本編
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あの後。
『じゃ、用事済んだので帰ります。サヨナラ』
と適当にあしらって帰った。
すごく疲れた気分だったので、及川に2回ほど膝カックンをしてストレスを発散させた。
いい気味である。
学校へ帰ってから、悠桐は部員たちの自主練に付き合った。
ゴールデンウィークまではマネージャーとして働くと決めたからだ。
そして今は帰路。薄暗くなってきた道を歩く。
家まで送ると決められたローテーションはぐるりと一周し、花巻が送る番だった。
「…」
『…』
いつも何かしら軽口をたたきながら帰っているが、今日は花巻が口を開かない。
小難しい顔をしたまま、ゆっくり歩いている。
なにか話しかけようか、と悠桐が口を開いた時、先に声を出したのは花巻だった。
「マネージャー、ありがとな。大変だったろ」
『あー…まぁ、楽ではなかったかな』
でも楽しかったよ、と続けると、花巻は笑う。
「せっかく頑張ってくれてたし、楽しみにしてくれてた白鳥沢戦で勝ちたかったんだけどなー」
コツコツと、ローファーの踵がアスファルトと擦れる音が響く。
今日は静かな夜だ。
自分と花巻の歩く音と、時々虫の音と、風の音と。
それが心地よくもあり、同時に少しの気まずさもあった。
「俺が、」
ぽつりと呟く花巻。
「松川みたいにブロック上手くて、岩泉みたいにパワーがあって、及川みたいにトス上げられてたら、」
勝ててたんかねぇ。
『(…珍しく、弱気なんだな)』
本心であり、本心でないような発言に、悠桐は口を開く。
『花巻はさぁ』
「…」
花巻、と呼ばれ、悠桐の顔をちらりと見た。
彼女が自分を"マッキー"ではなく"花巻"と呼ぶ時は、いつだって真剣な話をする時だったように思う。
『たまーに弱気になるよね』
「…そりゃまあ、そういう気分になる時もありますケド」
『確かに松川のブロックは凄いと思うし、岩泉のパワーはえげつないし、及川はトスめちゃくちゃ上手いけどさぁ』
でもそれって、言わばその人が努力して伸ばした個性じゃん。
悠桐は前を向いたままで、肩からずり落ちてきた鞄をかけ直す。
『花巻は松川よりサーブ上手だし、岩泉より細かいとこ狙えるし、及川より広くコートを見られてる気がするんだけど』
それも、花巻が努力して伸ばした個性じゃん?
そう言って、彼女はにひ、と笑う。
『自分に無いもの持ってる人が羨ましくなるかもしれないけど、私はそのままでいいと思うよ。あ、慢心しろって意味じゃなくてね』
「ん…」
『あの3人のバレーもそれぞれ格好いいんだけどさ、私は花巻の、マッキーのバレーが一番好きだな』
青城の何でも屋さんって感じ!
そう言って笑った彼女の笑顔に、不覚にも胸が高鳴る自分を自覚する。
「やだ悠桐チャン男前…」
『ふふん、伊達に長生きしてないよ』
「さーすがー…って、お前俺より誕生日遅かったよな」
『バレたか』
いつもの調子で軽口をたたきあって、高鳴る心臓を宥める。
よしよし、落ち着いてきた。
「悠桐チャンの大好きな貴大クンのバレー間近で見るのに、マネージャー継続してくれていいんデスヨ」
『調子乗んな』
はん、と鼻で笑う悠桐を横目で見つつ、花巻も笑う。
明日からも頑張れるかもしれない。
「打倒白鳥沢!」
決意を新たにしたゴールデンウィークが終わる。