教えて、ヒーロー
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休み時間、気分を変えようと廊下に出ると、隣のクラスから誰か出てくるのが見えた。
よく見ると知った顔だ。驚いて、思わず声をあげる。
「物間?」
「……!? ……!」
物間とは中学が同じだった。最初はどうも馬が合わなかったものの、幾度か話すうちに面白い奴なのが分かって、今ではすっかり親友だ。
物間の顔も驚きと喜びが半々になっていたが、ふとそれが曇る。
「あれ………、雄英来るとか言ってたっけ。というか今……A組から出てきたよね?」
「ああ、その話はね…うーん、どこから話せばいいかな……長くなるから今日どっかお茶しにいこ?奢るからさ」
「流れるようにナンパするよなお前。行く行く、別に奢んなくていいよ」
「ナンパじゃないです。あの、……なんでもない!」
「?そう。じゃあ放課後にでも」
「うん」
手を振って別れる。
ヒヤリとした。
彼の中には何か線が引かれていて、それを踏み越すと静かに怒る。あくまでも静かなままなので、それに気付けないでいると、さりげなくどんどん距離を置かれるのだ。気付いた時には手が届かなくなりかけているようなことが多い。何度か喧嘩してこういうことを乗り越えたから知っている。
今のではよく分からなかったけれど、これは彼の中の線のひとつ、流してはいけない話題だというのは分かった。
推測はなんとなく立つ。
今回私が入学できたことは、ズルと捉えられても仕方ないからだ。
彼のことは好きだ。一時的に衝突しようとも、決定的な断絶に閉ざされるのは嫌だった。
私の罪は許されるだろうか。
***
放課後。
物間のおすすめだというコーヒーショップで、私は物間に話をした。
今まで隠していたことを全て。下手に嘘を吐くことに意味はない。できるだけ真実だけを洗いざらい話す。サイドキックをやっていたことについては驚かれたが、入試を見て触発されたこと、入学への経緯には幸い納得してくれたようだった。
「でも、そうか…………の個性使ってるとこ、遅刻ギリギリで教室に飛び込んできた時しか見たことなかったけど、強かったんだな……」
「ん……今まで黙っててごめん」
「いや。……の家の事情は知ってたし、忙しそうなのも見てたし、なんとなく手伝ってるんだろうなとは思ってた。さすがに驚いたけど……。っていうか、そんな強いお前の前で俺ばっか個性ひけらかしてた感じで恥ずかしいよ、なんか」
「ええ、そんなことなかったよね?物間けっこう猫被ってたし」
「猫被りじゃねーよ、合理的虚偽合理的虚偽」
「うわやめて、相澤さんじゃん」
「俺結構ファンだよ、使い勝手良さそうだし」
目を細めて笑う彼はいつも通りに見えて、ほっとする。
でも、違う。まだいつもの彼ではない。
首筋がチリっとする感覚。彼はまだなにか、不穏な感情を持っているようだった。
私は全て真実だけを話した。だから…今彼が何を感じてるのか、分からない。
「物間。言いたいことあるなら、言ってほしい」
「何もないよ」
「物間」
「ホントだって。だいたい分かるだろ、考えてること……俺が今モヤモヤしてんのは……のせいじゃないから」
そう言われると黙るしかない。
もしかして、何か不公平を感じているとか、だろうか。
それとも…「B組」とA組の違いに、苛立っているとか?
確かにいつもは考えてることがだいたい分かる。物間とは三年間一緒にいたので。でも、今は分からない。分からないことが不安だった。
物間がコーヒーを飲み干してこちらを見て、頬杖をつく。
「でも、じゃあさ。俺たちライバルなんだね」
顔は小馬鹿にした笑みをたたえているけど、その目はどこか、寂しそうに見えた。
「物間。……何も遠慮とかいらないし、必要以上に離れてったりするのもやめてよね」
「…………には敵わないなあ」
「そんなんじゃないし。友達でしょ」
「ふふ、……いや、親友だろ?」
でもいつものやり取りをしたあとには、すっかり彼はいつも通りの彼だった。