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おにぎり

「ぎんさん」
台所に立つ銀時のピンク色のエプロンの端を小さくつまむ手があった。銀時は手についた米粒を口に入れながら首だけ少し振り返って穏やかな声で答える。
「もうちょっと…………ん、……待っといてな。すーぐできっから」
銀時の大きな手によって大皿におにぎりが並べられていく。綺麗な三角ではないが、ふっくらとした大きめのおにぎり達だ。
「ぼくもやる、ます」
「なんだ、父ちゃんの真似か」
銀時が笑って茶化すと、子供は少しムキになって言った。
「だってぎんさんはとしうえだから!」
銀時はそれを聞いてへへっと笑った。目尻のシワが深くなる。そうして、そーかいそーかいと適当に返事をした。今度は小さめなおにぎりが大皿の端に置かれた。子供は銀時の横にたって面白くなさそうにつぶやいた。
「ちちうえがけんじゅつをおしえてくれない、です」
子供は目線を落として小さな唇を尖らせた。銀時は流しで手を洗いながらその言葉を聞いていた。それからラップをだして、大皿に大雑把にかけた。
「お前のことが大事なんだろ、大事で大事で仕方ねえのよ」
「ぎんさんも?」
え、と銀時が聞き返すと、子供は誇らしげにこう答えた。
「ちちうえもぎんさんにおしえてもらってないっていってた」
銀時はおう、だかおー…………、だか気のない返事をした。そうして頭をぼりぼりとかいた。
万事屋の扉がカラカラと開いた。子供の名が2、3回呼ばれると、銀時は子供の背を軽く押して、自分は居間のソファーにどかりと座った。今度は銀さん、と低い声で呼ばれた。銀時は相変わらず、まるで興味のなさそうにおう、とだけ答えた。
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