10.
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試合終了の笛が鳴る。
勝ったのは唯月達だ。
唯月がピンチサーバーで入ってから完全に流れが変わり、結局唯月がサーブ権を持ったまま勝つことになった。
片付けやクールダウンを終えてコートを後にした唯月の前に、興奮気味に走りよったのは烏野バレー部員達だった。
『…あれ、観に来てたの?』
「来ますよ!」
「観に来るだろ普通!」
『普通とは』
「八賀さん!すげーかっこよかったっス!!」
「八賀さんのサーブがズバって!!んで、すげー高い打点からドカンて!!バキューンて!!」
『えっ…あ、うん…?』
興奮冷めやらぬ日向の言葉に首を捻っていると、唯月の耳にとある声が滑り込む。
「唯月くん」
『……え、』
呼ばれて振り返り、唯月は思わず目を見開いた。
「あ、さっきの…」
「さっき?」
「応援席にいた…」
西谷の呟きを菅原が拾い、西谷は頷いてみせる。
『…サエ?』
「!」
「サエ…って、どっかで聞いたような…」
「唯月の元カノ…?」
「それだ!!」
「……」
静かに騒ぐバレー部員達の声など聞こえない様子の唯月は、声を掛けてきた少女・サエを見つめて動かない。
「…久しぶり。元気にしとった?」
『…うん。サエは?』
「まぁ元気」
バレー部員達と佐見達は空気を読んでその場を後にしたが、西谷はその2人から目を離せずにいた。
【嫌いで別れたわけじゃないから…】
合宿中の唯月の言葉を思い出す。
「(…嫌な予感って、当たるもんなんだな)」
サエを見つめる唯月の横顔に、ギュッと胸が締め付けられる。
西谷はくるりと踵を返して、先に離れた菅原達を追った。
『なんでこんな所に?』
「お兄ちゃんがバレーしてて…ほら、唯月くんがさっき勝ったチームのリベロなんやけど」
『ああ…』
顔はもう覚えていないが、そういえばサエには歳の離れた兄がいた。
「私も最近こっちに引っ越して来たんよ。お父さんの転勤で」
『あー…そっか、奇遇だね』
「うん」
サエは唯月を見上げて笑った。
「唯月くん、背ぇ伸びたなぁ」
『まあ…最後に会ってから3年近く経ってるしね』
「うん…そうやね」
サエは薄く笑って目を伏せる。目元にかかる髪を耳にかけて、彼女は顔を上げた。
「唯月くん、脚は大丈夫なん?」
『無理しなければなんとか』
「そっかぁ。良かった」
サエは携帯を取り出すと、唯月に言う。
「良かったら連絡先交換せぇへん?」
『あー…うん、いいよ』
連絡先を交換できたサエは、画面を見て嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
『こちらこそ』
「また連絡する」
手を振って去っていくサエを見て、唯月は手を振り返す。
『(…全然変わってない)』
髪を耳にかける仕草も、笑顔も全部。
『…』
偶然にしてはすごい確率だ。
まさかこんな所で再会することになるとは。
会えて嬉しい気持ちはあるが、ただ旧友に会えた嬉しさ。
嫌いで別れたわけではない彼女への、恋慕の気持ちはない。
一瞬チラついた影は、彼女と同じくらいの背で、でももっと大きな背中。
『…帰ろ』
唯月は軽く頭を振って、バレー部員や佐見達を追った。