教えて、ヒーロー
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1
「ハ!!!????」
講師室に響く、焦った声。
目の前のイレイザーヘッド……相澤さんは、彼にしては珍しく、本当に珍しく、驚愕に目を見開き固まっていた。
「すまん。聞き間違えたかもしれないからもう一度言ってくれ」
「だから、私まだ15歳です。高一と同い年ですよ、何の資格もないし同い年の子たちの講師助手なんて立場に立てないです」
「……………」
相澤さんはしばらくの硬直を経て、ゆっくりと天を仰いだ。
「…………それは、悪かったな」
「……、あの、一応聞いておきますけど、何歳だと思ってらしたんですか?」
「成人はしてると思ってた」
「マジかよ」
「…………悪かった」
二人分の沈黙が講師室に落ちた。
***
私の個性は、詳しくは後述するが、やたらと強かった。
ごく単純かつ強力な個性。使いこなすようになるには、そう時間はかからなかった。
くわえて、ヒーローをしていた父がそれを面白がって、中学にも上がらないうちから私をサイドキックとしてそばに置いたおかげで、私はバイト感覚で現場に立つことになった。子どものころの私はそれが嬉しくて、めきめきと力をつけていった。
でも。中学を卒業してすぐ、ついこの間の話である。
父は突然この世を去った。
自動車事故で、あまりに呆気なく、…死んでしまった。
もとから母はいなかったから、私はこの街に住む祖母の家に身を寄せた。塞ぎ込みがちの私を祖母は暖かく受け入れてくれて、それから私はこの近辺で、父の手伝いをしていた時に知り合ったヒーローたちのサイドキックをさせて貰ったりしつつ、これからどうしようかな、と思いながら生きていた。
そんなある日、そういった知り合いのひとり、イレイザーヘッドこと相澤さんから連絡が入った。相澤さんにはとくに良くしてもらっていて、私も相応に…というかもうべったり懐いていた。何時にどことしか書いてないいつも通り雑すぎる指定に仕事仕事〜とノコノコやってきた私は、しかしそこで衝撃の仕事内容を知らされる。とりあえず一年間の講師助手ってなんだよ無理だよ。弱冠15歳にさすがにそれは無茶振りではないだろうか。なお、サイドキック時のコスチュームは顔さえほぼ見えない露出度の低いものであるため、相澤さんが勘違いしたのも無理はない。そういうことになっている。
そうして冒頭のシーンへと戻るのである。
「じゃあ…何か…、お前は今まで何の資格も持ってない上に義務教育の身でサイドキックやって回ってたのか」
「誰にも何も言われなかったんで」
「そうか…………」
こめかみを押さえる相澤さん。
しかし困ったことになった。
「えっ、役に立たないなら即帰れとか言われる流れですかコレ」
「それは……、」
いつもならスパンと「帰れ」で叩き出されるのだろうが、さすがに悪いと思っているのか、相澤さんは口をつぐんでいる。
「というか、講師助手ってどういうことをすればいいんですか」
「まァ雑用だな」
「ブレませんね、言葉選びの酷さだけは」
「………、……」
何か言い返そうとしてパカッと開いた口を、やっぱり面倒になったのかパクンと閉じる相澤さん。
合理的というのとコミュニケーションに一切エネルギーを使わないというのは違うと思う。
「雑用ならべつに資格とかいらなくないですか?」
「いくらお前が実戦経験を豊富に持つヒーローの一人娘でも、未成年を雇うほどこの学校は甘くない」
「……まあ、そうでしょうけど」
「俺が迷ってるのはそこじゃない。未成年というだけで、お前の戦力は頼りにしている。今年はきっと激動の年になる」
激動の年。新入生が強力だということだろうか。それとも、もっと大きな…何かが、襲いかかるのだろうか。
「……一度、周りに掛け合ってみる。雇ってからゴチャゴチャ言われるのも面倒だからな」
「ありがとうございます。お願いします」
妥当なところだろう。むしろ気を遣ってもらって本当にありがたいところだ。
「あ、もしよかったら、ここの資料とかいただけますか?働けなかったとしても、日本最大級のヒーローアカデミア、ちょっと興味あります」
「そうか…別に資料ってもな…じゃあコレ持ってけ」
ダメ元で頼んでみると、明らかに適当に雑多な書類をかき集めてドスンと渡してくる相澤さん。雑すぎてアレだけど、たしかにいい人だなと思うのはこういう時だ。口に出しては言えないけれど。
「ただしすぐ返せよ。話がまとまったらまた呼ぶから、その時には持ってこい。あと流出させたりなんかしたらあることないことマスコミに吐くからな」
「許してください絶対やりません」
やっぱり怖い。目も言うこともそれが全く嘘に聞こえないことも全部怖い。すぐ返すことを心に誓った。
***
……
彼はヒーローの本質を知っている。
それは恐らく、一番大切なことだ。
彼と、話がしてみたかった。
「相澤さん!」
一週間後。
相澤さんからの連絡を待ちかねて、私はふたたび雄英へ出向いていた。
「ああ、……。……連絡できなくて悪いが、」
「そのことなんですけど!」
「私!雄英で学びたいです!相澤さん、今からどうにか、できませんか!」
私の心はあれを見た時から決まっていた。祖母は父の手伝いという枠を超えて命を危険に晒す職を目指すことに難しい顔をしていたけど、最後には頷いてくれた。経済的にも負担をかける。祖母には感謝してもしきれないが、問題はそもそも入試が終わってることにある。これは賭けだった。もし無理なら…来年また受ければいい話だ。
「………は?」
息が上がったまま唐突に無茶を言いだす私を、相澤さんはなんだコイツはという目で見ている。当然だ。
「やっぱり、無理ですか」
「いや無理とか無理じゃないとか以前にだな」
「こっそり!だめですかっ?!」
「ちょ、やめろ、声を抑えろお前」
主に私が騒いでいるせいで、先生たちの好奇の視線が集まる。
「あら、この子がこの間相澤が言ってた助手にしたいって子?カワイーじゃないの」
背後から巻きつくミッドナイトとか、
「ヘイヘイヘイコリャまたリトルなgirl!!今日はどうしたんだいセイヘェェイ!!??」
煩いひととか、
「サワガシイナ」
怖めのひととか、
「HAHAHAHAHA!!話は聞かせてもらったぜ……少女!でももう大丈夫、私が来た!!!」
オールマイ…オールマイト!?とか、
「無理なことはないと思いますよ。ほら、こういう制度が」
癒しかつ一番有用な情報をくれるひととか。私この人大好きになった。今。
「えっと、13号先生…?その、転入制度っていうのは、どういったものなんでしょうか?」
「これはですね、………」
13号先生ありがとう。遅くなかった!
***
「なるほど…!じゃあこれ書類用意して明日には出しにきますね!助かりました!ありがとうございます先生!」
「いえいえ〜」
嵐のように去っていった……に、
「……あいつ、本気かよ…………」
何もしてないのに疲れ切って、相澤は深々と溜息を吐いた。
そこに、激しい蒸気を吹き出して瘦せぎすの姿に戻ったオールマイトが話しかけてくる。
「君が助手にすると言ってたのは彼女かい?」
「ああ、オールマイト。そう…少し勘違いをしていて、それはできなくなったんですが」
「Fmm…転入してくるとなると、彼女は実戦経験がある生徒というわけだ!」
「実力は確かですね。一年の中では…条件にもよりますが、ぶっちぎりでトップかと」
「相澤くんは彼女を随分買っているんだね」
「買いかぶってはいません。実際に敵と交戦するというのは、大きな経験になるものでしょう。それに…彼女の能力には底がない」
「Wha!?どういうことだい?いわゆる『MP』が格段に豊富なのかな?」
「ただ、個性に頼りすぎる面は否めませんね……単純なパワーや正面からの戦闘、肉体・精神の痛みには滅法弱い。ここに来てそれを克服できるか……ま、俺の知ったことでもないか」
「スルーつらいよ、相澤くん……」
「いかに厳しくとも…越えてこい、……。"Plus ultra"だ」
「かっこいいこと言ってる……相澤くんズルい……」
「ハ!!!????」
講師室に響く、焦った声。
目の前のイレイザーヘッド……相澤さんは、彼にしては珍しく、本当に珍しく、驚愕に目を見開き固まっていた。
「すまん。聞き間違えたかもしれないからもう一度言ってくれ」
「だから、私まだ15歳です。高一と同い年ですよ、何の資格もないし同い年の子たちの講師助手なんて立場に立てないです」
「……………」
相澤さんはしばらくの硬直を経て、ゆっくりと天を仰いだ。
「…………それは、悪かったな」
「……、あの、一応聞いておきますけど、何歳だと思ってらしたんですか?」
「成人はしてると思ってた」
「マジかよ」
「…………悪かった」
二人分の沈黙が講師室に落ちた。
***
私の個性は、詳しくは後述するが、やたらと強かった。
ごく単純かつ強力な個性。使いこなすようになるには、そう時間はかからなかった。
くわえて、ヒーローをしていた父がそれを面白がって、中学にも上がらないうちから私をサイドキックとしてそばに置いたおかげで、私はバイト感覚で現場に立つことになった。子どものころの私はそれが嬉しくて、めきめきと力をつけていった。
でも。中学を卒業してすぐ、ついこの間の話である。
父は突然この世を去った。
自動車事故で、あまりに呆気なく、…死んでしまった。
もとから母はいなかったから、私はこの街に住む祖母の家に身を寄せた。塞ぎ込みがちの私を祖母は暖かく受け入れてくれて、それから私はこの近辺で、父の手伝いをしていた時に知り合ったヒーローたちのサイドキックをさせて貰ったりしつつ、これからどうしようかな、と思いながら生きていた。
そんなある日、そういった知り合いのひとり、イレイザーヘッドこと相澤さんから連絡が入った。相澤さんにはとくに良くしてもらっていて、私も相応に…というかもうべったり懐いていた。何時にどことしか書いてないいつも通り雑すぎる指定に仕事仕事〜とノコノコやってきた私は、しかしそこで衝撃の仕事内容を知らされる。とりあえず一年間の講師助手ってなんだよ無理だよ。弱冠15歳にさすがにそれは無茶振りではないだろうか。なお、サイドキック時のコスチュームは顔さえほぼ見えない露出度の低いものであるため、相澤さんが勘違いしたのも無理はない。そういうことになっている。
そうして冒頭のシーンへと戻るのである。
「じゃあ…何か…、お前は今まで何の資格も持ってない上に義務教育の身でサイドキックやって回ってたのか」
「誰にも何も言われなかったんで」
「そうか…………」
こめかみを押さえる相澤さん。
しかし困ったことになった。
「えっ、役に立たないなら即帰れとか言われる流れですかコレ」
「それは……、」
いつもならスパンと「帰れ」で叩き出されるのだろうが、さすがに悪いと思っているのか、相澤さんは口をつぐんでいる。
「というか、講師助手ってどういうことをすればいいんですか」
「まァ雑用だな」
「ブレませんね、言葉選びの酷さだけは」
「………、……」
何か言い返そうとしてパカッと開いた口を、やっぱり面倒になったのかパクンと閉じる相澤さん。
合理的というのとコミュニケーションに一切エネルギーを使わないというのは違うと思う。
「雑用ならべつに資格とかいらなくないですか?」
「いくらお前が実戦経験を豊富に持つヒーローの一人娘でも、未成年を雇うほどこの学校は甘くない」
「……まあ、そうでしょうけど」
「俺が迷ってるのはそこじゃない。未成年というだけで、お前の戦力は頼りにしている。今年はきっと激動の年になる」
激動の年。新入生が強力だということだろうか。それとも、もっと大きな…何かが、襲いかかるのだろうか。
「……一度、周りに掛け合ってみる。雇ってからゴチャゴチャ言われるのも面倒だからな」
「ありがとうございます。お願いします」
妥当なところだろう。むしろ気を遣ってもらって本当にありがたいところだ。
「あ、もしよかったら、ここの資料とかいただけますか?働けなかったとしても、日本最大級のヒーローアカデミア、ちょっと興味あります」
「そうか…別に資料ってもな…じゃあコレ持ってけ」
ダメ元で頼んでみると、明らかに適当に雑多な書類をかき集めてドスンと渡してくる相澤さん。雑すぎてアレだけど、たしかにいい人だなと思うのはこういう時だ。口に出しては言えないけれど。
「ただしすぐ返せよ。話がまとまったらまた呼ぶから、その時には持ってこい。あと流出させたりなんかしたらあることないことマスコミに吐くからな」
「許してください絶対やりません」
やっぱり怖い。目も言うこともそれが全く嘘に聞こえないことも全部怖い。すぐ返すことを心に誓った。
***
……
彼はヒーローの本質を知っている。
それは恐らく、一番大切なことだ。
彼と、話がしてみたかった。
「相澤さん!」
一週間後。
相澤さんからの連絡を待ちかねて、私はふたたび雄英へ出向いていた。
「ああ、……。……連絡できなくて悪いが、」
「そのことなんですけど!」
「私!雄英で学びたいです!相澤さん、今からどうにか、できませんか!」
私の心はあれを見た時から決まっていた。祖母は父の手伝いという枠を超えて命を危険に晒す職を目指すことに難しい顔をしていたけど、最後には頷いてくれた。経済的にも負担をかける。祖母には感謝してもしきれないが、問題はそもそも入試が終わってることにある。これは賭けだった。もし無理なら…来年また受ければいい話だ。
「………は?」
息が上がったまま唐突に無茶を言いだす私を、相澤さんはなんだコイツはという目で見ている。当然だ。
「やっぱり、無理ですか」
「いや無理とか無理じゃないとか以前にだな」
「こっそり!だめですかっ?!」
「ちょ、やめろ、声を抑えろお前」
主に私が騒いでいるせいで、先生たちの好奇の視線が集まる。
「あら、この子がこの間相澤が言ってた助手にしたいって子?カワイーじゃないの」
背後から巻きつくミッドナイトとか、
「ヘイヘイヘイコリャまたリトルなgirl!!今日はどうしたんだいセイヘェェイ!!??」
煩いひととか、
「サワガシイナ」
怖めのひととか、
「HAHAHAHAHA!!話は聞かせてもらったぜ……少女!でももう大丈夫、私が来た!!!」
オールマイ…オールマイト!?とか、
「無理なことはないと思いますよ。ほら、こういう制度が」
癒しかつ一番有用な情報をくれるひととか。私この人大好きになった。今。
「えっと、13号先生…?その、転入制度っていうのは、どういったものなんでしょうか?」
「これはですね、………」
13号先生ありがとう。遅くなかった!
***
「なるほど…!じゃあこれ書類用意して明日には出しにきますね!助かりました!ありがとうございます先生!」
「いえいえ〜」
嵐のように去っていった……に、
「……あいつ、本気かよ…………」
何もしてないのに疲れ切って、相澤は深々と溜息を吐いた。
そこに、激しい蒸気を吹き出して瘦せぎすの姿に戻ったオールマイトが話しかけてくる。
「君が助手にすると言ってたのは彼女かい?」
「ああ、オールマイト。そう…少し勘違いをしていて、それはできなくなったんですが」
「Fmm…転入してくるとなると、彼女は実戦経験がある生徒というわけだ!」
「実力は確かですね。一年の中では…条件にもよりますが、ぶっちぎりでトップかと」
「相澤くんは彼女を随分買っているんだね」
「買いかぶってはいません。実際に敵と交戦するというのは、大きな経験になるものでしょう。それに…彼女の能力には底がない」
「Wha!?どういうことだい?いわゆる『MP』が格段に豊富なのかな?」
「ただ、個性に頼りすぎる面は否めませんね……単純なパワーや正面からの戦闘、肉体・精神の痛みには滅法弱い。ここに来てそれを克服できるか……ま、俺の知ったことでもないか」
「スルーつらいよ、相澤くん……」
「いかに厳しくとも…越えてこい、……。"Plus ultra"だ」
「かっこいいこと言ってる……相澤くんズルい……」