9.
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……」
『……』
ベンチに腰掛けた2人は、しばらく無言だった。
昨日、一昨日と続き西谷に翻弄されている唯月には、少々居心地が悪い。
結局なんの用なのかと、唯月が口を開きかけた時だ。
西谷が立ち上がり、唯月の正面に移動する。
立った西谷は唯月よりも目線が高く、唯月は西谷を見上げる形になった。
「あの」
『うん』
「…昨日の朝、言ったこと」
【俺は、唯月さんが寝ぼけてなくても、手を繋ぎたいと思いますよ】
『あ……ああ、うん…』
「少しは、考えてくれましたか」
『えっと…』
顔に熱が集中するのが分かって、唯月は慌てて西谷から顔を逸らす。
寝ぼけていなくても手を繋ぎたい。
それがどういう意味を指すのか、分からないほど馬鹿ではない。
だが。
『(まさかでしょ…)』
目を逸らしたまま答えない唯月を見て、西谷は口を開いた。
「唯月さん、俺」
唯月はその声につられるように、西谷を見上げる。
西谷の大きな目に自分が映っているのが分かって、何故か呼吸が止まりそうになった。
「ーー唯月さんが、好きです」
『!』
「先輩として好きってわけじゃなくて…あ、もちろん先輩としても好きですけど!」
自分の言葉を一度否定して、西谷はまた言葉を紡ぐ。
「手を繋ぎたいとか、ーーキスしたいとか、そういう"好き"です」
『……』
「唯月さんは俺の事、どう思ってますか」
昨日と同じ真っ直ぐな視線。
唯月はゆっくりと俯いた。
『俺、は…』
「……」
『…ごめん、分からない』
「…分からないって」
『確かに夕のことは…多分、他の後輩より特別だと思う』
「!」
唯月がバレー部に顔を出すようになったのも、西谷がきっかけだ。
『でもそれがどういう"好き"かとか、…ごめん、まだわからない』
「…そう、ですか」
小さく呟いて、西谷は大きく息を吐く。
「だったら」
『……』
「お試しでいいです。俺と付き合ってもらえませんか」
『…は…?』
「もちろん唯月さんの気持ちがはっきりするまでは、俺は何もしません」
したいけど、と続ける西谷に、唯月は顔を赤くした。
「今まで通りの接し方でいいです。"まだ分からない"っていうことなら、俺にも可能性はあるってことですよね」
『それ…は、』
「…それじゃ、駄目ですか?」
『っ…』
真っ直ぐな目。射抜くような目。
この目は、逃げられないと言われているようで心臓に悪い。
『…やっぱりそういう"好き"じゃないって分かったら、別れるよ』
「構いません」
唯月の言葉に、西谷は自信たっぷりに笑ってみせた。
「インターハイ予選で格好良いところ見せて、絶対惚れさせるんで」
『!』
その言葉に、唯月はさらに顔を赤くする。
「(ーーああ、この顔だ)」
本当は、全員の前で好きだと言ってやろうかと思っていた。
そうすれば自分が彼を想っていることが全員に分かって、もしかしたら周りの後押しもあって、もっと意識されていたのかもしれないけど。
「(アンタの、その顔は)」
大きな猫目に映る俺のことだけを考えて、俺のことしか考えられなくなって真っ赤に染まる、その顔は。
「(ーー誰にも見せたくない)」
俺だけのものってことで、いいだろ?