天下統一恋の乱
名前
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「才蔵さん?」
夕餉と湯あみを済ませ自室でまだ湿った髪を櫛で梳いていると、ふと廊下の方から人の気配を感じそちらに目を向ける。
──こんな時間に私の部屋に訪問する人物は決まっている。
ぽつりとその名を口にすると、銀色の髪に切れ長緋色の瞳を持つ人物が音もなく姿を現した。
「お邪魔した?」
腕を組み壁にもたれながら優しい表情で答えてくれたのは、愛しい相手。
そんな彼は里の任務もこなしながら真田に仕えているため、長期で部屋を開ける事など日常茶飯事だ。
忙しい中こうして私の様子を見に来てくれる事が嬉しい反面、身体を休めなくて大丈夫なのかと心配にもなる。
だが私がいくら心配した所で、飄々としている彼は私にも弱みなど一切見せないのだろうけど。
「お邪魔だなんて、そんな。驚きはしましたけど。どうかしたんですか?」
「お前さんの顔が見たくなって」
にこりと笑いかけるとゆっくりと私の方へと歩いてきて、櫛を持つ手にそっと自身の手を重ねながら「向こう向きな」と耳元で甘く囁いた。
普段あまりやらないような才蔵さんの行動に私の体は緊張で強張り固まってしまう。そんな私の姿を見た才蔵さんはくすりと笑い、私の手から櫛をするりと取り上げると優しい手つきでまだ湿り気の残る髪を梳き始めた。
(さ、才蔵さん、不意打ちすぎる…!)
どうしていいか分からず鏡越しで才蔵さんの顔を盗み見ると見事に緋色の瞳とかち合い、悪戯っぽい笑顔で顔を覗き込まれる。
「何?」
「い、いえ!何でもないです…」
(顔が近い…!)
「そ。危ないからじっとしてな」
そう言うと再び私の髪を持ち上げ櫛を動かす。
静かな部屋にはしゅっしゅっと髪を梳く音だけが響いていたが、私の心臓の音も聞こえてしまうのではないかと思うくらい早鐘を打っていた。
「はい、おしまい」
暫く髪を梳いたあと、後ろから櫛を持った手が伸びてきて机にそれを静かに置いた。
「ありがとうございました。すみません、最後までやってもらっちゃって」
「いいよ、俺が途中で止めちゃったから。──それより、」
さらりと髪をひと掬いし、才蔵さんの整った口唇で私の髪に口付ける。
あまりに綺麗な一連の仕草に胸がざわりと騒いだ。
「さ、才蔵さん…?!」
「ごめん、もう少しだけ」
それだけ言うと才蔵さんはこてんと私の頭に自身の額を預けそのまま瞳を閉じてしまった。
私は再びどうしたらいいのか分からない状況に陥り落ち着かずにいた。
──でも、才蔵さんがこんなにも甘えてくるのは珍しい。
いつもはここまで私に擦り寄る様な事はしてこないのに。
(…何かあったのかな?)
そう思った私は、そっと才蔵さんの頭に手をやり、柔らかい髪を撫でる。
すると後ろからんっと小さい声が漏れると同時に逞しい腕が私の胸の前に伸びてきて、そのままぎゅっと抱きしめられた。
首筋に才蔵さんの銀色の髪がふわりと触れ、少し擽ったい。
頭に置いていた手を才蔵さんの腕へ移動させ撫でるように優しく包みこみ、才蔵さんへ精一杯の気持ちを伝える。
「才蔵さん、私はいつでも才蔵さんの傍にいますよ」
「…ん、ありがとう、※※※」
一際強く抱きしめられたと思ったら、いつの間にか私の顔の真横まで迫ってきていた才蔵さんの熱の籠もった緋色の瞳が私を見つめていた。
思わず顔が熱くなり、逃げるように顔を離そうとするが、才蔵さんの手がそれを許さない。
「ダーメ」
「ご、ご勘弁を…!」
「ふっ…熟れたりんご」
にっこりと微笑まれ、そのまま才蔵さんの口唇がゆっくりと私の口唇を塞ぐ。
「んっ…!」
隙間から漏れた声など気にもせず才蔵さんは何度も押し付けたり離したりと私の口唇を確かめているようだった。
(あ……でも幸せだな)
恥ずかしさが勿論勝っていたが、恋仲になって初めてこんなに近くで甘い時間を共に過ごせている。
その事実が嬉しくて私はふふっと口許を綻ばせた。
それに気付いた才蔵さんが口唇を離し不思議そうに私の顔を見る。
「何?」
「いえ、私にこんなにも甘えてくれる才蔵さんが何だか可愛いなって」
「……何それ」
「…えっ?っあ…!」
私の返答が不満だったのか、僅かにむっとしたような表情を見せたかと思うと、いきなり目の前が真っ暗になった。
才蔵さんの手が私の両目を覆ったのだ。
「そんなに余裕あるんだ」
「あ、あの!」
「じゃあ今度はお前さんの腰が抜けちゃうくらいの事をしないとね」
「!?」
「……楽しみにしてな」
最後の一言は耳元で妖しく囁かれ全身が痺れたような感覚になった。
覆われていた手の温もりが無くなったと同時にばっと後ろを振り返るが、
振り向いたそこに姿はなく
(残されたのは)(愛おしい貴方の香りと)(淡い期待だけ)
7.10.16
夕餉と湯あみを済ませ自室でまだ湿った髪を櫛で梳いていると、ふと廊下の方から人の気配を感じそちらに目を向ける。
──こんな時間に私の部屋に訪問する人物は決まっている。
ぽつりとその名を口にすると、銀色の髪に切れ長緋色の瞳を持つ人物が音もなく姿を現した。
「お邪魔した?」
腕を組み壁にもたれながら優しい表情で答えてくれたのは、愛しい相手。
そんな彼は里の任務もこなしながら真田に仕えているため、長期で部屋を開ける事など日常茶飯事だ。
忙しい中こうして私の様子を見に来てくれる事が嬉しい反面、身体を休めなくて大丈夫なのかと心配にもなる。
だが私がいくら心配した所で、飄々としている彼は私にも弱みなど一切見せないのだろうけど。
「お邪魔だなんて、そんな。驚きはしましたけど。どうかしたんですか?」
「お前さんの顔が見たくなって」
にこりと笑いかけるとゆっくりと私の方へと歩いてきて、櫛を持つ手にそっと自身の手を重ねながら「向こう向きな」と耳元で甘く囁いた。
普段あまりやらないような才蔵さんの行動に私の体は緊張で強張り固まってしまう。そんな私の姿を見た才蔵さんはくすりと笑い、私の手から櫛をするりと取り上げると優しい手つきでまだ湿り気の残る髪を梳き始めた。
(さ、才蔵さん、不意打ちすぎる…!)
どうしていいか分からず鏡越しで才蔵さんの顔を盗み見ると見事に緋色の瞳とかち合い、悪戯っぽい笑顔で顔を覗き込まれる。
「何?」
「い、いえ!何でもないです…」
(顔が近い…!)
「そ。危ないからじっとしてな」
そう言うと再び私の髪を持ち上げ櫛を動かす。
静かな部屋にはしゅっしゅっと髪を梳く音だけが響いていたが、私の心臓の音も聞こえてしまうのではないかと思うくらい早鐘を打っていた。
「はい、おしまい」
暫く髪を梳いたあと、後ろから櫛を持った手が伸びてきて机にそれを静かに置いた。
「ありがとうございました。すみません、最後までやってもらっちゃって」
「いいよ、俺が途中で止めちゃったから。──それより、」
さらりと髪をひと掬いし、才蔵さんの整った口唇で私の髪に口付ける。
あまりに綺麗な一連の仕草に胸がざわりと騒いだ。
「さ、才蔵さん…?!」
「ごめん、もう少しだけ」
それだけ言うと才蔵さんはこてんと私の頭に自身の額を預けそのまま瞳を閉じてしまった。
私は再びどうしたらいいのか分からない状況に陥り落ち着かずにいた。
──でも、才蔵さんがこんなにも甘えてくるのは珍しい。
いつもはここまで私に擦り寄る様な事はしてこないのに。
(…何かあったのかな?)
そう思った私は、そっと才蔵さんの頭に手をやり、柔らかい髪を撫でる。
すると後ろからんっと小さい声が漏れると同時に逞しい腕が私の胸の前に伸びてきて、そのままぎゅっと抱きしめられた。
首筋に才蔵さんの銀色の髪がふわりと触れ、少し擽ったい。
頭に置いていた手を才蔵さんの腕へ移動させ撫でるように優しく包みこみ、才蔵さんへ精一杯の気持ちを伝える。
「才蔵さん、私はいつでも才蔵さんの傍にいますよ」
「…ん、ありがとう、※※※」
一際強く抱きしめられたと思ったら、いつの間にか私の顔の真横まで迫ってきていた才蔵さんの熱の籠もった緋色の瞳が私を見つめていた。
思わず顔が熱くなり、逃げるように顔を離そうとするが、才蔵さんの手がそれを許さない。
「ダーメ」
「ご、ご勘弁を…!」
「ふっ…熟れたりんご」
にっこりと微笑まれ、そのまま才蔵さんの口唇がゆっくりと私の口唇を塞ぐ。
「んっ…!」
隙間から漏れた声など気にもせず才蔵さんは何度も押し付けたり離したりと私の口唇を確かめているようだった。
(あ……でも幸せだな)
恥ずかしさが勿論勝っていたが、恋仲になって初めてこんなに近くで甘い時間を共に過ごせている。
その事実が嬉しくて私はふふっと口許を綻ばせた。
それに気付いた才蔵さんが口唇を離し不思議そうに私の顔を見る。
「何?」
「いえ、私にこんなにも甘えてくれる才蔵さんが何だか可愛いなって」
「……何それ」
「…えっ?っあ…!」
私の返答が不満だったのか、僅かにむっとしたような表情を見せたかと思うと、いきなり目の前が真っ暗になった。
才蔵さんの手が私の両目を覆ったのだ。
「そんなに余裕あるんだ」
「あ、あの!」
「じゃあ今度はお前さんの腰が抜けちゃうくらいの事をしないとね」
「!?」
「……楽しみにしてな」
最後の一言は耳元で妖しく囁かれ全身が痺れたような感覚になった。
覆われていた手の温もりが無くなったと同時にばっと後ろを振り返るが、
振り向いたそこに姿はなく
(残されたのは)(愛おしい貴方の香りと)(淡い期待だけ)
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