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「……耳郎。耳郎?寝た?……寝たか」
互いに忙しい中、なんとか休みを合わせた今夜。高校の同級生、耳郎を家に招いて、久しぶりに二人で飲み会。
耳郎は早めのペースで缶をあけて、今は静かにソファにもたれている。
呼びかけても返答がないので、多分寝落ちたのだろう。高校の頃より少し短く、かっこよくなった髪を払って耳にかけてやって、そのまま頬にふれる。しばらくそうしていると、酒のせいか高めの体温が指先にうつって、ふと気恥ずかしいような気持ちになって離れた。
耳郎も、私も、大人になった。
耳郎の左薬指には、可愛らしい金のリングが光っていた。
私は、……未だに叶わない片想いを続けている。
「……まったく、馬鹿みたい」
台所に引っ込んで食器を片付けながら、思わずため息をつく。
片想い歴はながい。こんなことやめてしまいたいと思ったことなんて数知れない。今回なんて、多分知り合って初めて、耳郎に彼氏ができたのだ。あまりにきっぱりとした失恋である。なのにこの思いは私の中にこびりついて剥がれない。これまでもそうだった。これからも、きっとそうだ。
彼氏のことを話す耳郎は意外に淡々としていて、でもそれは恐らく彼女のいつもの照れ隠しなので、私は「友達」の顔で終始しっかりニヤニヤして話を聞いていた。心の隅では耳郎の左薬指を占領しているその金色を、趣味が悪いと思いながら。我ながら本当に性格が悪いと思う。でも彼女に可愛いハートのモチーフは似合わない。
いや、これから似合うようになるんだろう。似合うようにされるんだろう。顔も知らないその男に。
…………。
そもそもそんなことを腹の底で考えていること自体、彼女に対する大きな裏切りだ。もう慣れてしまったことだけど、自分の勝手さに吐き気がする。
恋をしているなんて、気が付かなければよかったのに。
***
「……寝たか」
起きてるよ、ばーか。
……はしばらく呼びかけていたが、私が寝たと思ったらしく、しばらくしてから距離を詰めてそうっと触れてくる。
撫でるようなことすら、彼女はしようとしない。ただほんのわずかに触れさせるだけ。指先が震えているのも、いつものことだ。本人がそれに気付いてるのかどうかは、知らない。
彼氏ができた、と……には言った。
実際は……の思っているような、相思相愛の関係じゃない。
私には……がいるのだから、そうなるわけがない。
まあ有り体に言えば押し切られるような形で、お試し、みたいな状態なのである。
悪い人ではないと思う。
すこーし思い込みが激しくて、すこーし趣味が悪くて、すこーし私に向ける注意力が足りないだけで。うん、そう言うとなんだかパパに似ているような気がする。うげ。
そいつにもらった指輪だ。趣味悪い。お試し期間が終わったら速攻突き返す。
でも、一度……に見せて反応を伺いたかった。
……は、私のことが好きだから。
綻びを見せてくれるかなあ、なんて。
それで、あわよくば告白できたらななんて思ってた。
悪いやつだね、ウチ。ごめんね……。
……って、思ってたのに。
蓋を開けてみれば……はずーーっと友達の……のままだし、ウチが寝落ちるまでなーんにも言ってこないし、寝落ちたら寝落ちたで大事なものに触れるみたいにして触ってきてさ、面倒くさい奴。ほんとに、どうしようもなく、大好き。ってそんなことは知ってるんだよ、そんなことのために押しかけた訳じゃないよ、ウチのバカ……。
……は台所で食器を洗っている。
優しい彼女はきっと最低なウチを今日も泊めてくれる。もうすぐ戻ってきて、もう寝るよ耳郎、って起こしてくれるんだろう。
その前にちゃんと言おう。謝って、詳しく話そう。
告白は、……すぐだと信じられないかもしれないし、考えただけで心臓が壊れそうになるから……もう少しだけ待ってて。