。
「おーい夏目…って、大丈夫か!?」
人が二人も倒れこんでいれば、何かあったと思うのは仕方がない事だろう。彼女をゆっくりと横へ動かし、俺は上半身を起こす。西村の声がした方を見ると、急いでこちらに駆け寄って来ていた。憑りつかれている彼女に首を絞められた、など言えるはずがないので別の言い訳を口にする。
「…この子、貧血だったみたいで…急に倒れたんだ」
「だから、この子を保健室まで運んでくるよ」そう伝えると、西村は先生に伝えてくると教室へと戻っていった。そんな西村を見送った後、彼女を見やる。とても辛そうな表情をしていて、よく眠れていないのか薄らと隈もある。
どうにかしてあげたい気持ちはあるものの、どうにかできるほどの知識がない俺は、歯がゆい気持ちになりながら彼女を背負って保健室まで歩きだした。
▽
昼休み。
私を運んでくれたという夏目にお礼を言うため、2組まで来ていた。丁度、教室から同中だった西村が出て来たので声を掛ける。西村は私の顔を見るなり「大丈夫だったか?」と心配してきた。どこかで聞いたのか、はたまた見ていたのか、どうやら私が倒れたことを知っているようだった。
「大丈夫だよ、貧血で倒れただけだから」
「また貧血で倒れたのか、鉄分ちゃんととるんだぞ~」
「分かってるって~、それより夏目って子いる?」
「あぁ、夏目?ちょっと待てな」
そう言って西村が教室へと戻っていく。開いてある引き戸から顔を覗かせれば、丁度こちらの方に顔を向けた夏目と目が合う。とりあえず笑って手を振っておいた。夏目はぎこちなく会釈をして、西村と少し喋った後席を立った。
こちらに来るまでずっと見ているわけにもいかないので、窓際の方に移動して窓を背に無意味に爪を見てみる。なんだか、そわそわしてきた。関わりのない人を呼び出すという行為が、なんかこう…気まずいというか緊張するというか…。うーん、うまく言語化が出来ないな…。
視界に人が入ってくる。横切っていく人とは違い、明確に私の前で止まった人に顔を上げるとそこには夏目が居た。少しだけ、彼じゃない別の何かだったら…という考えが頭を横切ったのでほっとする。
けれど、彼の首元を見て私の心は罪悪感に支配された。私の記憶が正しければ、先程の彼は首筋が見えるぐらいにはシャツを開けていたはずだ。しかし今は上までボタンが留められている。そしてその襟から垣間見える、あいつが――私が首を絞めてしまった時に出来たであろう赤い痕。思わず眉を顰めてしまいそうになったが、私は何とか笑顔を保ち口を開く。
「どうも!私、5組の中島鏡花です!君は夏目、で合ってるかな?」
「うん、合ってるよ」
「よかった…さっきは保健室まで運んでくれてありがとう!重くなかった?」
「…重くなかったよ。それよりもう体調は大丈夫なのか?」
割と細めの夏目に私を運ぶほどの筋力があるのか…?と少し――いや、とても失礼なことを思いながら、私は笑顔でもう元気であることを告げる。すると彼は「それは良かった」と笑みを浮かべた。その笑みはどうしてか作ったように感じて、ふと、彼について「人当たりはいいけど笑顔が嘘くさい」と誰かが言っていたのを思い出した。けれど、その笑みの中に安堵の色も見えて、もしかしたら彼は人との付き合い方が苦手なだけのかもしれない、という印象を受ける。その後暫しの沈黙の後彼が口を開く。
「……こういうの、多いのか?」
「こういうの…?あぁ貧血?そうだなぁ…まあ、昔からよくなってたけど…最近は―――」
いつもより酷い。そう言いかけて止める。別に同じものが視える夏目に要らぬ心配を掛けたくないとか、そんな事ではない。
ただ、怖いのだ。それを言ってしまって彼がどう出るか分からないから。何もしないかもしれないし、解決策を探してくれるかもしれないけれど、何か酷い事をされる可能性だってあるのだ。何せ私は彼の事も、彼の人柄も、何も知らないのだから。
「―――……やっぱいつもと変わんないな!ははは」
「そう、か……それなら、よかった」
そう言って笑みを浮かべる夏目をじっと見つめる。もし、もしさっきの首を絞めたことを聞いたら、彼はなんて答えるんだろう。関わる気が無いとはいえ、私は久しぶりに自分と同じ人に出会ったから浮かれていたのだろうか。気になって、聞いてしまった。
「その…私の気のせいじゃなければ、さ……さっき、私君の首…絞めなかった…?」
「―――……別に絞められていないよ。運ぶ時に魘されてたから…多分変な夢でも見たんじゃないかな」
私は思わず目を見開いてしまう。最悪死んでいたかもしれないのに、彼は――夢だと言った。正直、恨み言や小言は言われるかもしれないと思っていた。それなのに彼は夢だと………。
「……夢…そっか、そうだよね…ごめん!変なこと言って…それじゃあね夏目」
「…うん、じゃあ」
手を振って互いに教室へと戻っていく。すごい、すごいな、夢だなんて…。根っからの善人か、何か意図がある人じゃないと出てこない言葉じゃないだろうか。私だったら小言の一つや二つぐらい言うというのに。ある意味感心してしまった。
だから、ほんの少しだけ 彼と関わってみたいな、と思う自分が居て私はその思いを払拭するように頭を振る。
良くない。同じ視える人だとしても、彼が本当にいい人だなんて分からないし、関わりでもして妖怪関連で何かに巻き込まれたりでもしたら面倒だ。それに私はもう二度と―――…。
数学の先生に頼まれたプリントを職員室に運び終え、教室まで戻る途中の階段の踊り場で一人の女子生徒――上履きの色を見るに同学年の子だろう――が壁に手を付いて蹲っていた。もうすぐ授業が始まる故に人が居なく少しだけ不気味さが漂う。だからといって彼女をそのまま放置する理由にはならないので、俺は急いで駆け寄り声を掛けた。
俺に気が付いた彼女が顔を上げる。そして目が合った瞬間、少し目を見開いたかと思うとまるで力が抜けたかのようにふらついたので、思わず肩を掴み支える。声を掛けるも応答はない。もしかして気を失ったのだろうか。
取り敢えず彼女を保健室に運ばなければ。そう思って立ち上がろうとすると、彼女がばっと顔を上げた。急に顔を上げるものだから、思わず俺は「わぁ!!?」と声を上げ肩を跳ねさせる。
「びっっくりした……大丈夫か?」
「…………」
またもや応答がない。というか、先程見た時より顔に、表情に生気を感じられない。なんだかまるで―――――――。
その言葉を思い浮かべるより先に、彼女が俺の首に手を掛ける。その勢いで体勢を崩した俺は床に背中を打ち付けた。突然の事に頭が回らない。なんで急に……!それよりも、苦しいっ!
「うっ!」
「お前、美味そうな匂いがするな…!」
美味そうな匂い…?やっぱり、こいつ妖怪なのか…!?
力強く首を絞めつけている手をどうにかして剥がそうと抵抗するも、徐々に失われていく酸素のせいでうまく力が入らず、抵抗むなしく苦しさが身体を支配する。このままでは本当に死んでしまう…っ!
「はなっ…せっ…!」
「ふふふふ、お前を喰ってこの小娘を乗っ取る養分にしてくれよう」
その言葉に「え」と声が漏れる。それと同時に西村が俺を探す声が聞こえた。俺達の居る方に近づいているのか、徐々に声が大きくなっていく。
小さい舌打ちが真上から聞こえたかと思うと首の圧迫から解放される。俺は咳き込みながら体中に酸素を行き渡らせるように大きく息を吸う。上半身を起こそうとするも、気を失ったのか彼女が俺の上に倒れこんできたので、結局また倒れこんでしまった。
「おーい夏目…って、大丈夫か!?」
人が二人も倒れこんでいれば、何かあったと思うのは仕方がない事だろう。彼女をゆっくりと横へ動かし、俺は上半身を起こす。西村の声がした方を見ると、急いでこちらに駆け寄って来ていた。憑りつかれている彼女に首を絞められた、など言えるはずがないので別の言い訳を口にする。
「…この子、貧血だったみたいで…急に倒れたんだ」
「だから、この子を保健室まで運んでくるよ」そう伝えると、西村は先生に伝えてくると教室へと戻っていった。そんな西村を見送った後、彼女を見やる。とても辛そうな表情をしていて、よく眠れていないのか薄らと隈もある。
どうにかしてあげたい気持ちはあるものの、どうにかできるほどの知識がない俺は、歯がゆい気持ちになりながら彼女を背負って保健室まで歩きだした。
▽
昼休み。
私を運んでくれたという夏目にお礼を言うため、2組まで来ていた。丁度、教室から同中だった西村が出て来たので声を掛ける。西村は私の顔を見るなり「大丈夫だったか?」と心配してきた。どこかで聞いたのか、はたまた見ていたのか、どうやら私が倒れたことを知っているようだった。
「大丈夫だよ、貧血で倒れただけだから」
「また貧血で倒れたのか、鉄分ちゃんととるんだぞ~」
「分かってるって~、それより夏目って子いる?」
「あぁ、夏目?ちょっと待てな」
そう言って西村が教室へと戻っていく。開いてある引き戸から顔を覗かせれば、丁度こちらの方に顔を向けた夏目と目が合う。とりあえず笑って手を振っておいた。夏目はぎこちなく会釈をして、西村と少し喋った後席を立った。
こちらに来るまでずっと見ているわけにもいかないので、窓際の方に移動して窓を背に無意味に爪を見てみる。なんだか、そわそわしてきた。関わりのない人を呼び出すという行為が、なんかこう…気まずいというか緊張するというか…。うーん、うまく言語化が出来ないな…。
視界に人が入ってくる。横切っていく人とは違い、明確に私の前で止まった人に顔を上げるとそこには夏目が居た。少しだけ、彼じゃない別の何かだったら…という考えが頭を横切ったのでほっとする。
けれど、彼の首元を見て私の心は罪悪感に支配された。私の記憶が正しければ、先程の彼は首筋が見えるぐらいにはシャツを開けていたはずだ。しかし今は上までボタンが留められている。そしてその襟から垣間見える、あいつが――私が首を絞めてしまった時に出来たであろう赤い痕。思わず眉を顰めてしまいそうになったが、私は何とか笑顔を保ち口を開く。
「どうも!私、5組の中島鏡花です!君は夏目、で合ってるかな?」
「うん、合ってるよ」
「よかった…さっきは保健室まで運んでくれてありがとう!重くなかった?」
「…重くなかったよ。それよりもう体調は大丈夫なのか?」
割と細めの夏目に私を運ぶほどの筋力があるのか…?と少し――いや、とても失礼なことを思いながら、私は笑顔でもう元気であることを告げる。すると彼は「それは良かった」と笑みを浮かべた。その笑みはどうしてか作ったように感じて、ふと、彼について「人当たりはいいけど笑顔が嘘くさい」と誰かが言っていたのを思い出した。けれど、その笑みの中に安堵の色も見えて、もしかしたら彼は人との付き合い方が苦手なだけのかもしれない、という印象を受ける。その後暫しの沈黙の後彼が口を開く。
「……こういうの、多いのか?」
「こういうの…?あぁ貧血?そうだなぁ…まあ、昔からよくなってたけど…最近は―――」
いつもより酷い。そう言いかけて止める。別に同じものが視える夏目に要らぬ心配を掛けたくないとか、そんな事ではない。
ただ、怖いのだ。それを言ってしまって彼がどう出るか分からないから。何もしないかもしれないし、解決策を探してくれるかもしれないけれど、何か酷い事をされる可能性だってあるのだ。何せ私は彼の事も、彼の人柄も、何も知らないのだから。
「―――……やっぱいつもと変わんないな!ははは」
「そう、か……それなら、よかった」
そう言って笑みを浮かべる夏目をじっと見つめる。もし、もしさっきの首を絞めたことを聞いたら、彼はなんて答えるんだろう。関わる気が無いとはいえ、私は久しぶりに自分と同じ人に出会ったから浮かれていたのだろうか。気になって、聞いてしまった。
「その…私の気のせいじゃなければ、さ……さっき、私君の首…絞めなかった…?」
「―――……別に絞められていないよ。運ぶ時に魘されてたから…多分変な夢でも見たんじゃないかな」
私は思わず目を見開いてしまう。最悪死んでいたかもしれないのに、彼は――夢だと言った。正直、恨み言や小言は言われるかもしれないと思っていた。それなのに彼は夢だと………。
「……夢…そっか、そうだよね…ごめん!変なこと言って…それじゃあね夏目」
「…うん、じゃあ」
手を振って互いに教室へと戻っていく。すごい、すごいな、夢だなんて…。根っからの善人か、何か意図がある人じゃないと出てこない言葉じゃないだろうか。私だったら小言の一つや二つぐらい言うというのに。ある意味感心してしまった。
だから、ほんの少しだけ 彼と関わってみたいな、と思う自分が居て私はその思いを払拭するように頭を振る。
良くない。同じ視える人だとしても、彼が本当にいい人だなんて分からないし、関わりでもして妖怪関連で何かに巻き込まれたりでもしたら面倒だ。それに私はもう二度と―――…。