揺蕩う
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「マサルくーん」
と、麻希は笑顔で手を振りながら席に座ってる。
仕事終わりのこの時間が1番居酒屋は忙しい。
広くもないアットホームな雰囲気のこの店もその通りでほぼ満席状態。
笑い声や騒ぎ声や奥の方では団体席なのか
かんぱいと盛り上がる声が入口まで届いてる。
それなのに居酒屋に入ってすぐに耳に飛び込むのは
ずっと聞いていたくなる程、可愛いらしい声
周りに人が居るのにその人だけ鮮やかに色付いて見える。
一直線に麻希の方へ駆け寄って
「遅れてごめん!」と顔の前で手を合わせ
マサルは謝った。
あと少しで仕事も終わり麻希さんとの約束の時間に
余裕で間に合いそうとホッと安心した時
「マサル、債務者の整理して。今日小百合休みだしよォ、頼むわ」と分厚いファイルと借用書をたくさん渡された。
「社長、すみません。今日は…」と断ろうとするが、
社長の目がめちゃくちゃ怖い。
いや、いつも、怖いんだけど、今日は1層怖い。
横に居た高田さんが
「麻希ちゃん、待たす訳にも行かないんで、代わりに俺がやります。いいですか?社長」と助け舟を出してくれた。
が
「ダメだ、マサルに仕事を覚えさせる」と
助け舟を呆気なく沈没させた。
加納さんと高田さんも手伝ってくれたおかげで30分程度でなんとか終わった。
「社長、確認おねしゃす!」
「おう。マサル、ちゃんと覚えた?」
整理したファイルをペラペラめくりながら
丑嶋は聞いた。
「はい」
「ンじゃあ、おつかれ。麻希に宜しく言っといて」
「ッス!」
マサルは高田と加納に頭を下げ慌てて
事務所を飛び出した。
麻希さんとふたりきりになるのが癪で嫌がらせしたのか
本当に仕事を覚えさせる為に任されたのか
本心は分からないまま、
マサルは居酒屋へと走って来たわけだった。