類は友を呼ぶ、ゆえに必然だった
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それは偶然だった。
その日はたまたま用事があり家に早く帰らなければいけなかったから、いつもは通らないようにしていた森を突っ切って歩いていた。
人の気配はしないその森で、時々騒がしい声が耳に入りながら歩いていると少し開けた場所が見えた。けれど、その場所に出る前に、固く結んでいたはずの靴紐がたまたま解けてしまったので屈んで結んでいると、その開けた場所に誰かが偶然来た。なんとなく気になって靴紐を結ぶ手を止めて、誰が来たんだろうと顔を上げた。ただ、それだけ。
だから本当に偶然なんだ。同じ学校の制服を着ている彼が―――。
「――君に返そう。」
そう言って名を返している姿を見てしまったのは。
「――――――」
綺麗だと、美しいと感じた。ごく一般的に、普通に暮らしていたら見ない、見られない光景を目の当たりにして、一種の神秘性を感じたのだろうか。目が、離せなかった。
名を返した彼は、疲れたように倒れこんでいた。私もそれに合わせて身を隠すように縮こまる。なんだか頬が熱い。ドクドクと脈打つ心臓の音は、美しい光景を見たからか、久方ぶりに自分と”同じ”人と出会ったからか、それとも――――。
気が付けば葉擦れの音とセミの声がこの場を包み込んでいた。そっと開けた場所を見てみると、そこにはもう誰も居なかった。彼は疲労していたようだったが、居なくなっている所を見るに、歩けはしたのだろう。私はゆっくりと立ち上がり、開けた場所へと出て帰るために歩く。
同じ学校の制服を着ていた彼、一体誰だったんだろう。うちの学校に何かそういった噂がある人物はいただろうか。少し思考を巡らせる。
「………あ、そういえば…」
数か月前に転入してきた夏目、とかいう別クラスの子が何か視えているんじゃないかと噂されていた気がする。まさか、彼がその夏目…?
烏の鳴き声で私は空を見上げる。木の葉の間から見える空は茜色に染まっており、私はさっと顔を青くして急いで腕時計を見る。
「やっっばい!!もうこんな時間!!」
本当だったらすでに帰り着いているはずだった時刻となっていた。急いで帰らないと! そう思って私は駆け足で家へと向かう。家に帰りつくまで、いや、帰った後も彼の姿を忘れられないままで。
予鈴で目が覚める。どうやら授業中ぐっすり眠っていたようだ。顔を上げると、前の席に居る親友に「おはよう」と声を掛けられた。掠れ声で返事をして目をこする。
「次、教室移動だよ」
「やべ、そうだった」
あの後、私は彼――夏目に声を掛けることもなく、ただ自堕落な夏休みを過ごし新学期を迎えた。たまーーに、彼が妖怪に絡まれているのを見かけては「また絡まれてるな~」なんて思いながら。この間も何か妖怪に付きまとわれていたか、連れてきていたのか一緒に居たのを見かけた。というか、あの感じだと私があれを見る前から頻繁に絡まれていたのではないだろうか。それなのにあの日まで私が彼の存在に気が付かなかったのは、幼い頃から妖怪を無視し続けた賜物と言ったものか…。
⦅――寄こせ、その身体を――寄こせ……!⦆
「っ…」
頭に響く不快な声と痛みに思わず顔を顰めさせ頭を抑える。私の様子に気が付いた親友が心配してくれているが、大丈夫だと伝え廊下を進む。が、あまりの痛さに足が覚束ない。ふらついて親友にぶつかってしまった。
流石に見かねた親友が保健室に行くよう言ってくる。前、それを無視して授業に出て倒れてしまい親友に怒られたことを思い出し、流石にまた怒られたくないので今回は親友の言葉を聞き保健室に行くことにした。付き添おうか、と言われたがまだ一人で歩けるので大丈夫だと言って。
徐々に酷くなる痛みに耐えきれず、保健室に行く途中の階段の踊り場で壁に手を付いて蹲ってしまう。数日前、風邪をひいて病院に行ってから私に憑りついているこの妖怪は、私の生気を吸い取っている。しかも、波長が合うからと私の身体を乗っ取ろうと考えているのだ。いつも思うのだが、迷惑極まりないな、本当に。
昔、友人から教わった清めの香を焚こうとすると酷い頭痛が襲ってきて、焚こうにも焚けないし、貯めていたその灰にも近づけない。いつもこれで何とかなっていたから、これ以上の方法を私は知らない。なので、ほぼ万事休す の様なものだ。まあ諦める気はないが。
はあ…。こういう事になるのが嫌だから妖怪を避けていたというのに、この妖怪は無差別に人に憑りついて……腹立たしい。
「だ、大丈夫か!?」
頭上から声が聞こえる。こんなところで蹲っていたら誰だって声を掛けたくなるか、なんて思いながら顔を上げるとそこには、彼が、夏目が居た。彼と目が合ったその瞬間、まるで後ろに引っ張られるかのように意識が遠のく。これは、あの妖怪が私の身体を操ろうとしている前兆。
⦅おぉ…なんと強い妖力…美味そうだ、美味そうだ…!!⦆
必死に意識を保とうとするが、それ以外の抵抗するすべを知らない私はただ意識を手放すのみだった。
その日はたまたま用事があり家に早く帰らなければいけなかったから、いつもは通らないようにしていた森を突っ切って歩いていた。
人の気配はしないその森で、時々騒がしい声が耳に入りながら歩いていると少し開けた場所が見えた。けれど、その場所に出る前に、固く結んでいたはずの靴紐がたまたま解けてしまったので屈んで結んでいると、その開けた場所に誰かが偶然来た。なんとなく気になって靴紐を結ぶ手を止めて、誰が来たんだろうと顔を上げた。ただ、それだけ。
だから本当に偶然なんだ。同じ学校の制服を着ている彼が―――。
「――君に返そう。」
そう言って名を返している姿を見てしまったのは。
「――――――」
綺麗だと、美しいと感じた。ごく一般的に、普通に暮らしていたら見ない、見られない光景を目の当たりにして、一種の神秘性を感じたのだろうか。目が、離せなかった。
名を返した彼は、疲れたように倒れこんでいた。私もそれに合わせて身を隠すように縮こまる。なんだか頬が熱い。ドクドクと脈打つ心臓の音は、美しい光景を見たからか、久方ぶりに自分と”同じ”人と出会ったからか、それとも――――。
気が付けば葉擦れの音とセミの声がこの場を包み込んでいた。そっと開けた場所を見てみると、そこにはもう誰も居なかった。彼は疲労していたようだったが、居なくなっている所を見るに、歩けはしたのだろう。私はゆっくりと立ち上がり、開けた場所へと出て帰るために歩く。
同じ学校の制服を着ていた彼、一体誰だったんだろう。うちの学校に何かそういった噂がある人物はいただろうか。少し思考を巡らせる。
「………あ、そういえば…」
数か月前に転入してきた夏目、とかいう別クラスの子が何か視えているんじゃないかと噂されていた気がする。まさか、彼がその夏目…?
烏の鳴き声で私は空を見上げる。木の葉の間から見える空は茜色に染まっており、私はさっと顔を青くして急いで腕時計を見る。
「やっっばい!!もうこんな時間!!」
本当だったらすでに帰り着いているはずだった時刻となっていた。急いで帰らないと! そう思って私は駆け足で家へと向かう。家に帰りつくまで、いや、帰った後も彼の姿を忘れられないままで。
予鈴で目が覚める。どうやら授業中ぐっすり眠っていたようだ。顔を上げると、前の席に居る親友に「おはよう」と声を掛けられた。掠れ声で返事をして目をこする。
「次、教室移動だよ」
「やべ、そうだった」
あの後、私は彼――夏目に声を掛けることもなく、ただ自堕落な夏休みを過ごし新学期を迎えた。たまーーに、彼が妖怪に絡まれているのを見かけては「また絡まれてるな~」なんて思いながら。この間も何か妖怪に付きまとわれていたか、連れてきていたのか一緒に居たのを見かけた。というか、あの感じだと私があれを見る前から頻繁に絡まれていたのではないだろうか。それなのにあの日まで私が彼の存在に気が付かなかったのは、幼い頃から妖怪を無視し続けた賜物と言ったものか…。
⦅――寄こせ、その身体を――寄こせ……!⦆
「っ…」
頭に響く不快な声と痛みに思わず顔を顰めさせ頭を抑える。私の様子に気が付いた親友が心配してくれているが、大丈夫だと伝え廊下を進む。が、あまりの痛さに足が覚束ない。ふらついて親友にぶつかってしまった。
流石に見かねた親友が保健室に行くよう言ってくる。前、それを無視して授業に出て倒れてしまい親友に怒られたことを思い出し、流石にまた怒られたくないので今回は親友の言葉を聞き保健室に行くことにした。付き添おうか、と言われたがまだ一人で歩けるので大丈夫だと言って。
徐々に酷くなる痛みに耐えきれず、保健室に行く途中の階段の踊り場で壁に手を付いて蹲ってしまう。数日前、風邪をひいて病院に行ってから私に憑りついているこの妖怪は、私の生気を吸い取っている。しかも、波長が合うからと私の身体を乗っ取ろうと考えているのだ。いつも思うのだが、迷惑極まりないな、本当に。
昔、友人から教わった清めの香を焚こうとすると酷い頭痛が襲ってきて、焚こうにも焚けないし、貯めていたその灰にも近づけない。いつもこれで何とかなっていたから、これ以上の方法を私は知らない。なので、ほぼ万事休す の様なものだ。まあ諦める気はないが。
はあ…。こういう事になるのが嫌だから妖怪を避けていたというのに、この妖怪は無差別に人に憑りついて……腹立たしい。
「だ、大丈夫か!?」
頭上から声が聞こえる。こんなところで蹲っていたら誰だって声を掛けたくなるか、なんて思いながら顔を上げるとそこには、彼が、夏目が居た。彼と目が合ったその瞬間、まるで後ろに引っ張られるかのように意識が遠のく。これは、あの妖怪が私の身体を操ろうとしている前兆。
⦅おぉ…なんと強い妖力…美味そうだ、美味そうだ…!!⦆
必死に意識を保とうとするが、それ以外の抵抗するすべを知らない私はただ意識を手放すのみだった。
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