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今を光れと声がする

 朝7時。本来であれば夕方からの予定を映し出すはずだったスマートフォンの液晶には、『虎牙道ライブ』の六文字が不愛想に映し出されている。事務所への道中、時刻を確認するために覗き込んだ画面に思わず渋い顔をしてしまう。
 不意に、ぴこん、と間の抜けた通知音がひとつ鳴った。新着メッセージの差出人の欄には『秋山隼人』と表示されている。反射的に、慣れない手つきで受信したばかりのメッセージを開いた。

“おはよう! 今日のことは気にしなくていいから、ライブ頑張って”

 映し出された簡素な文字列が伝えるのは、先日の約束を守れなかったタケルを気遣う気持ちだ。
 急な仕事が入ってしまったことを告げた時、隼人は一瞬残念そうな顔をしたように見えたけれど、すぐに「そっか、それじゃあ仕方ないね。ハイジョの皆を誘ってみるよ」と笑ってくれた。
 今日に至るまで、隼人と顔を合わせる度に自分が何度も謝っていたことを思い出し、色々な意味でまた少し申し訳ない気持ちになった。

“ありがとう。隼人さんも、学校とレッスン頑張れ”

 できるだけ手早くそう返信して、大きく一度息を吸った。
 仕方のないことだ、と気持ちを切り替える。自分はアイドルなのだから、今日は自分を待っていてくれる人たちを笑顔にしに行くことが努めなのだ。握っていた端末をポケットへと仕舞い込んで、タケルは歩調を速めた。
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