教えて、ヒーロー
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5.5-2 図書だよりと心操
体育祭から数日、私は図書委員の当番で図書館のカウンターにいた。
本を読むのは好きだし、図書館という空間も大好きなので、図書委員になれて良かったと思う。雄英の図書館は期待通り広大で余裕があり、蔵書も豊富だったので、私はすっかりこの場所が気に入ってよく入り浸っていた。資料室や一般に貸し出されない図書の倉庫に自由に入れることもちょっとした特権だった。濫用するつもりはもちろん今の所ないけれど、時々閉館後にこっそり知的好奇心を満たしたりしている。
閑話休題。
そうした楽しい図書委員だけれど、その日は少し切羽詰まっていた。季節ごとに発行している図書だよりの「夏」号の〆切が迫っていたのである。
ノートパソコンを持ち込んでカタカタやっていると、ふとカウンターに影がさすのに気づく。貸出かな、とコードリーダー(ピッてやるやつ)を手にして顔を上げるとそこには、
「ああ、…あんた、この間の」
心操人使が立っていた。
「あ、どうも」
「は、……」
「……貸出ですよね?本、預かります」
「えっ。あ、ああ…」
薄々思っていたけど、この人ちょっとコミュ障気味だ。私も人のことは言えないんだけれど、彼にはなんというか…人ときちんと話すのを端から諦めて斜に構えているようなところがある、気がする。
貸出の手続きが終わって、返却期限を添えて差し出すが、心操はまだそこから立ち去ろうとせず、こちらを伺っていた。
「……心操?なにか、話でもあるの?」
敬語を解いて話しかけると、ちょっと驚いたようにして、それから意を決したように、
「………、ある。当番いつ終わる?」
「え、……5時半には」
「じゃそれまで待ってる、奥にいるから終わったら声掛けて」
「えっ、ええ?デート?」
「は!?違っ……やめろ」
驚きのままについからかってしまった。折角の珍しい巡り合わせをフイにするところだった、危ない…。心操は苛立ったように眉を寄せてどこかへ行ってしまったけれど、その後ろ姿を見ていた私は、雑に逆立てた髪の隙間から見える耳が少し赤くなっていることにバッチリ気付いていた。外見と表情はまるでヴィランのようだと感じさせるのに、初心というか、可愛いところもあるものだ。
心操にしてやられた体育祭から日が浅い。彼の興味深い個性についてぜひ詳しく知りたいと思っていたので、私にとってこれはかなりの好機だった。うきうきして、今のうちに図書だよりを書き上げてしまおうと腕まくりをした。
***
………。
結論から言うと、当番の終わる5時半になっても、原稿は埋まり切っていなかった。見通しが甘かったというべきか、単に私の文章力が至らないせいか、あと3分の2ページほどスペースが余るのだ。空白で出すのは何だか落ち着かない。イラストを挟むか、もしかしたらレイアウトを見直してみればどうにか纏まるかもしれない。どうするにせよ今夜は踏ん張らないと…と肩を落としてカウンターを出る。
心操を探して本棚の方へ向かうと、彼は相当奥まったところの、さらに隅にある椅子で舟を漕いでいた。手には読み切ったらしい薄い文庫本。私のまだ読んだことのない本だった。
本に少し興味を惹かれながらも、待たせてしまったことに改めて罪悪感を感じる。とりあえず起こそうと、小声で呼びかけながら肩にそっと手を置いて揺らした。
「心操……起きて、心操」
「……ん、………?」
「おはよ」
「!?………あ、悪い」
「ううん、こちらこそ待たせてごめん」
居心地悪そうにする心操に、悪かったなと思いながら首を振る。行こう、と促すと、彼は猫のようにぶるりと身を震わせて立ち上がった。
陽の落ちかけた駅への道を二人で歩く。
心操が口を開くのを待っていると、彼は案外早くに話し出した。
「話があるとか言ったけど、そんな大したことじゃなくて……わざわざ、悪いな」
「?いや、私も待たせちゃったし…謝らないでほしいくらいで」
「…ていうか。あんたは俺になんか、ないのかよ」
「なんか?」
何か。私は彼になにか文句をつけなければならないようなことをされただろうか。私が純粋に疑問符を浮かべていることに気付くと、彼はイライラしたようにため息をついた。
「あんだろ。体育祭で、あんなことされてさ。辞退なんてして、…よほど嫌だっただろ、お気の毒さま」
「ああ、そのこと。うーん…」
本当に敵を作るような言い回しをするから分かりにくいけれど、要は洗脳して駒として使って悪かった、というところだろうか?
私は実のところ、洗脳されたこと自体に怒っているわけではないのだが、それはどう伝えれば良いものか。
「…確かに思うことはあるけど、とりあえず心操さ。その余計な一言付け足すの、やめない?」
「……、あんたには関係ないだろ」
「……これからお前と話すのは誰だ」
「っ、」
「関係ある。今、心操と話してるのは私だから。違う?」
立ち止まって彼の目を見あげる。逆光でよく分からない表情が、どこか急にすごく不安そうに見えて、ちょっと慌てた。
「ていうか名前知ってる?」
「…知ってるに決まってるだろ」
「呼ばないんだもん」
「………。……。………、……、だろ」
「おわ…知ってたんだ」
「あんたどんだけ馬鹿にしてたんだ…?」
「違うってば!一回も呼んでくれなかったし…!」
あと、駒にしたヒトになんて興味がないだけかなーとか思ってなかったわけじゃないけど…これは、言わない。心操は思っていたより、暖かい人だと分かったから。
「それでね。話戻すけど、私は洗脳されたこと自体に怒ってるわけじゃないのね。ていうか今、辞退したことが心操にプレッシャーかけることになったかなって思って焦ってる。考えが足りなかった、ごめん」
「…別に………じゃ、何」
「うん。あのね。私障害物競走で2位だったの、見てたでしょ?」
「それが何だよ」
「実力はあるつもりなのね」
「だからっ、」
「だから!……洗脳されてる最中の私、あとで映像で見たけど、心操は私に全然個性使わせたりしてなかったじゃない。あれよりも洗脳されてない私でいた方が、もっとずっとうまく立ち回れた。騎馬が崩れても許容されるあの騎馬戦、瞬間移動っていう私の個性なら、一人でいたってポンポン他の騎馬からハチマキ取りまくれるの!」
「………何が言いたいんだ?」
「要は、上手く使え!っていうこと!」
「……!?」
目を見開いている心操に構わず、私は続ける。
「実際私の個性はすごく有利だった。自意識過剰とかじゃなくて、使い勝手がいいって話ね。仮定の話ではあるけど、私の個性はまだあまり皆に「慣れ」られてなかったことも踏まえて、だいぶいいとこいったと思うし、その、だから……」
「………あんた、変な奴だな」
「え」
喋りながら着地点が見えなくなってきたあたりで、心操がポツリと呟いたので、内心感謝しながら話を止める。
「緑谷もそうだった。…フツーさ、俺の個性知った奴は、俺と話すとき構えるんだよ。警戒する。むしろそうしないのは馬鹿だ」
「………」
面と向かって馬鹿と言い放たれて、私は味わい深い顔になる。
「俺も個性の操作が完璧な訳じゃない。何が起きて悪意に染まるかも分からない。わざわざそーやって上からアドバイス賜って悪いけど、言っとくからな、あんな目にもう遭いたくないなら…もう関わるな。せいぜいもっと警戒しろよ」
…不器用な人だ。
猫みたいに威嚇して、凄んでみせるけれど、寂しいと言ってるようにしか聞こえない。
「ご忠告痛み入ります。でも、嫌」
「は?」
「嫌だよ、もっと話がしたいし」
「……おい。俺の話聞いてたか」
「聞いてた聞いてた。怖いだろうから近寄るなって話でしょ。個性知ったときは驚いたけど、君のことなんてもう怖くないから」
そうだ。誰もが遠ざかっていこうが、この人が怖いなんてもう思えない。
心操の顔が歪む。
「っ、何だ?同情かよ!?ふざけんな!!」
「誰が同情なんかするよ、私に勝ったくせに!!」
「っ!………?」
「一応かなり悔しがってるんだよ。鮮やかすぎる初見殺し……心操の個性、最強だよね本当に。打つ手もなかったし、思いつきもしないや」
もっと、教えてほしいくらいで。
簡潔に言うと友達になりたいんだけど。
「…………。さっきから、何なんだあんたは」
「ええー…じゃあ、こうしよっか」
「……?」
「私にもっとその個性のこと教えてよ。何でもいい…話したくなかったら、言わなくてもいいけど。単純に興味があるんだ、心操の個性にも、心操自身にも」
言い終わってから、だいぶ恥ずかしいことを言ったような気がしてくる。顔に血が回ったような気がしてきて、目を逸らして手でぱたぱた煽いだ。
「……バカだな、ホント」
「違いまーす。ね、いつも図書館来るの?」
「…けっこう行く。本も読むけど、静かだし」
「ああ、分かる。図書館の空気、落ち着くしね。どんな本読むの……あ、さっき読んでたの、面白かった?」
……二人で歩くのは、楽しかった。
***
後日。
どうにか刷り上がった図書委員有志の汗と涙の結晶、図書館だより「夏」号。カウンターの横に平積みしている、その一部を心操が手に取ってめくっているのが見えて、なんとなく居心地が悪くなる。
もちろん自分の書いたものを読まれているのもそわそわする。その上、私は余白のページに、あの日心操の読んでいた文庫本の紹介を入れたのだ。
あの日心操と話をしたあと、読んでみたくて仕方がなくなって、〆切をひとまず置いて読んでみた。読んでみるとあまりの面白さにどうしても図書だよりに書きたくなって、結局〆切をオーバーしそうになりながら提出した。
だから文章が荒いかもしれない、もしかしたら誤字があるかもしれない。そもそもあれを選んだことは心操には何と思われるだろうか。うわあどうしよう、やっぱ友達とかじゃなくてストーカーみたいに思われてないか私…!?
ちらちらと伺っていると、心操は手に取った図書だよりを鞄にいれて立ち去った。本腰入れて読む姿勢です、本当にありがとうございます……。
その日の夜、携帯にメッセージが届いた。
『しんそう:図書だより読んだ。図書委員すげえのな、あんな書くとか。……のも読んだ。あの作者、他の持ってるから気に入ったなら貸す』
これは、なかなか嬉しかった。
体育祭から数日、私は図書委員の当番で図書館のカウンターにいた。
本を読むのは好きだし、図書館という空間も大好きなので、図書委員になれて良かったと思う。雄英の図書館は期待通り広大で余裕があり、蔵書も豊富だったので、私はすっかりこの場所が気に入ってよく入り浸っていた。資料室や一般に貸し出されない図書の倉庫に自由に入れることもちょっとした特権だった。濫用するつもりはもちろん今の所ないけれど、時々閉館後にこっそり知的好奇心を満たしたりしている。
閑話休題。
そうした楽しい図書委員だけれど、その日は少し切羽詰まっていた。季節ごとに発行している図書だよりの「夏」号の〆切が迫っていたのである。
ノートパソコンを持ち込んでカタカタやっていると、ふとカウンターに影がさすのに気づく。貸出かな、とコードリーダー(ピッてやるやつ)を手にして顔を上げるとそこには、
「ああ、…あんた、この間の」
心操人使が立っていた。
「あ、どうも」
「は、……」
「……貸出ですよね?本、預かります」
「えっ。あ、ああ…」
薄々思っていたけど、この人ちょっとコミュ障気味だ。私も人のことは言えないんだけれど、彼にはなんというか…人ときちんと話すのを端から諦めて斜に構えているようなところがある、気がする。
貸出の手続きが終わって、返却期限を添えて差し出すが、心操はまだそこから立ち去ろうとせず、こちらを伺っていた。
「……心操?なにか、話でもあるの?」
敬語を解いて話しかけると、ちょっと驚いたようにして、それから意を決したように、
「………、ある。当番いつ終わる?」
「え、……5時半には」
「じゃそれまで待ってる、奥にいるから終わったら声掛けて」
「えっ、ええ?デート?」
「は!?違っ……やめろ」
驚きのままについからかってしまった。折角の珍しい巡り合わせをフイにするところだった、危ない…。心操は苛立ったように眉を寄せてどこかへ行ってしまったけれど、その後ろ姿を見ていた私は、雑に逆立てた髪の隙間から見える耳が少し赤くなっていることにバッチリ気付いていた。外見と表情はまるでヴィランのようだと感じさせるのに、初心というか、可愛いところもあるものだ。
心操にしてやられた体育祭から日が浅い。彼の興味深い個性についてぜひ詳しく知りたいと思っていたので、私にとってこれはかなりの好機だった。うきうきして、今のうちに図書だよりを書き上げてしまおうと腕まくりをした。
***
………。
結論から言うと、当番の終わる5時半になっても、原稿は埋まり切っていなかった。見通しが甘かったというべきか、単に私の文章力が至らないせいか、あと3分の2ページほどスペースが余るのだ。空白で出すのは何だか落ち着かない。イラストを挟むか、もしかしたらレイアウトを見直してみればどうにか纏まるかもしれない。どうするにせよ今夜は踏ん張らないと…と肩を落としてカウンターを出る。
心操を探して本棚の方へ向かうと、彼は相当奥まったところの、さらに隅にある椅子で舟を漕いでいた。手には読み切ったらしい薄い文庫本。私のまだ読んだことのない本だった。
本に少し興味を惹かれながらも、待たせてしまったことに改めて罪悪感を感じる。とりあえず起こそうと、小声で呼びかけながら肩にそっと手を置いて揺らした。
「心操……起きて、心操」
「……ん、………?」
「おはよ」
「!?………あ、悪い」
「ううん、こちらこそ待たせてごめん」
居心地悪そうにする心操に、悪かったなと思いながら首を振る。行こう、と促すと、彼は猫のようにぶるりと身を震わせて立ち上がった。
陽の落ちかけた駅への道を二人で歩く。
心操が口を開くのを待っていると、彼は案外早くに話し出した。
「話があるとか言ったけど、そんな大したことじゃなくて……わざわざ、悪いな」
「?いや、私も待たせちゃったし…謝らないでほしいくらいで」
「…ていうか。あんたは俺になんか、ないのかよ」
「なんか?」
何か。私は彼になにか文句をつけなければならないようなことをされただろうか。私が純粋に疑問符を浮かべていることに気付くと、彼はイライラしたようにため息をついた。
「あんだろ。体育祭で、あんなことされてさ。辞退なんてして、…よほど嫌だっただろ、お気の毒さま」
「ああ、そのこと。うーん…」
本当に敵を作るような言い回しをするから分かりにくいけれど、要は洗脳して駒として使って悪かった、というところだろうか?
私は実のところ、洗脳されたこと自体に怒っているわけではないのだが、それはどう伝えれば良いものか。
「…確かに思うことはあるけど、とりあえず心操さ。その余計な一言付け足すの、やめない?」
「……、あんたには関係ないだろ」
「……これからお前と話すのは誰だ」
「っ、」
「関係ある。今、心操と話してるのは私だから。違う?」
立ち止まって彼の目を見あげる。逆光でよく分からない表情が、どこか急にすごく不安そうに見えて、ちょっと慌てた。
「ていうか名前知ってる?」
「…知ってるに決まってるだろ」
「呼ばないんだもん」
「………。……。………、……、だろ」
「おわ…知ってたんだ」
「あんたどんだけ馬鹿にしてたんだ…?」
「違うってば!一回も呼んでくれなかったし…!」
あと、駒にしたヒトになんて興味がないだけかなーとか思ってなかったわけじゃないけど…これは、言わない。心操は思っていたより、暖かい人だと分かったから。
「それでね。話戻すけど、私は洗脳されたこと自体に怒ってるわけじゃないのね。ていうか今、辞退したことが心操にプレッシャーかけることになったかなって思って焦ってる。考えが足りなかった、ごめん」
「…別に………じゃ、何」
「うん。あのね。私障害物競走で2位だったの、見てたでしょ?」
「それが何だよ」
「実力はあるつもりなのね」
「だからっ、」
「だから!……洗脳されてる最中の私、あとで映像で見たけど、心操は私に全然個性使わせたりしてなかったじゃない。あれよりも洗脳されてない私でいた方が、もっとずっとうまく立ち回れた。騎馬が崩れても許容されるあの騎馬戦、瞬間移動っていう私の個性なら、一人でいたってポンポン他の騎馬からハチマキ取りまくれるの!」
「………何が言いたいんだ?」
「要は、上手く使え!っていうこと!」
「……!?」
目を見開いている心操に構わず、私は続ける。
「実際私の個性はすごく有利だった。自意識過剰とかじゃなくて、使い勝手がいいって話ね。仮定の話ではあるけど、私の個性はまだあまり皆に「慣れ」られてなかったことも踏まえて、だいぶいいとこいったと思うし、その、だから……」
「………あんた、変な奴だな」
「え」
喋りながら着地点が見えなくなってきたあたりで、心操がポツリと呟いたので、内心感謝しながら話を止める。
「緑谷もそうだった。…フツーさ、俺の個性知った奴は、俺と話すとき構えるんだよ。警戒する。むしろそうしないのは馬鹿だ」
「………」
面と向かって馬鹿と言い放たれて、私は味わい深い顔になる。
「俺も個性の操作が完璧な訳じゃない。何が起きて悪意に染まるかも分からない。わざわざそーやって上からアドバイス賜って悪いけど、言っとくからな、あんな目にもう遭いたくないなら…もう関わるな。せいぜいもっと警戒しろよ」
…不器用な人だ。
猫みたいに威嚇して、凄んでみせるけれど、寂しいと言ってるようにしか聞こえない。
「ご忠告痛み入ります。でも、嫌」
「は?」
「嫌だよ、もっと話がしたいし」
「……おい。俺の話聞いてたか」
「聞いてた聞いてた。怖いだろうから近寄るなって話でしょ。個性知ったときは驚いたけど、君のことなんてもう怖くないから」
そうだ。誰もが遠ざかっていこうが、この人が怖いなんてもう思えない。
心操の顔が歪む。
「っ、何だ?同情かよ!?ふざけんな!!」
「誰が同情なんかするよ、私に勝ったくせに!!」
「っ!………?」
「一応かなり悔しがってるんだよ。鮮やかすぎる初見殺し……心操の個性、最強だよね本当に。打つ手もなかったし、思いつきもしないや」
もっと、教えてほしいくらいで。
簡潔に言うと友達になりたいんだけど。
「…………。さっきから、何なんだあんたは」
「ええー…じゃあ、こうしよっか」
「……?」
「私にもっとその個性のこと教えてよ。何でもいい…話したくなかったら、言わなくてもいいけど。単純に興味があるんだ、心操の個性にも、心操自身にも」
言い終わってから、だいぶ恥ずかしいことを言ったような気がしてくる。顔に血が回ったような気がしてきて、目を逸らして手でぱたぱた煽いだ。
「……バカだな、ホント」
「違いまーす。ね、いつも図書館来るの?」
「…けっこう行く。本も読むけど、静かだし」
「ああ、分かる。図書館の空気、落ち着くしね。どんな本読むの……あ、さっき読んでたの、面白かった?」
……二人で歩くのは、楽しかった。
***
後日。
どうにか刷り上がった図書委員有志の汗と涙の結晶、図書館だより「夏」号。カウンターの横に平積みしている、その一部を心操が手に取ってめくっているのが見えて、なんとなく居心地が悪くなる。
もちろん自分の書いたものを読まれているのもそわそわする。その上、私は余白のページに、あの日心操の読んでいた文庫本の紹介を入れたのだ。
あの日心操と話をしたあと、読んでみたくて仕方がなくなって、〆切をひとまず置いて読んでみた。読んでみるとあまりの面白さにどうしても図書だよりに書きたくなって、結局〆切をオーバーしそうになりながら提出した。
だから文章が荒いかもしれない、もしかしたら誤字があるかもしれない。そもそもあれを選んだことは心操には何と思われるだろうか。うわあどうしよう、やっぱ友達とかじゃなくてストーカーみたいに思われてないか私…!?
ちらちらと伺っていると、心操は手に取った図書だよりを鞄にいれて立ち去った。本腰入れて読む姿勢です、本当にありがとうございます……。
その日の夜、携帯にメッセージが届いた。
『しんそう:図書だより読んだ。図書委員すげえのな、あんな書くとか。……のも読んだ。あの作者、他の持ってるから気に入ったなら貸す』
これは、なかなか嬉しかった。