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合格発表まであと1週間ほど。
この一年か下手したらそれ以上、この時のためだけに勉強してきた大学入試の結果が、あと少しで出ようとしている。
「オイ、今日もダレてんのかよ……。いい加減起きろ」
「あれ、爆豪……」
本番が終わった後から私は、気が緩んだのかすっかり気力を失って、毎日こうして昼近くまでぐずぐずしてしまっていた。
それを見兼ねた爆豪がたまにこうして様子を見にきてくれるのだが、わりとーーかなり嬉しい。受験の最中あまり会えなかったしね。
「おはよ」
「はよ。つか早くねえよ。顔洗ってこい」
「ん、ありがと」
もう寝起き程度で恥じるでもないけど、やっぱり少し決まりが悪い。身だしなみを整えるべくなんとか起き上がって洗面所へ向かった。
顔を洗って居間に入ると爆豪が勝手にテレビをつけていた。ニュース番組を探していたようだったが、あいにくこの時間ではエンタメしかやっていないようで、諦めて新聞を手に取る。なんだかお父さんみたいで、ちょっと笑えた。
「ね、爆豪ご飯食べた?」
「家で食ってきた」
「……んー、どうしよっかな。まあ食べなくてもいっか」
「…………。パンと卵あったろ。作ってやっから座ってろ」
「え、いいよスープとかで済ますし」
「アホ、食え。食って動け。今日は出るぞ」
「え、ばくご」
「るっせぇホラあっち行け」
早々に台所を追い出されてしまう。珍しいこともあったものだ。でも爆豪はなぜか、というか当然というか、私よりも数段料理がうまいので、ありがたく作ってもらうことにする。
いい匂いがし始めて数分、目の前に置かれたフレンチトーストは空腹の身にはあまりに輝かしく映った。
爆豪のフレンチトーストは甘くない。少し強めの塩加減が卵とよく引き立て合ってすごく美味しいのだ。
厚く切られたパンにしっかりと染み込んだきつね色。塩胡椒の振られた上面にはチーズが乗せられ、切ったところから今にも皿に落ちそうにとろけている。パンやチーズの所々に程よくついた焦げ目が美しい。付け合わせのレタスはみずみずしくぱっと水をはじくようで、炒められ今にもつやつやの皮が弾けそうなソーセージがそこに二本堂々と乗っているのが目に眩しい。
「生命の躍動を感じる」
「アホ言ってねえでさっさと食え、これマスタード」
「うんありがと!いただきます」
なんだかこれだけで目が覚めるようだ。爆豪はすごい。そう言うと居心地悪そうにそっぽを向いて、そりゃよかったな、とか言っていた。
***
私が食べ終わって少ししてから、二人で外に出た。というか爆豪が私を引っ張って無理やり出た。どこに行くのか尋ねたが、別段爆豪にも目的地はないらしかった。手を引かれて、河川敷をただ歩く。
最初のうちはどこに連れていく気なのかと爆豪を伺っていたけど、だんだん周りを見渡すようになった。
三月の空はもうほぼ春で、鳥は朗らかに鳴き交わしている。鳴き方を練習しているウグイスもいた。木々はよく見れば花芽を膨らませている。時々梅や桃なんかの花の咲いたのも見えて、つい足を止めてしまう。その度に爆豪は付き合ってくれたし、たまに爆豪が立ち止まることもあった。そうやって色んな話をした。爆豪はここをいつも自主練で走っているのかもしれなかった。
手を繋いで日の傾くまで歩いていると、だんだん喉の奥で凝り固まっていた何かが抜けていくような気がした。
日の落ち出したのを見て、爆豪が「そろそろ帰るか」と言う。その響きに爆豪らしからぬ寂しさを聞いたような気がして、握った手に力を入れると同じように握り返された。
「泊まっていいか」
「聞かなくても泊まるくせに」
「るっせ。晩飯買って帰るぞ」
「爆豪何が食べたい?私麻婆豆腐」
「……のは甘いんだよ」
「爆豪のが辛すぎだよっ」
無性に楽しくなって、爆豪をせっついて来た道を戻っていく。夕陽が寂しくないのは、久しぶりだ。
***
満腹で、お風呂にも入って、暖かいまま布団に潜り込む。先にベッドにいた爆豪は目を閉じていたけど、しっかり起きていたようで位置を詰めてくれた。
寝心地のいい姿勢を探してごそごそしていると、後ろから腕を回されてぎゅうと抱きしめられる。そのまま腕を辿られて片手を絡めて繋がれた。
「爆豪?」
「何だよ」
「……めっずらしー」
「…………」
爆豪は何も言わずに私の項あたりに顔を埋めた。
なぜか急に、爆豪も不安なのは同じなのだというのが事実として理解できた。それも爆豪は私以上に気を張っているので、思った以上に弱っているのかもしれない。
そこまで分かっていてもこの不安を取り除く方法はない。互いに。こうやってくっついて眠ることくらいしか。手を引き寄せて爆豪の大きな手を抱え、唇を押し当てて囁く。
「……ひとりで寝てると、最近すごく不安なんだよね」
「……呼べば来てやるよ」
「ん。ね、また散歩いこうよ」
「それもいいかもな」
爆豪の体温が伝わって、意味もなく涙が出そうだ。色々なことを言いたくなる。感じている不安を、吐き出したくてたまらなくなってしまう。それでもこういう時に言うべきことはひとつだけだし、それだけ言えば全てが伝わると思う。
「勝己」
「ん」
「好き」
「……ん」
おれも、とごく小さく、拙い発音で返ってきて、暖かい幸せに目を細めた。
桜が咲くまで、あと少し。
この一年か下手したらそれ以上、この時のためだけに勉強してきた大学入試の結果が、あと少しで出ようとしている。
「オイ、今日もダレてんのかよ……。いい加減起きろ」
「あれ、爆豪……」
本番が終わった後から私は、気が緩んだのかすっかり気力を失って、毎日こうして昼近くまでぐずぐずしてしまっていた。
それを見兼ねた爆豪がたまにこうして様子を見にきてくれるのだが、わりとーーかなり嬉しい。受験の最中あまり会えなかったしね。
「おはよ」
「はよ。つか早くねえよ。顔洗ってこい」
「ん、ありがと」
もう寝起き程度で恥じるでもないけど、やっぱり少し決まりが悪い。身だしなみを整えるべくなんとか起き上がって洗面所へ向かった。
顔を洗って居間に入ると爆豪が勝手にテレビをつけていた。ニュース番組を探していたようだったが、あいにくこの時間ではエンタメしかやっていないようで、諦めて新聞を手に取る。なんだかお父さんみたいで、ちょっと笑えた。
「ね、爆豪ご飯食べた?」
「家で食ってきた」
「……んー、どうしよっかな。まあ食べなくてもいっか」
「…………。パンと卵あったろ。作ってやっから座ってろ」
「え、いいよスープとかで済ますし」
「アホ、食え。食って動け。今日は出るぞ」
「え、ばくご」
「るっせぇホラあっち行け」
早々に台所を追い出されてしまう。珍しいこともあったものだ。でも爆豪はなぜか、というか当然というか、私よりも数段料理がうまいので、ありがたく作ってもらうことにする。
いい匂いがし始めて数分、目の前に置かれたフレンチトーストは空腹の身にはあまりに輝かしく映った。
爆豪のフレンチトーストは甘くない。少し強めの塩加減が卵とよく引き立て合ってすごく美味しいのだ。
厚く切られたパンにしっかりと染み込んだきつね色。塩胡椒の振られた上面にはチーズが乗せられ、切ったところから今にも皿に落ちそうにとろけている。パンやチーズの所々に程よくついた焦げ目が美しい。付け合わせのレタスはみずみずしくぱっと水をはじくようで、炒められ今にもつやつやの皮が弾けそうなソーセージがそこに二本堂々と乗っているのが目に眩しい。
「生命の躍動を感じる」
「アホ言ってねえでさっさと食え、これマスタード」
「うんありがと!いただきます」
なんだかこれだけで目が覚めるようだ。爆豪はすごい。そう言うと居心地悪そうにそっぽを向いて、そりゃよかったな、とか言っていた。
***
私が食べ終わって少ししてから、二人で外に出た。というか爆豪が私を引っ張って無理やり出た。どこに行くのか尋ねたが、別段爆豪にも目的地はないらしかった。手を引かれて、河川敷をただ歩く。
最初のうちはどこに連れていく気なのかと爆豪を伺っていたけど、だんだん周りを見渡すようになった。
三月の空はもうほぼ春で、鳥は朗らかに鳴き交わしている。鳴き方を練習しているウグイスもいた。木々はよく見れば花芽を膨らませている。時々梅や桃なんかの花の咲いたのも見えて、つい足を止めてしまう。その度に爆豪は付き合ってくれたし、たまに爆豪が立ち止まることもあった。そうやって色んな話をした。爆豪はここをいつも自主練で走っているのかもしれなかった。
手を繋いで日の傾くまで歩いていると、だんだん喉の奥で凝り固まっていた何かが抜けていくような気がした。
日の落ち出したのを見て、爆豪が「そろそろ帰るか」と言う。その響きに爆豪らしからぬ寂しさを聞いたような気がして、握った手に力を入れると同じように握り返された。
「泊まっていいか」
「聞かなくても泊まるくせに」
「るっせ。晩飯買って帰るぞ」
「爆豪何が食べたい?私麻婆豆腐」
「……のは甘いんだよ」
「爆豪のが辛すぎだよっ」
無性に楽しくなって、爆豪をせっついて来た道を戻っていく。夕陽が寂しくないのは、久しぶりだ。
***
満腹で、お風呂にも入って、暖かいまま布団に潜り込む。先にベッドにいた爆豪は目を閉じていたけど、しっかり起きていたようで位置を詰めてくれた。
寝心地のいい姿勢を探してごそごそしていると、後ろから腕を回されてぎゅうと抱きしめられる。そのまま腕を辿られて片手を絡めて繋がれた。
「爆豪?」
「何だよ」
「……めっずらしー」
「…………」
爆豪は何も言わずに私の項あたりに顔を埋めた。
なぜか急に、爆豪も不安なのは同じなのだというのが事実として理解できた。それも爆豪は私以上に気を張っているので、思った以上に弱っているのかもしれない。
そこまで分かっていてもこの不安を取り除く方法はない。互いに。こうやってくっついて眠ることくらいしか。手を引き寄せて爆豪の大きな手を抱え、唇を押し当てて囁く。
「……ひとりで寝てると、最近すごく不安なんだよね」
「……呼べば来てやるよ」
「ん。ね、また散歩いこうよ」
「それもいいかもな」
爆豪の体温が伝わって、意味もなく涙が出そうだ。色々なことを言いたくなる。感じている不安を、吐き出したくてたまらなくなってしまう。それでもこういう時に言うべきことはひとつだけだし、それだけ言えば全てが伝わると思う。
「勝己」
「ん」
「好き」
「……ん」
おれも、とごく小さく、拙い発音で返ってきて、暖かい幸せに目を細めた。
桜が咲くまで、あと少し。
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