3.
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「八賀さあああん!!部活!!行きましょう!!」
もはやお決まりになったホームルーム後の西谷の襲撃。
スパーン!という扉が開く音は、もう唯月のクラスメイトの間ではホームルーム終了の合図として代用されている。
「今日も完璧なタイミングだな!」
「あざっス!!」
クラスメイトから声を掛けられて元気に返事をする西谷に、澤村が笑顔で近づく。
「もうちょい静かに開けなさいって言ってるでしょ」
「ヒッ…!!」
笑顔の澤村は怖い。西谷は縮み上がった。
『ドア壊れちゃうから…もうちょっと静かにね』
「馬鹿だなー西谷は」
「うっ…ウス」
先輩達から叱られた西谷は少しだけ反省して俯いたが、すぐに顔を上げる。
「八賀さん!今日こそ部活に!!」
『いや…だから、行かないってば。部員じゃないし』
「えー今日も来ないのかよー」
「八賀がいるとレシーブ練習捗るんだけどなぁ」
『……』
初めてバレー部の練習にほんの少し付き合ってから一週間。
毎日こんな感じだ。
『バレー部に入るつもりはないよ』
ぶーぶーと口を尖らせる3人を見つつ、扉を背にして呆れ顔で言う唯月。
「えっ、八賀バレー部入んないの…!?」
突然後ろから聞こえた声に、唯月はビクッと肩を跳ねさせた。
「ちょっと旭!八賀がびっくりしたでしょうが!」
「もー突然後ろから大声で呼んだらびっくりするだろ、ヒゲ!」
「そーですよ旭さん!!」
「えっ…ええ…?」
たまたま通りかかって、たまたま会話が聞こえたからそれに参加しただけなのだが。
集中砲火を浴びる東峰から、唯月は申し訳なさそうに目を逸らした。
『ごめん、東峰くん…』
「いや…こっちこそごめん…」
このいたたまれない空気は何なんだろう。
唯月は荷物を持ち直した。
『バイトもあるし…忙しいから』
「バイト?なんのバイト?」
「コンビニとかっすか!?」
『いや、個人経営の居酒屋』
「「おお、居酒屋!」」
「ホールやってるの?」
『ホールで入ったつもりだったけど、笑って接客しないからって、3日でキッチンに回された』
「「「「……」」」」
確かに唯月の笑顔は、今のところバレーをしている時か、困った時や誤魔化す時しか見たことがない。
無表情だったらそりゃホールは難しかろう、と4人の思考が一致する。
『(…なんかすごい失礼なこと考えてる気がする)』
それを察知して、唯月は小さなため息をついた。
『……あのさ、』
ちらりと壁にかかった時計を見て、それを指で示す。
『部活、いいの』
「「「「……あああ!!」」」」
4人同時に叫んで、そして慌てて教室を飛び出してく。
「八賀、またな!」
「また明日な!」
「気をつけて帰れよー!」
「明日こそ部活来てくださいね、八賀さん!!」
口々に言い募り、怒られない程度に小走りで去っていくバレー部。
『またね』
無表情でひらりと手を振って、唯月はそのまま視線を左脚に移した。
『……』
自分のサーブや、スパイクやブロック。味方の攻撃や守備が。
もう一度コートで、歓声を浴びて、試合という形で出来るのなら。
『……とっくに、やってるんだよなぁ』
自分の沈んだ声が、呪詛のように脚にまとわりつく。
踏み出した一歩は、まるで鉛を着けたように重たかった。