教えて、ヒーロー
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7
三日目の夜。
今日も今日とてボロボログタグタの状態になって、調理タイムである。
「爆豪は人参の皮は剥く派なんだ?」
「あ?当たり前だろ、食感が悪い」
「私はあったほうが栄養摂れるしそのまま切ってたんだけど、じゃあ次からは剥いてあげよう」
「ああ!?ふざけんな早く言えやポッと出!!」
「ごめんて」
包丁係に任命されたので爆豪と並んで食材を切っている。この人の扱いにも大概慣れてきた。苛烈な割に繊細で神経質で、実は真面目な爆豪は、慣れればそう付き合いづらい人物ではなかった。転入したのは四月のことだし、いい加減ポッと出と呼ぶのはやめていただきたいのだが。
「…うん、洸汰くんのことで…」
洸汰、という名前が聞こえて、目を向ける。緑谷くんと轟が話していた。
やっぱり緑谷くんは洸汰くんと話をしたようだった。
「え、……さんも洸汰くんと話したの!?」
「うん。個性の訓練中、ひみつきち、見つけちゃって。……なにか言わなきゃって思ったんだけど、なんも言えなかった」
「うん……僕らが何を言ったところで、洸汰くんには……。僕は、それ失念してて、余計なこと言っちゃってさ。轟くんにも、通りすがりが首突っ込むことじゃないって諭された」
肉じゃがを口に運びながら頷く。
多分今私と彼は同じ歯がゆさを感じている。緑谷くんもこういうことでは悩むんだな、と、少しその背中が近く見えた。
しばらく迷って、考えていたことを口に出す。
「ステインに似てるとも、少し思った」
「……っ、え?」
「ヒーローの腐敗、瓦解への、拒絶と怒り……もちろん根本は全然別だけどさ、……正義感が強すぎるところとか、たぶん同じなんじゃないかな」
「…………」
考え込む緑谷くん。
ステインの話は、やはりあまりするべきではなかっただろうか。洸汰くんに話してみたいと思っていたけど、間違いだったかもしれない。
が、緑谷くんは顔を上げて、「確かに、その考えは的を得てると思う」と肯定してくれた。
***
夕飯を食べ終え、クラス対抗肝試しの時間。
補習に引きずられていく五人を涙を堪えて敬礼で送り、くじ引きで二人組を決める。
私は緑谷くんと組むことになった。
5組めが森へ入っていった直後。
「何この、焦げ臭いの……?」
森から悲鳴と、……黒煙?が上がっていることにプロ二人が気付いた、その瞬間ーー
ドス、と音を立てて、いきなりピクシーボブの体が何かに叩きつけられ引き倒される。
「!?」
「飼い猫ちゃんは…ジャマね」
「な、な……」
「何で敵がいるんだよォ!!!」
峰田の悲鳴が響く。
ピクシーボブを足蹴にして、二人の敵が現れたのだ。もちろん敵は二人だけでないのは明らかだった。
緊張が一気に高まり、襲いかかる敵にマンダレイと虎が応戦する。
「行こう!!」
飯田に続いて広場に背を向けようとしたとき…緑谷くんが森へ駆け出すのが見えた。
洸汰くんーー!!
彼の腕をひっ掴んで、「じっとして!」と叫ぶ。
「……さん!?」
「いいから。あとごめん、一発じゃ行けないけど離さないでね…いくよ!」
「ちょっと!!??」
問答無用で引き寄せ、腕を回して密着する。神経を集中させて、あの場所の座標を意識してーー
ーー結局一回では行けなかったが、無事に辿り着いた。
着地した瞬間、洸汰くんの正面に敵が立ち塞がっているのが目に飛び込んできて、
「ぐっ…!」
私が洸汰くんと拳の間に入るのと、緑谷が洸汰くんを抱えて飛び退くのが同時だった。
敵の超パワーをもろに受け、意識が飛びそうになる。
「……さん!」
「だいじょーぶ」
どうにか持ちこたえて、緑谷のところまでテレポート。内臓がズキズキと痛む。
「……さん、二人連れてテレポートはーー」
「あの速さ見てるとできそうにない、ごめん」
「じゃあ洸汰くんだけは」
「そんなんできるはずないでしょ。倒すまで付き合うから」
早口で会議。緑谷の中ではもう戦って倒して、洸汰くんを守ることは決まっているようだった。私もそれは同じ。
目を合わせて頷く。
やるしかないのだ。
「ぐ、うあっ……!!」
単純な増強の強さに、私と緑谷はいいようにいたぶられていた。
私はまだマシなほうだが、問題は緑谷だった。同じ増強型?の個性で、今のままだと下位互換。見るからにボロボロで、彼の身を案じて歯を食いしばった。
内臓を狙って、テレポート。筋肉の層の厚さにやっと慣れてきた。敵の体に深々と突き刺した脚を回しながら抜いて、殴られないうちに飛び退く。脚についた血を見るにかなりのダメージを与えたと思うのだが、相手のタフネスは想像を超えていた。
と、緑谷が折れた腕を敵の筋繊維に絡めて、拳を振りかぶるのが見えた。来る!
「うわ!」
衝撃に備える間もなく吹っ飛ばされる。と、一緒に吹っ飛ばされている洸汰くんが見えて、彼のもとへ跳んだ。抱きかかえて、緑谷を探す。やった、だろうか?
「緑谷、大丈夫?」
「ん、……さん…ありがと、ごめん吹っ飛ばして。…施設に行こう、こっからは近………」
「緑谷!」
敵は、倒れてなかった。
「う、緑谷っ洸汰くんは任せて!」
「ごめんお願い!」
洸汰くんを無理やり背負った瞬間、今までとは比べものにならないパワーで敵の拳が振るわれた。
山の一部が欠けて崩壊する。あれが直撃したら……ぞわ、と寒気が走って、緑谷のもとへ跳んだ。
「………いける?」
「………やるよ」
「ムリだよ、おまえの攻撃効かなかったじゃん、それにーー!」
満身創痍の緑谷が、横で頷く。
無茶を言っている。死ぬかもしれないなと思った。でも、緑谷は、「大丈夫」って言って折れた腕で拳を作るのだ。それが彼だった。
「……さん、頼むね」
「任せて、ヒーロー」
頼もしい背中は、そして打ち勝つ。
上回り、吹っ飛ばし、崖に叩きつけて、勝利に吼える緑谷を見て、やっぱり遠いなとぼんやり思った。
「あ、オイ…」
「わ、緑谷っ」
フラつく彼を支えて、肩を貸す。
「とりあえず二人を合宿所まで連れてく。マンダレイへの伝達は私やるから。爆豪探すのも、全部、やるから、緑谷は休んで」
「そんなわけには、いかないだろ」
「…緑谷!まだ動く気?ボロボロだよ」
「やれるから…やるんだ!僕が動いて救けられるなら…動かなきゃいけないだろ」
顔をしかめて戦力外通告を受け入れる。緑谷はこういう時驚くほど強情だ。一種の狂気を感じるほど。言い合うのも時間の無駄だと諦めて、せめてもと提案した。
「分かった。でも移動には私を使って。その方が速いから。それで…何よりもまず、君を守らなきゃいけない」
洸汰くんに目をやる。
緑谷が私の言葉を引き取って、続けた。
「君にしかできないことがある。森に火をつけられてる……わかるかい?
君のその"個性"が必要だ。
僕らを救けて。さっきみたいに」
二人を連れて合宿所近くまでテレポートしたとき、相澤さんを見つけた。
「先生!よかった」
「緑谷に、………!?」
洸汰くんを預けて、
「処分受けんのは、俺だけでいい」
伝言を預かる。
「こんな訳もわからんままやられるなよ……卵ども」
「「はい!」」
マンダレイのテレパスが頭に響く。
マンダレイへの伝達のあと、私と緑谷はテレポートを使わず、走って森の中を抜けていた。爆豪がどこにいるのか分からないためだ。
「…緑谷、かっちゃんとしか伝えなかったのは間違いだったんじゃないかな」
「そういえばそうだった……必死すぎてそこまで考えてなかったよ」
警戒しながら進んでいたとき、
「緑谷!」
「!?」
木がなぎ倒される轟音とともに、黒い影が襲いかかってきた。咄嗟に彼を突き飛ばすが、間に合っただろうか?
「……さん!」
「っつ……大丈夫!?」
「僕は平気……障子くんが」
え、と顔をあげると、障子が緑谷を背負って立っていた。
彼が差し出した手をありがたく借りて、立ち上がる。幸いそこまでのダメージではなかった。
「障子……あれは……?」
「ああ。敵に奇襲をかけられ、俺が庇った……しかしそれが、奴の抑えていた黒影が暴走を始めるトリガーとなってしまった」
黒影の中心に、苦しむ常闇の姿があった。
「……今や動きや音に反応して無差別に攻撃を繰り出すだけの…モンスターと化している」
「鎮まれっ……ダーク…シャドウ!!」
***
緑谷の機転で、爆豪と轟のもとへ。
必死に黒影をかわし、いなし、時に障子に代わって引きつけながら、
「いた!氷が見える、交戦中だ!」
見つけた!
暴れ猛る黒影が爆豪たちを襲っていた敵を一瞬で潰し、黒影の暴走は爆豪と轟の炎によって鎮められた。
「てめェと俺の相性が残念だぜ…」
「…?すまん助かった」
前から思ってたけど、爆豪って常闇の個性好きだよね。
「常闇、大丈夫か」
「障子…悪かった…緑谷に、……も……俺の心が未熟だった」
常闇の個性、黒影。闇の深さに加えて、彼自身の感情も狂暴性に影響するのだという。昼間はあんな可愛らしいのに、今見たあれは確かに魔神のようだった。
爆豪を護衛し、合宿所まで送り届けることで話がまとまる。私が一発で移動するよと言ったのだが、できるだけ大人数でいた方がいいという結論に至った。あと爆豪に思いっきり拒否された。ちょっとだけ傷ついた。
しんがりを歩いていた。
油断していたつもりはなかった。
思えば、索敵に優れた障子くんに任せるべき場所だったのだ。それどころじゃない、それ以前に、爆豪を強引にテレポートで送り届けておけばよかった。
音もなく襲う個性に、なす術もなかった。
私は爆豪、常闇と一緒に「圧縮」されて、……それから暗い場所に押し込められた。
次に私が私を取り戻した時には、遅かった。
パッ、と空中に体があって、地面に転がって、振り向くと爆豪がモヤに呑まれるところだった。
「かっちゃん!!」
「……来んな、デク」
爆豪は、最後に私たちを拒絶して……
そうして、目の前から奪われる。
完全敗北を喫した瞬間だった。
楽しみにしていた林間合宿は、最悪の結果で幕を閉じた。
三日目の夜。
今日も今日とてボロボログタグタの状態になって、調理タイムである。
「爆豪は人参の皮は剥く派なんだ?」
「あ?当たり前だろ、食感が悪い」
「私はあったほうが栄養摂れるしそのまま切ってたんだけど、じゃあ次からは剥いてあげよう」
「ああ!?ふざけんな早く言えやポッと出!!」
「ごめんて」
包丁係に任命されたので爆豪と並んで食材を切っている。この人の扱いにも大概慣れてきた。苛烈な割に繊細で神経質で、実は真面目な爆豪は、慣れればそう付き合いづらい人物ではなかった。転入したのは四月のことだし、いい加減ポッと出と呼ぶのはやめていただきたいのだが。
「…うん、洸汰くんのことで…」
洸汰、という名前が聞こえて、目を向ける。緑谷くんと轟が話していた。
やっぱり緑谷くんは洸汰くんと話をしたようだった。
「え、……さんも洸汰くんと話したの!?」
「うん。個性の訓練中、ひみつきち、見つけちゃって。……なにか言わなきゃって思ったんだけど、なんも言えなかった」
「うん……僕らが何を言ったところで、洸汰くんには……。僕は、それ失念してて、余計なこと言っちゃってさ。轟くんにも、通りすがりが首突っ込むことじゃないって諭された」
肉じゃがを口に運びながら頷く。
多分今私と彼は同じ歯がゆさを感じている。緑谷くんもこういうことでは悩むんだな、と、少しその背中が近く見えた。
しばらく迷って、考えていたことを口に出す。
「ステインに似てるとも、少し思った」
「……っ、え?」
「ヒーローの腐敗、瓦解への、拒絶と怒り……もちろん根本は全然別だけどさ、……正義感が強すぎるところとか、たぶん同じなんじゃないかな」
「…………」
考え込む緑谷くん。
ステインの話は、やはりあまりするべきではなかっただろうか。洸汰くんに話してみたいと思っていたけど、間違いだったかもしれない。
が、緑谷くんは顔を上げて、「確かに、その考えは的を得てると思う」と肯定してくれた。
***
夕飯を食べ終え、クラス対抗肝試しの時間。
補習に引きずられていく五人を涙を堪えて敬礼で送り、くじ引きで二人組を決める。
私は緑谷くんと組むことになった。
5組めが森へ入っていった直後。
「何この、焦げ臭いの……?」
森から悲鳴と、……黒煙?が上がっていることにプロ二人が気付いた、その瞬間ーー
ドス、と音を立てて、いきなりピクシーボブの体が何かに叩きつけられ引き倒される。
「!?」
「飼い猫ちゃんは…ジャマね」
「な、な……」
「何で敵がいるんだよォ!!!」
峰田の悲鳴が響く。
ピクシーボブを足蹴にして、二人の敵が現れたのだ。もちろん敵は二人だけでないのは明らかだった。
緊張が一気に高まり、襲いかかる敵にマンダレイと虎が応戦する。
「行こう!!」
飯田に続いて広場に背を向けようとしたとき…緑谷くんが森へ駆け出すのが見えた。
洸汰くんーー!!
彼の腕をひっ掴んで、「じっとして!」と叫ぶ。
「……さん!?」
「いいから。あとごめん、一発じゃ行けないけど離さないでね…いくよ!」
「ちょっと!!??」
問答無用で引き寄せ、腕を回して密着する。神経を集中させて、あの場所の座標を意識してーー
ーー結局一回では行けなかったが、無事に辿り着いた。
着地した瞬間、洸汰くんの正面に敵が立ち塞がっているのが目に飛び込んできて、
「ぐっ…!」
私が洸汰くんと拳の間に入るのと、緑谷が洸汰くんを抱えて飛び退くのが同時だった。
敵の超パワーをもろに受け、意識が飛びそうになる。
「……さん!」
「だいじょーぶ」
どうにか持ちこたえて、緑谷のところまでテレポート。内臓がズキズキと痛む。
「……さん、二人連れてテレポートはーー」
「あの速さ見てるとできそうにない、ごめん」
「じゃあ洸汰くんだけは」
「そんなんできるはずないでしょ。倒すまで付き合うから」
早口で会議。緑谷の中ではもう戦って倒して、洸汰くんを守ることは決まっているようだった。私もそれは同じ。
目を合わせて頷く。
やるしかないのだ。
「ぐ、うあっ……!!」
単純な増強の強さに、私と緑谷はいいようにいたぶられていた。
私はまだマシなほうだが、問題は緑谷だった。同じ増強型?の個性で、今のままだと下位互換。見るからにボロボロで、彼の身を案じて歯を食いしばった。
内臓を狙って、テレポート。筋肉の層の厚さにやっと慣れてきた。敵の体に深々と突き刺した脚を回しながら抜いて、殴られないうちに飛び退く。脚についた血を見るにかなりのダメージを与えたと思うのだが、相手のタフネスは想像を超えていた。
と、緑谷が折れた腕を敵の筋繊維に絡めて、拳を振りかぶるのが見えた。来る!
「うわ!」
衝撃に備える間もなく吹っ飛ばされる。と、一緒に吹っ飛ばされている洸汰くんが見えて、彼のもとへ跳んだ。抱きかかえて、緑谷を探す。やった、だろうか?
「緑谷、大丈夫?」
「ん、……さん…ありがと、ごめん吹っ飛ばして。…施設に行こう、こっからは近………」
「緑谷!」
敵は、倒れてなかった。
「う、緑谷っ洸汰くんは任せて!」
「ごめんお願い!」
洸汰くんを無理やり背負った瞬間、今までとは比べものにならないパワーで敵の拳が振るわれた。
山の一部が欠けて崩壊する。あれが直撃したら……ぞわ、と寒気が走って、緑谷のもとへ跳んだ。
「………いける?」
「………やるよ」
「ムリだよ、おまえの攻撃効かなかったじゃん、それにーー!」
満身創痍の緑谷が、横で頷く。
無茶を言っている。死ぬかもしれないなと思った。でも、緑谷は、「大丈夫」って言って折れた腕で拳を作るのだ。それが彼だった。
「……さん、頼むね」
「任せて、ヒーロー」
頼もしい背中は、そして打ち勝つ。
上回り、吹っ飛ばし、崖に叩きつけて、勝利に吼える緑谷を見て、やっぱり遠いなとぼんやり思った。
「あ、オイ…」
「わ、緑谷っ」
フラつく彼を支えて、肩を貸す。
「とりあえず二人を合宿所まで連れてく。マンダレイへの伝達は私やるから。爆豪探すのも、全部、やるから、緑谷は休んで」
「そんなわけには、いかないだろ」
「…緑谷!まだ動く気?ボロボロだよ」
「やれるから…やるんだ!僕が動いて救けられるなら…動かなきゃいけないだろ」
顔をしかめて戦力外通告を受け入れる。緑谷はこういう時驚くほど強情だ。一種の狂気を感じるほど。言い合うのも時間の無駄だと諦めて、せめてもと提案した。
「分かった。でも移動には私を使って。その方が速いから。それで…何よりもまず、君を守らなきゃいけない」
洸汰くんに目をやる。
緑谷が私の言葉を引き取って、続けた。
「君にしかできないことがある。森に火をつけられてる……わかるかい?
君のその"個性"が必要だ。
僕らを救けて。さっきみたいに」
二人を連れて合宿所近くまでテレポートしたとき、相澤さんを見つけた。
「先生!よかった」
「緑谷に、………!?」
洸汰くんを預けて、
「処分受けんのは、俺だけでいい」
伝言を預かる。
「こんな訳もわからんままやられるなよ……卵ども」
「「はい!」」
マンダレイのテレパスが頭に響く。
マンダレイへの伝達のあと、私と緑谷はテレポートを使わず、走って森の中を抜けていた。爆豪がどこにいるのか分からないためだ。
「…緑谷、かっちゃんとしか伝えなかったのは間違いだったんじゃないかな」
「そういえばそうだった……必死すぎてそこまで考えてなかったよ」
警戒しながら進んでいたとき、
「緑谷!」
「!?」
木がなぎ倒される轟音とともに、黒い影が襲いかかってきた。咄嗟に彼を突き飛ばすが、間に合っただろうか?
「……さん!」
「っつ……大丈夫!?」
「僕は平気……障子くんが」
え、と顔をあげると、障子が緑谷を背負って立っていた。
彼が差し出した手をありがたく借りて、立ち上がる。幸いそこまでのダメージではなかった。
「障子……あれは……?」
「ああ。敵に奇襲をかけられ、俺が庇った……しかしそれが、奴の抑えていた黒影が暴走を始めるトリガーとなってしまった」
黒影の中心に、苦しむ常闇の姿があった。
「……今や動きや音に反応して無差別に攻撃を繰り出すだけの…モンスターと化している」
「鎮まれっ……ダーク…シャドウ!!」
***
緑谷の機転で、爆豪と轟のもとへ。
必死に黒影をかわし、いなし、時に障子に代わって引きつけながら、
「いた!氷が見える、交戦中だ!」
見つけた!
暴れ猛る黒影が爆豪たちを襲っていた敵を一瞬で潰し、黒影の暴走は爆豪と轟の炎によって鎮められた。
「てめェと俺の相性が残念だぜ…」
「…?すまん助かった」
前から思ってたけど、爆豪って常闇の個性好きだよね。
「常闇、大丈夫か」
「障子…悪かった…緑谷に、……も……俺の心が未熟だった」
常闇の個性、黒影。闇の深さに加えて、彼自身の感情も狂暴性に影響するのだという。昼間はあんな可愛らしいのに、今見たあれは確かに魔神のようだった。
爆豪を護衛し、合宿所まで送り届けることで話がまとまる。私が一発で移動するよと言ったのだが、できるだけ大人数でいた方がいいという結論に至った。あと爆豪に思いっきり拒否された。ちょっとだけ傷ついた。
しんがりを歩いていた。
油断していたつもりはなかった。
思えば、索敵に優れた障子くんに任せるべき場所だったのだ。それどころじゃない、それ以前に、爆豪を強引にテレポートで送り届けておけばよかった。
音もなく襲う個性に、なす術もなかった。
私は爆豪、常闇と一緒に「圧縮」されて、……それから暗い場所に押し込められた。
次に私が私を取り戻した時には、遅かった。
パッ、と空中に体があって、地面に転がって、振り向くと爆豪がモヤに呑まれるところだった。
「かっちゃん!!」
「……来んな、デク」
爆豪は、最後に私たちを拒絶して……
そうして、目の前から奪われる。
完全敗北を喫した瞬間だった。
楽しみにしていた林間合宿は、最悪の結果で幕を閉じた。
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