教えて、ヒーロー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雄英体育祭。
ヒーローとしてのし上がるのには最大のチャンス。
プロ事務所への登竜門……、実際にそこにいた私としては、「はあ」って感じだけど、皆は違う。当たり前だ、熱が入っていた。
私も手を抜く気はない。もちろんこれまでだって、父の跡を継いでヒーローを目指そうとはしていた。それでも雄英に入って、周りの競争に燃えるピリッとした熱気に当てられないはずがなかった。私は入学した当初よりも、トップヒーローを目指す気概を強くしていた。
入場するとマイクのアナウンスで煽られる。
『敵の襲撃を受けたにも拘らず!鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!1年!A組だろぉお!!?』
少し前のUSJでの出来事は、世間がA組に寄せる関心をより大きくしていた。そのことはつまり、他のクラスから嫉妬を含んだ反感を買うことに繋がる。ついこの間も普通科の人がなんだか宣戦布告をしてきたようだったし。そのときは図書委員でいなかったのだが。
「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」「たるいよねー…」
他クラスからのそんな声も漏れ聞こえてくる。同じ学校の中でいがみあうのはどうにも嫌だ。
ふとB組のほうに目をやると、物間と目があう。笑って手を振ると、す、と冷たく逸らされた。さすがにショックで思わず立ち止まると、隣を歩くお茶子ちゃんに気付かれた。
「……ちゃんどしたん?」
「あ、……うん、ちょっと。B組に友達いてさ…」
「あぁ……マイクせんせも持ち上げすぎだよねえ」
聡い彼女はそれだけで察したらしい。どうすることもできない歯がゆさを共有して、苦笑いを向け合った。
選手宣誓で、主審のミッドナイトが選手代表の爆豪を壇上に呼び寄せる。嫌な予感はしていた。緑谷くんや切島くん他A組の面子も、やるぞやるぞとハラハラしていたが、
『俺が一位になる』
……やっぱりやらかしたよあの爆発さん太郎!!
会場はブーイングに呑まれる。そりゃそうだ。私も思わず血が引けて「バッカ……」と漏らしてしまった。
彼には意外と冷静な面がある。十分な実力を持った同級生たちを、まさか見下してはいないであろう。そんな彼が、100パーセント自信に漲ってその言葉を口にしたとは思えないけれど……。もしかしたら自身を鼓舞しているのかもしれない。そう思うとちょっと可愛らしいかなと思……いやいや何にしろあれはないでしょう。あれは酷い。
ブーイングをものともせず進行するミッドナイトにより、第一種目が発表された。
障害物競走。
私にとってはあまりに有利な科目で、拍子抜けだった。単に脚の速い飯田よりも、どこへでも移動してしまえる私はさらに有利だった。
というかスタートとゴールが同じだなんて……私は4kmくらいポーンと瞬間移動してしまえばいいのだから、逆に不利とも言えるのだろうか。一番の旨味を充分にアピールできない。10mずつくらい跳んでいけばいいか、とスタートゲートについた。
斜め前に轟が見える。何か仕掛けられるな、と直感した。少し距離をとって、合図を待つ。狭い。
『スターーーート!!』
開幕直後、予感は的中した。
轟が飛び出しながら氷を放つ!
一瞬の判断で上へ跳び上がり、そのまま轟よりも前方へテレポートする。
A組の面々以下も、次々と氷結を避けてくる。
後ろに目をやって挑発するように笑ってみせると、ぐ、と睨まれる。心地いい戦意。先頭を切って空間を徐々に高くまで跳んでいく。
『さぁいきなり障害物だ!まずは手始め…第1関門、ロボ・インフェルノ!!』
実況の声とともに、行く先にロボットを見つけた。よく覚えている、入試の時の仮装敵。私の敵ではなくて、知らぬふりで脇をすり抜ける。だんだん楽しくなってきて、上の方まで登ってぴょーんぴょーんと頭を踏みつけていった。
『1-A……!!目にも止まらぬスピードでロボを抜いていくゥ!!瞬間移動しすぎるとカメラが追えないからか細かく跳んでいくその心意気、プロ意識を感じるぜぇ!!!』
マイクの実況が唸る。ありがとうございますマイク先生。マイクの実況で名指しされたってことは、注目を集めているということだろう。サービス精神を発揮してカメラロボに向けてピースとウインクを飛ばしておく。嬉しいけれど、もう少し速度を落とした方が良いだろうか?
そこへ、轟のらしい氷結の冷気と轟音が届き、私はそんな余裕を振り払った。有利な条件ってことは、逆に負けられないんだから…。
『んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーーーール!!!』
目の前に開ける無数の足場地帯。つくづく大げさなことをする。たやすく飛び越し、カメラを意識して時折足場の綱を掴んでアクロバティックな動きを見せたりしながら一位をキープする。
……。気のせいか、一位は私なのに、カメラがまとわりついているのは後方にいる轟以下にだけの気がする。やっぱりエンデヴァーの息子だからとかだろうか。気に食わない…。
ザ・フォールを抜けると、
『先頭……、もうそこか!最終関門は……一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!!目と脚酷使しろ!!!』
やっぱりこれも私には関係なかった。次回からは障害物に正面から当たらないといけない工夫をすべきではないだろうか。
空中を跳んで、着地。スタジアムに足を踏み入れる、その瞬間ーー
「……さんごめんどいて!!!」
後ろから爆風に乗って飛んできた緑谷くんが、私の横を吹っ飛んで抜いていった!
「え、な…えええ!?」
ぐえ、と痛そうに地面に転がる緑谷くん。
私は最後の最後で、2位に落ちてのゴールとなってしまった。
ま、負けた……!?
***
『——……そして次からいよいよ本選よ!!第二種目は——騎馬戦!!』
障害物競走の順位によりポイントが振り分けられる騎馬戦。一位となった緑谷くんは1000万ポイントを振り分けられていて、一位通過しなくてよかったと内心胸を撫で下ろした。
しかし、騎馬の組みか……どうしよう。緑谷くんとは組みたくない。もちろんポイントが大きすぎる故のリスクの高さもだけど、私は彼をどうにか超えてみたかった。要はちょっとさっきの障害物競走を引きずっている。
ちょっと悩んでいると、尾白が声を掛けてきた。
「あー、その、……。一緒に組んでくれたり、しない?」
「尾白!いいの?」
「もちろん。……が嫌じゃないなら」
「ううん、ありがたいよ!どうしようって思ってたところだから」
願ってもない申し出をありがたく受ける。
尾白と、他の二人はどうしようか、攻撃力のある人がいいかも…なんて話していると、後ろからまたも声がかかった。
「さっきは凄かったね、……さんに尾白くん、だっけ?」
「ん?」
「はい?」
………あれ、………………。
***
「………!…………!!」
「……あ、れ……?」
尾白の声が聞こえて、靄がかった意識が浮上した。
『3位鉄て…アレェ!?オイ!!心操チーム!!?』
マイクが順位を発表している。じゅ、順位?あれ!?
紫の髪の、あの…名前も知らない男子に話しかけられて、頭がボーッとしてから——もうそんなに時間が経っていたなんて気付かなかった…!
洗脳。そういう個性があるのは知っていたけど、受けたのは初めてだ。防ぎようのない個性、私はまんまとかかってしまったのか。
「お疲れ様」
「お前……!」
飄々とした態度の心操というらしい彼に、尾白が歯噛みしているのが見える。
通過したというのか。でも……こんなの。
もちろん勝ちたかった。でも……こんなのは。
嫌だ。
どうせ勝つなら、
***
「あの…!すみません。俺…辞退します」
トーナメント戦のくじ引き直前。
隣の尾白に続いて、
「私も同じ理由で辞退したいです。それに…
どうせ勝つならっ、自分の力で勝ちたかったから!!」
大声で言い放つ。思わず握った拳に力が入る。自信があったからこそ、勝とうとするならこんな形は嫌だった。感情の昂りに沿って意味もなく出てくる涙を堪えて、顎をあげてキッと前を睨む。
突き刺さる会場の視線。ミッドナイトは青臭くて好みだと言い切って、認めてくれた。
私の体育祭は終わった。
後は見て、盗めるものを盗むだけ。