ハジマリの日
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自分一人でベッドに入っていた時よりも、勝己くんと居る今の方が何倍も温かく感じる。
『あ~ダメだこの温かさ、寝るわ…速攻寝ちゃいそうだわ…』
「は?ふざけんな」
ぐいーっとほっぺを引っ張られ、無理矢理寝ることを阻止されてしまう。
『いてて、だって勝己くんあったかいからさぁ…』
「オイコラ、人のせいにすんな」
『うぅ~…』
パッと頬から手を離され、私は頬を擦る。
勝己くんはあまり力加減をしてくれないからちょっと痛い。
「…」
『…』
「…」
『…明日だね、入試』
勝己くんがここに来た理由は何となく分かっていた。
「…ん」
勝己くんはなんと、あの超難関校と言われている雄英高校を受験するそうだ。
私はそんなにデキた人間じゃないので、普通の高校へ行く。
そのため受験日は別々で、私はもう受験を終えていた。
『勝己くんなら、絶対受かるね』
「ハッ、当然だろ」
受験前日だというのに不安そうな素振りを一切見せず、勝己くんはいつもの勝ち気な笑みを浮かべた。
勝己くんには雄英に受かってほしいし、彼が受からないはずないと思う。
けれど。
『…』
寂しいというのも事実だった。
高校生になったらきっと忙しくて、会う時間や話す時間が減ってくる。
私はともかく、勝己くんは雄英だ。
毎日大変だろうな…。
「モカ」
『うん?』
腰に腕を回され、抱き寄せられる。
あぁ、あったかい。
このぬくもりに触れる時間がこれから減ってしまうのは、とても寂しい。
寂しいけれど、それよりも彼を応援したいという気持ちの方が大きくて。
『応援してるね』
腰に回されている方とは逆の、勝己くんの手を握ってそう言えば、彼も手を握り返してくれた。
『(何だろ、今日はいつになく素直だなぁ)』
なんて思っている間にも、瞼は次第に重くなっていく。
『…』
私はそれに逆らわず、瞼を閉じ…
「なに自然な流れで寝ようとしてんだコラ」
…させてもらえなかった。
代わりに、指で瞼をこじ開けられる。
いや、私今とんでもない顔になってると思うよ、これ。
『起きる起きる!ごめん、起きるから!』
私が慌てたようにそう言うと、勝己くんは何も言わずに私の顔から手を離した。
『…ふふ』
私は勝己くんを見て、小さく笑う。
相変わらずの甘え下手だ、構って欲しいならそう言えば良いのに。
まぁそこが勝己くんの可愛い所なんだけどね。
「…」
『その心底変な物を見る目やめて?』
一人で笑い始めた私を変な物認定したのか、勝己くんは怪訝な目をこちらに向けていた。
『勝己くん、今日ウチ泊まってくんでしょ?』
「…ん」
『制服とか受験票持って来てる?』
「俺が物を忘れるなんてヘマするわきゃねェ」
『それもそうだよねぇ』
ちらりと自室のクローゼット辺りを見ると、いつの間にやら学ランがハンガーに掛かっていた。
きっと私がお茶を沸かしている間にも勝己くんが掛けておいたのだろう。
あ、そういえば、せっかく沸かしたお茶飲んでないな…まぁいっか。
『明日、受験前に一回家帰るの?』
「帰る必要無ェ」
『そっか。じゃあギリギリまで一緒に居られるね』
勝己くんは最後の最後まで英単語の一つでも詰め込もうとするようなタイプではないから、たぶん明日の朝も普段通りなんだろうな。
本当に勉強やトレーニングでギリギリまで追い込みたいなら、今日この場に来ないはずだしね。
そこまで考え、私はふわぁあと欠伸をする。
『………そろそろほんとに寝そう…』
迫り来る眠気に必死に耐えながら私は呟く。
寝たらきっとまた瞼をこじ開けられるもん。
地味に痛いし、とんでもなく変な顔だろうし、あれはもう御免だ。
でも眠いものは眠いので、少しうつらうつらとしていると。
勝己くんは私の後頭部に手を遣り、そのまま彼の胸元に押し付けた。
あ、寝ても良いってこと…かな、たぶん。
『…勝己く…おやす、み…』
「…あぁ」
勝己くんの声が耳に残ったのと同時に、私は静かに瞼を閉じた。