本編
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『…え、そんな大人数で送ってくれなくてもいいんだけど』
送ると言って同じ方向に歩き出したのは及川を筆頭とする3年生4人で、悠桐は慌ててそれを止める。
「そう?」
「じゃあ交代で送る?」
「そうするかー」
「ゴールデンウィーク終わるまでな」
『えっ』
あっさりと方向性を固めた4人は、悠桐を置いてジャンケンを始めている。
順番に送っていく役割が決まって、本日はどうやら花巻に決定したようだった。
「じゃあまた明日なー」
『またねー』
小さく手を振ると、3人が同じように手を上げて応じてくれる。それを見届けて、悠桐は花巻と一緒に歩き出した。
『ごめんね、送ってもらって』
「いやいや、暗いし」
『へーえ。別にゴリラだから大丈夫ですけどー?』
「すまんと思ってる」
軽口を叩きながらのんびりと歩く。家にはあと15分くらいで着くだろう。
道路を挟んだ向こう側には、電球が切れそうなのかチカチカと点滅する街灯がある。ああいうのってどうやって交換するんだろうなぁ、と花巻がぼんやりと考えていたら、そういえば、と悠桐が声を出して意識がそちらへ向いた。
『世界史の教科書ありがとう、貸してくれて。助かりました』
「おー」
今日の朝、花巻に借りた世界史の教科書。
集中力が切れた時にやりがちな、教科書に出てくる人物への落書きがそこにはあって、その落書きがあまりに面白くて、悠桐は授業中に思わず笑ってしまった。
『芸術的だった』
「だろ?」
『いや、授業ちゃんと受けなよ』
落書きのあったページに付箋をつけて、ちゃんと勉強しなよと書いて返したことは記憶に新しい。
気付けばもう自宅であるマンションが見えて来ていて、悠桐は歩きながら鞄をまさぐって鍵を探し出す。
「伏見」
『ん?』
呼ばれて顔を上げると同時に、肩を引き寄せられた。とん、と触れた花巻の胸板が想像していたより逞しく、悠桐は顔に熱が集中するのが分かった。
「チャリ来てる」
『あ、…ああー、うん、ごめん、ありがとう』
なんか前もこんなことあったなぁと思い返す。
でもこの前は腕を引っ張られただけなんだけど、今度は肩ですかそうですか。聞いてくれ全国の花巻ファン、こいつやばい。
高校生で年下と言えど、男でスポーツマン。
男女の体格差というものを、どうにも意識してしまう。
「……なんかさ、」
『?』
悠桐の肩から手を離して、花巻は二度三度、引き寄せたその手を握ったり閉じたりする。
「ジャグ両手で持ったりするゴリラのくせに、肩細いのな」
『怒ればいいのか喜べばいいのか感情が迷子だわ』
「情緒不安定かよ」
『誰のせいかな?』
先程までの緊張はどこかへ飛んでいって、悠桐は顔を引き攣らせた。
甘い空気はどこへ行ったのやら。
『送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね』
「おお、また明日」
悠桐がオートロックの向こう側へ行くのを見届けてから、花巻は駅に向かって歩き出す。
「……」
咄嗟に悠桐を引き寄せた右手に視線を落として、また何度か握って閉じてを繰り返した。
「……肩、ほっそ」
本人にも告げた、あの時思ったことをもう一度口に出す。
ジャグを両手で持ったりするくせに。
水を含んだ大量のタオルが入ったカゴを、簡単に持ち上げたりするくせに。
自分が過去に付き合ってきた女の子達と同じくらい細いなんて、なんだか変な感じだ。
「女の子なんだなー」
当たり前のことを呟いて、花巻は少し歩く速度を早めた。