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ちょっとした一大事
「うーわ、まだこんなある……」
授業の終わり、先生に指名されて資料の整理を任された私は、放課後の喧騒を遠くに聞きながら一人寂しくファイルの山と向き合っていた。
そうして整理を始めて少し経った頃、上鳴が資料室に入ってきた。
「おーす、……」
「よーす。何?」
「何でも。手伝う?」
「や、いいよ。すぐ終わるし」
「そっか」
……それならなぜそばまで来てすぐ後ろの本棚に寄りかかるのだろうか。そのままスルッとイヤホンを耳にさしてスマホをいじりだす。あまりに自然に居座るので、聞くタイミングを逃してまた資料に目を落とした。これは確かあの辺だったな。
***
……見られている。何となく距離が近いような気も、する。
勘が悪いわけではない。現代社会で女として生きる上で、付けたくもないのに身に付いた、勘。
ただ気付かないふりをしている。諦めているとかではなくて、勘違いだろうというわずかな願望と、あと頼むから思い直せという心からの神頼みを…
「なあ」
「っ、」
肩に肘が載せられて、体重が掛かる。
低めた声の近さ、吐息が近付いたのが分かって、身が竦む。上鳴の熱にあてられそうだ。ペロッと美味しく頂かれてしまうような気がして、動揺と恐怖で心臓が一気に暴れだす。反射的に固まった肩を抱かれ、その手が腰へ滑って——
「……ってsグッフぁ!!」
——重心を落として鳩尾に肘を叩き込んだ。
倒れないまでもフラついた上鳴から離れて、パンパンと手を払う。自分がゴミを見る目になっていることは自覚していた。
「なあに、上鳴くん?溜まってるならファンの子たちに遊んでもらえばいいじゃない?」
「つう……っ!ちっげーよ、いや……ごめん」
「……何なの」
一瞬の息を呑むような色気はすっかり消えて、上鳴はしょぼんとしている。垂れた耳が見えるようでちょっとかわいい。
まだドキドキ言っている心臓を悟られないように、腕を組む。
「ええっ、と……ワリ。マジでごめん、驚かせたよな」
「いや驚いたっていうか、何しようとしたの」
「う……」
疑問ではあった。
夏服期間でもない、特に露出が多いわけでもない、その上、その、癪だがぶっちゃけ貧相な私にわざわざムラムラしただのというのは無いだろう。迫ったところで嫌がらせくらいにしかならない気がする。上鳴とはそれなりに仲もいいのでその可能性もないと思うし。何より上鳴がそんな奴だったらすでに付き合いを絶っている。
思い当たる線は少ない。
膨らみ出す少しの期待を、抑え付けた。上鳴に限って、まさかね。
「……や、その。……お、女の子と二人っきりだなーって思ったら……つい」
「……あ、そう」
「…………?」
……抑え付けたはずの期待が、胸をグシャッと握り潰したような気がした。当たり前のことだ、分かっていたのに。馬鹿だなあ……片想いなんて。
眉をさげて拝みながらへらっとこちらを伺う上鳴と目を合わせずに、なんでもない風を装ってみせる。慣れっこだ。
「まあいいけど。よりによって私をつまみ食いしようとしないでよね」
「ええ!?ひっでえ、お前……」
「誰でも良いなら尚更、普通にナンパでもして遊んでもらったら?」
「……、……」
「通りすがりだからって手出されてたらとてもじゃないけど、」
「……っ!聞けって」
上鳴の横をすり抜けようとして、腕を引かれる。私が肩を跳ねさせたのを見て、「っあ、ごめ…」と離されたけれど、なんだか走り去る気にすらなれなくてそこに立ち尽くした。
「……」
「……ね、なかったことにしてあげるからさ。別にいいから、気にしないで」
「違う、そうじゃなくて…なあ……」
「……。何?」
「あのな、……誰でもいいとかじゃないから」
「……は?」
「……は、さっき誰でもいいならとか言ってたけど。ちげえから。……だったから、……その、触りたいって、思って……ほんとごめんっ」
……ああやっぱりこいつバカだ。言ってることだけ見たらただ最悪な人じゃんバカ。それでもそんなに必死に赤くなるから、勘違いしそうになるじゃんか。やめてほしい、これ以上私をぬるい期待で殺さないで。確かめてしまったらあとにはもう戻れないのに、結構決定的なこと言ってるのに気付いてないんだろうか。ああもうほんとバカ、バ上鳴。
ため息をついて鼓動を落ち着かせる。ねえ、心の準備はいい?
「それ、……どういう意味?」
「!…………、」
「ごめん。順序逆んなった。……好きだ」
目を上げて上鳴の顔を見ていた。いつもはただチャラいだけなのに、いままで見たことがないくらい必死にそう言う上鳴は、…すごくかっこよかった。
「うーわ、まだこんなある……」
授業の終わり、先生に指名されて資料の整理を任された私は、放課後の喧騒を遠くに聞きながら一人寂しくファイルの山と向き合っていた。
そうして整理を始めて少し経った頃、上鳴が資料室に入ってきた。
「おーす、……」
「よーす。何?」
「何でも。手伝う?」
「や、いいよ。すぐ終わるし」
「そっか」
……それならなぜそばまで来てすぐ後ろの本棚に寄りかかるのだろうか。そのままスルッとイヤホンを耳にさしてスマホをいじりだす。あまりに自然に居座るので、聞くタイミングを逃してまた資料に目を落とした。これは確かあの辺だったな。
***
……見られている。何となく距離が近いような気も、する。
勘が悪いわけではない。現代社会で女として生きる上で、付けたくもないのに身に付いた、勘。
ただ気付かないふりをしている。諦めているとかではなくて、勘違いだろうというわずかな願望と、あと頼むから思い直せという心からの神頼みを…
「なあ」
「っ、」
肩に肘が載せられて、体重が掛かる。
低めた声の近さ、吐息が近付いたのが分かって、身が竦む。上鳴の熱にあてられそうだ。ペロッと美味しく頂かれてしまうような気がして、動揺と恐怖で心臓が一気に暴れだす。反射的に固まった肩を抱かれ、その手が腰へ滑って——
「……ってsグッフぁ!!」
——重心を落として鳩尾に肘を叩き込んだ。
倒れないまでもフラついた上鳴から離れて、パンパンと手を払う。自分がゴミを見る目になっていることは自覚していた。
「なあに、上鳴くん?溜まってるならファンの子たちに遊んでもらえばいいじゃない?」
「つう……っ!ちっげーよ、いや……ごめん」
「……何なの」
一瞬の息を呑むような色気はすっかり消えて、上鳴はしょぼんとしている。垂れた耳が見えるようでちょっとかわいい。
まだドキドキ言っている心臓を悟られないように、腕を組む。
「ええっ、と……ワリ。マジでごめん、驚かせたよな」
「いや驚いたっていうか、何しようとしたの」
「う……」
疑問ではあった。
夏服期間でもない、特に露出が多いわけでもない、その上、その、癪だがぶっちゃけ貧相な私にわざわざムラムラしただのというのは無いだろう。迫ったところで嫌がらせくらいにしかならない気がする。上鳴とはそれなりに仲もいいのでその可能性もないと思うし。何より上鳴がそんな奴だったらすでに付き合いを絶っている。
思い当たる線は少ない。
膨らみ出す少しの期待を、抑え付けた。上鳴に限って、まさかね。
「……や、その。……お、女の子と二人っきりだなーって思ったら……つい」
「……あ、そう」
「…………?」
……抑え付けたはずの期待が、胸をグシャッと握り潰したような気がした。当たり前のことだ、分かっていたのに。馬鹿だなあ……片想いなんて。
眉をさげて拝みながらへらっとこちらを伺う上鳴と目を合わせずに、なんでもない風を装ってみせる。慣れっこだ。
「まあいいけど。よりによって私をつまみ食いしようとしないでよね」
「ええ!?ひっでえ、お前……」
「誰でも良いなら尚更、普通にナンパでもして遊んでもらったら?」
「……、……」
「通りすがりだからって手出されてたらとてもじゃないけど、」
「……っ!聞けって」
上鳴の横をすり抜けようとして、腕を引かれる。私が肩を跳ねさせたのを見て、「っあ、ごめ…」と離されたけれど、なんだか走り去る気にすらなれなくてそこに立ち尽くした。
「……」
「……ね、なかったことにしてあげるからさ。別にいいから、気にしないで」
「違う、そうじゃなくて…なあ……」
「……。何?」
「あのな、……誰でもいいとかじゃないから」
「……は?」
「……は、さっき誰でもいいならとか言ってたけど。ちげえから。……だったから、……その、触りたいって、思って……ほんとごめんっ」
……ああやっぱりこいつバカだ。言ってることだけ見たらただ最悪な人じゃんバカ。それでもそんなに必死に赤くなるから、勘違いしそうになるじゃんか。やめてほしい、これ以上私をぬるい期待で殺さないで。確かめてしまったらあとにはもう戻れないのに、結構決定的なこと言ってるのに気付いてないんだろうか。ああもうほんとバカ、バ上鳴。
ため息をついて鼓動を落ち着かせる。ねえ、心の準備はいい?
「それ、……どういう意味?」
「!…………、」
「ごめん。順序逆んなった。……好きだ」
目を上げて上鳴の顔を見ていた。いつもはただチャラいだけなのに、いままで見たことがないくらい必死にそう言う上鳴は、…すごくかっこよかった。