8.
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「八賀さん!髪拭かないと風邪引きますよ!」
『うわっ…』
持っていたソーダを一旦置いて、西谷は慌てて唯月の肩に掛かっていたタオルで彼の髪を拭く。
『おお…すぐ乾きそう』
「俺に早く頭乾かせって言っといて、八賀さん人のこと言えないっスよ」
『たしかに』
わしゃわしゃと拭く手を止めずに、西谷は唯月に話しかけた。
「八賀さん、」
『んー?』
「俺も大地さん達みたいに、名前で呼んでいいですか」
『名前?』
「唯月さんって、呼びたいんですけど」
されるがままの唯月は、どこか気持ち良さそうに目を閉じている。
『いいよ、別に』
「ほんとですか!」
西谷の弾む声に、唯月はふっと笑った。
『好きに呼べばいいのに』
「そうなんですけど!」
ここでふと、西谷は手を止める。
「…じゃあ俺のことも、下の名前で呼んでもらえませんか」
『下の?』
自分の正面に立ったままの西谷を見上げて、唯月は首を傾げた。
『…ゆう?』
「ーーー……」
どくん、と心臓が跳ねる。
形の良い唇から紡がれる自分の名前が、いつもより神聖なものに聞こえてしまったりして。
「ーー唯月さん、」
『は、…え、ちょっ…』
西谷は唯月の肩に手を置いて、その唇に吸い寄せられるように顔を近付ける。
『ちょっと…待っ…』
今の西谷に、静止の声など聞こえていない。
あと数センチで西谷の唇が唯月のそれと重なりそうになったとき、廊下に声が響いた。
「おーい。もうそろそろ消灯だぞー」
「『!』」
2人ともが肩を跳ねさせて驚く。
声の正体は澤村だった。
「西谷、ミイラ取りがミイラになるんじゃない。……というか、何してたんだ?」
座ったままの唯月と、立ったままの西谷。声に驚いて取った不自然な距離感に、澤村は首を傾げる。
『ちょっと話してただけ。すぐ戻る』
西谷の顔を見ないように立ち上がり、唯月は澤村の横をすり抜けた。
「なんか唯月、顔赤くないか」
『風呂上がりだから』
「?そうか。西谷、戻るぞ」
「…はい」
澤村が来なければ、あと少しで触れていた唇。
声に驚いて距離を取る一瞬、唯月と目が合った。
驚いた顔、嫌そうな顔、嬉しそうな顔、楽しそうな顔。色んな顔を見せてくれるようになった唯月だったが。
「(…あんな顔、初めて見た)」
びっくりしたように目を見開いて、『意識した』と言わんばかりに真っ赤になった顔。
「(あー…くそ、)」
あんな顔を見せられて、ますます落ちないわけがなかった。
「(絶対寝られねえ…)」
未だに高鳴る心臓を落ち着ける術を、西谷は知らない。
『(な、んだ、あれ…)』
急いで髪を乾かして、唯月は鏡の前で赤く染まった自分の顔を見ていた。
『(大地が来なかったら、……来なかったら、)』
触れていただろう、西谷の唇。
『っ…』
思い出してまた赤くなるそれを見ないように、唯月は蛇口を捻って出た水で顔を洗う。
『…心臓、うるさ』
自分の思いとは関係なく早鐘を打つそれに、唯月は小さく息を吐いた。
『(寝られるかな…)』
風呂上がりよりも火照った身体は、まだまだ冷める様子はなかった。