20時04分。
小百合さんとワタリの手作り料理とケーキを食べ終え
アフターディナーティの時間。
ワタリオススメの高級茶葉の紅茶を用意してくれた。
角砂糖を落とし甘めにしても香りが鼻に残る
とても美味しい紅茶だ。
「18歳かぁ……」
ティーカップを両手で持ち、ワイミーズハウスに居た頃を思い出してるのか感慨深く
小百合さんは零した。
「成人ですね」とワタリが優しく言う。
「あぁ、だからこんなお祝いを?」
「Lのお誕生日だからだよ」と当たり前でしょと平然と言ってのける
小百合さんに今日までの疑問をぶつけてみる事にした。
「何故、誕生日を祝うんですか?
何がめでたい事なんですか?歳を重ねる事はつまり
老いてゆく事、1歩ずつ死に向かっているとさえ思います。それなのに誕生日を祝う理由は……」
自身でも幾度となく考えたが何一つ理解出来ることは無く、気持ちの悪いわだかまりが残る一方だった。
「哲学的ですね」とワタリは眉を下げ笑う。
「うん。そんな、難しい事じゃないよ」と
小百合さんも続けて笑った。
「あのね、誕生日を祝うのはね、生まれて来てくれてありがとうって意味なの」
「今日まで生きてくれてありがとう、という意味でもありますね」
小百合さんとワタリは温かい瞳をこちらに向けた。
「つまり、感謝の気持ち…ですか?」
「そうね、感謝の気持ち!Lが生まれて来てくれたこと、わたしとワイミーさんに出会えたこと
そして、今日まで生きてくれてありがとう、
それから……これからも生きてくださいっていうことです!」
小百合さんは恥ずかしげもなく堂々と真正面から伝えてくれた。
「Lの誕生日は私もお嬢様にとっても特別で
おめでたい日なのですよ」
「私が生まれた、という事実があるだけで…
とても大袈裟ですね」
甘い紅茶を啜りながら考える。
まだ少し納得出来ない。
「あのね、L。Lの言う通りで、確かに誕生日を
迎えるのは死に近付いている証拠。
人はいつか死ぬ。だけど……。だから…だからこそ
Lが今、生きてることはとても素晴らしい事で奇跡なのよ。
Lを愛してくれる人達がLの生まれた今日を祝い、
今日まで生きてくれた事に感謝する、何者にも代えられないかけがえのない、愛する人の大切な1日なのよ」
「……という訳で」
小百合さんは立ち上がり、高級そうなカードを私にプレゼントしてくれた。
白い無地の二つ折りカードに大きく金箔押しの
〝Happy birthday〟の文字。
ーーーー
The person you Love stay here.
(愛する人がいるということ)
The person who Loves you stay here.
(愛してくれる人がいるということ)
And you stay here now.
(そして、Lがここにいること)
All that's miracle.
(それら全て奇跡です)
Thanks for your having been born in this world.
(生まれてきてくれてありがとう)
I Love you.
(L、愛してるよ)
ーーーー
「L!生まれて来てくれてありがとう!
これからもLに沢山の幸せが訪れますように」
座ったままの私をぎゅっと抱きしめてくれた。
そして、ワタリからはチェスセットを貰った。
ドイツ製の高級チェスセットらしい。
ワイミーズハウスに居た頃、ワタリとチェスをした事がある。
いつも勝てなかった。
「貴方と出会えた事が私にとって大きな財産です。
L、貴方の人生が希望と幸せに満ち溢れたものになる事を心から祈ります」
ワタリも
小百合さんと同じように優しく抱きしめてくれた。
答えは至って単純でシンプルで、純粋なものだった。
肩に残る2人の体温がそれを証明する。
何故か、喉の奥が熱くなって、なにかが零れ落ちそうで、言葉にならなかった。