9.
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ぺたぺたと廊下を歩く2つ分の足音が響く。
眠い目を擦りながら歩く唯月に合わせ、西谷はいつもより少しだけゆっくりと歩いた。
「唯月さん、着きましたよ」
『うん…』
唯月の手を離すことは嫌だったが、ずっと繋いでいるわけにもいかず、西谷はその手を離す。
どうぞ、と手渡された自分の歯ブラシをくわえて、唯月は寝ぼけ眼で歯磨きを開始した。
「……」
唯月がまだ覚醒していないのをいいことに、西谷は唯月の指先に自分のそれを絡ませて、隣で歯磨きをする。
頭がだんだんとハッキリしてくる。
くあ、とあくびをして、唯月は口をすすぐために空いている手で蛇口を捻ろうとした。
『…?』
思っているより腕が重く感じられて、唯月は視線を指先へ落とす。
『…っ!?』
繋がれた指先。辿ると、そこにいるのは西谷。
「あ、起きました?」
『んむっ…!』
口いっぱいに含んだ歯磨き粉が邪魔で何も言えない。
唯月は慌てて手を離して口をすすいだ。
『なっ…なんで、手繋いでんの…っ』
「唯月さんがふらふらしてるからですよ!」
『うっ…』
寝起きは確かにふらふらしている。
自覚はあるから、文句の一つも言えない。
『それは…ごめん』
「別に俺はいいですけど」
顔を洗う西谷に倣って、唯月も隣で顔を洗う。
冷たい水のおかげで、もう眠気はすっかり吹っ飛んだ。
『…えっと、…夕』
「!」
『起こしてくれて、ありがと』
西谷が用意してくれたらしいタオルで顔を拭きながら、唯月は西谷に礼を言う。
「…もう、」
『?』
「名前、呼んでもらえないかと」
朝一のあれは寝ぼけていたから。
昨日の夜にあんなことをしておいて、まさかまだ名前で呼んでもらえるとは思っていなかった。
「…唯月さん、昨日のことですけど」
『!』
西谷から振られた話題に、唯月はカチンと固まる。
西谷は顔を上げて真っ直ぐに唯月を見た。
「なんで俺があんなことしたのか、考えてください」
『…どういう、こと、』
「俺は、唯月さんが寝ぼけてなくても、手を繋ぎたいと思いますよ」
『っ!』
射抜くような目。逸らさない視線。
慣れない感覚に、唯月は戸惑う。
徐々に赤くなる頬を自覚して、唯月はタオルで顔を隠した。
『かっ…考える、から』
「…」
『…ちょっと、あんまり見ないで』
白いタオルとは対称的な、赤い顔。
「…かわいいですね、唯月さん」
『はあっ…!?』
思わず口から溢れた言葉に、唯月は面白いほどに顔を赤くして反応する。
西谷は嬉しそうに笑った。