教えて、ヒーロー
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5時間目、初めてのヒーロー基礎学の時間。
今回は人命救助訓練だという。
レスキュー。移動に特化した私にとっては、かなり相性のいい分野。私は対敵よりはむしろこういう活動の方が多かったから、本分とも言えるほどだ。腕が鳴る。
真新しいコスチュームに身を包み、バスに乗り込む。
クラスの皆がわちゃわちゃしているのを、後ろの方の席から楽しそうだなあと眺めながら(約1名本気でキレていたけど)、私はついつい浮かれていた。
雄英の規模にはいつまでも慣れない。
「すっげーーー!!USJかよ!!?」
大きな…大きすぎて全貌の見えない演習場に着いて、私は唖然としていた。庶民の金銭感覚にはつらいものがある。クラスの皆も圧倒されている。
と、あの13号先生が顔を出した。今日も可愛らしい。
「あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
『U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)』!!」
(((USJだった!!)))
茶番である。13号先生やっぱり好きだ。
「スペースヒーロー13号だ!」
緑谷くんとお茶子ちゃんが興奮気味に話しているのが聞こえる。
少しクラスで見ていて緑谷くんについて分かったことが一つ。彼はやたらとヒーローに詳しい。最早オタクだ。いやもうかなりのオタクだった。あとお茶子ちゃんが可愛い。
「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ………」
(((増える……)))
13号先生が前に出て話し出す。
彼の話は心に響く。
個性の力は人を傷つけるためにあるのではない。
人を救けるためにこそあるのだと……
「……心得て帰って下さいな。
以上!ご静聴ありがとうございました」
「ステキー!」「ブラボー!ブラーボー!!」
……カッコイイ人だ。
「……?」
ふと目の端に違和感。
13号先生が話をしめた、その直後ーー
先生の後ろ、広場の方に、
闇、が
「相澤さんっ!!!!」
悪意。悪意だ。あれはいけない。私は……あれを知っている!
思わず出した私の大声に弾かれるように振り返り、相澤さんと13号先生が警戒体勢をとる。
闇から覗く、敵の顔。
悪寒が走る。
「ひとかたまりになって動くな!13号!生徒を守れ……」
「え?」「…何だアリャ!?またもう始まってんぞパターン?」
皆は状況が分からずまだぽかんとしている。
違う、違う、あれは。
「動くなあれは——敵だ!!!!」
ヴィラン。途方もない悪意がそこにいた。
——平和の象徴を、殺しに!
***
どうして、ここに!
相澤さんが避難を13号先生に任せ、単騎で敵たちを食い止めようと飛び出した。
彼の強さは知っている、でも…あまりに無茶だ。だってあのひとドライアイだし、敵の強さもまだ分かっていないのに。長引けば長引くほど、彼は追い込まれてしまうはず……。後ろ髪をひかれて振り返ろうとすると、
「ぐ!」
体が真っ黒い靄に包まれる。
咄嗟にテレポートを発動して靄の範囲を抜けようとするも、くそ、遅かった………
目を開けると…そこには、広場とは似ても似つかぬ光景が広がっていた。
いや、目を開けるまでもなく分かる。肌がどうしようもない熱気で焼かれている。火災ゾーンだった。
他にクラスの誰かがいないか探そうとするも、
「っ!」
早々に殴りかかられる。
問答無用ってか。私に相手の動きを止める能力がないぶん、倒してから話を聞きだすことも期待できそうにない。
やるしかないのか、嫌だな…。せめて誰かいないだろうか。
パッと上にテレポートし、筋力増強型らしいその男をいなしてそのまま上から踵を落とす。
今ので個性がバレた。仕方ないな。次の相手が来るまでにコスチュームのひとつ、立体把握機能で、周りの敵の数や建物の構造などの確認をしていく。コレ使いやすいな、さすがサポートアイテム専用の会社だ。
「はっ、……おらっ」
環境を確認したらあとはただ目の前の敵をかわしながら倒していく。
命を奪うのは簡単だ、敵の心臓の場所にでもテレポートして、その場所をまるまる「切り取っ」てしまえばいいのだから。
でも殺さず倒すというのはこの個性だとどうにも難しい。手を「切り取っ」たり建物の影に身を隠したりでどうにか凌ぐ。ああ、コスチュームに捕獲用のロープか、そうでなくてもスタンガンのような程よい攻撃力の何かをつけてもらえば良かった。
動きはできるだけ不規則に、バランス良く。でも体力はできるだけ使いたくない、正直ちょっと疲れてきた。
自分の周りにいた敵たちが粗方いなくなり、警戒しながら徒歩で少しずつ移動していたその時、自分とは違う誰かがやっぱり襲われているのが見えた。
特徴的な太い尾。ファーのついた道着。苦戦しているのか汗を拭って、顔も見えた。
尾白くんだ!よかった、一人じゃなかった!
「尾白!」
「……さん!?」
駆け寄って声をかけると、徒手空拳で敵に向き合う彼がギョッとした様子で返す。あっごめん驚かせて…。
「うわあ寂しかったよ良かった尾白に会えて…!」
「ええ…!?うんいや俺もだけど…」
「ごめん私っ、あの…ウロチョロするけど気にしないで!」
「はい!!?」
組手系の戦闘が苦手だと伝えたかったんだけど、ちょっとうまくいかなかった。申し訳ない、と頭を下げながら、尾白くんを囲む敵を穴を開けたり蹴っ飛ばしたりして倒していく。奇襲は大得意だ。
***
「……はあっ」
「は、はぁ、はぁ……それで終わりかな?」
「…っぽいな。……ふ、まだ油断できないけど」
私が蹴っ飛ばした最後のひとりと思しき敵に、尾白くんが手刀でとどめを刺して立ち上がる。
「…それで…これからどうする?広場に向かおうか」
「うん、急ごう。あっちだよね?」
「え?うん。いやあのっ、……さんっ?」
「え、ちょっと。何避けてるの」
テレポートのため前から抱きつこうとすると、避けられる。抱きつく。避けられる。なぜだ、速いのに。
「て、テレポートって前から抱きつかなきゃだめ!?」
「え…だめっていうか、バラバラになるの嫌でしょ、後ろは尻尾あるし……」
「ええっ……確かにバラバラになるのは困るけどっ」
「一瞬だから我慢して。あと尻尾、できるだけ体に沿わせて」
「うわ…仕方無い…のか…!?こんなことがあっていいのか…!!?」
「はい失礼します」
ブツブツ言いながらも大人しくなる尾白。
鍛えられているのがよく分かる身体に、正面から腕を回す。背中にひたりと手を当てて、目を閉じる。太い尾が自分の体の後ろに回ってきて、すっぽりと囲われる。テレポート範囲を確認、神経を集中して——広場まで。
…誤差を考慮して着く場所を地面よりすこし高めに設定したせいで、着地の衝撃を受ける。胸筋に頬がふれてちょっと驚いて離れた。
辺りを見渡すと、
「………な、……」
着いたのは入口付近で、戦況はなかなか最悪のようだった。
——喉がしまってヒュッと息を呑む。くらりとする頭を振って、どうにか意識を保つ。
冷静になれ。
冷静になれ。
相澤さんがボロボロの状態で横たわっている。
13号先生のスーツの後ろにぱかりと穴があいている。
オールマイトが、血を吐いている。
手がいっぱいついてる人が何か騒いでいる。
駆け出したくなる自分を、なんとか抑え込んだ。
だめだ。あれには、立ち向かってはいけない。
沸き上がる震え、恐怖の涙。
オールマイトがいるなら大丈夫、と今までの認識では思っていたかもしれない。それでも、当たり前だったそんな常識はきっと塗り替えなければならない。何だあれは——大きかったオールマイトの背中が、目の錯覚か、揺らいで見えた。
任せるしかないのか。
今できること。邪魔にしか、なれないかもしれない。
「!」
敵と向き合うオールマイトのそばに、緑谷くんを含めた四人のクラスメイトをみつける。
彼らが何をできようと、あの闘いのさなかではオールマイトの弱味にしかならない。避難させようとテレポートで飛んで行こうとしたとき、緑谷くんの声が聞こえた。
「それに時間だってないはずじゃ……」
ふと立ち止まる。
時間?
彼の表情も、皆と何か違うような。
筋肉の塊をオールマイトが圧倒的なパワーで吹っ飛ばして、思わず気圧される。
やっぱりオールマイトはすごい。あれが同じ人間の持てるパワーなのだろうか。
でも……何か。何かが不自然だった。
「出来るものならしてみろよ!!」
前のオールマイトは、ああしてただ相手を待つようなことがあっただろうか。全盛期から、やはり衰えているのだろうか。
緑谷くんを見る。気を緩めたクラスメイトと違って、やっぱり追い詰められたような顔をしている。
動かないオールマイトに、二人の敵が迫る。
と、緑谷くんが飛び出した。
「オールマイトから!離れろ!!」
あのオールマイトを、庇う?
庇おうとした?何を知って?
彼は、オールマイトの何を知っているんだろう?
***
その後すぐ飯田が増援を連れてやってきて、敵たちは消えた。
しかし。
数日間、何もできなかったという今までに増す無力感が私を覆っていた。立ち向かうどころか、私の力が通用するか否かも確かめられなかったことは、私の中に大きな後悔として残った。
そしてまた、私はオールマイトと緑谷くんには何か秘密があることをほぼ確信していた。
私が首をつっこむことではないかもしれない。オールマイトがどれほど強いかなんて知っている。緑谷くんがナンバーワンヒーローの素質を持つことも知っている。それでも、オールマイトは私と同じ人間だし、緑谷くんなんて同い年だ。もし何か大きすぎる重圧を彼らが負っているとしたら、どうにか力になりたかった。