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あの場で少し休ませてもらってから私は演習会場を出た。
10分程度の仮眠だったけれど先程より眠気は随分マシだ。
学科試験も終えたし、入学試験はこれで終了とのこと。
まだ眠いことには変わりないので、私は早速自宅へ帰ることにした。
校門へと足を向ける。
『…』
みんな、凄かったなぁ。
仮想敵に立ち向かって行った、名前も知らないみんなのことを思い返す。
自分の"個性"を使って必死にポイント取って。
それなのに私は…
何をしに来たんだろう?
私の"個性"は不利だから、少しでもみんなより多くの仮想敵を倒さなきゃいけなかったのに。
倒した仮想敵の数なんて、たかが知れてる。
その上他の受験生…ライバル達に"個性"を使って時間ロスしてた、なんて。
『…』
いやいや、何弱気になってるんだ私。
らしくないぞ。
切島くんとも絶対受かるって約束したし、きっと大丈夫…大丈夫。
大丈夫…な、はず…。
あぁ、一人で居ると悪い方向へと思考が傾いていく。
するとその時。
「モカ!」
後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
『切島くん…』
「おう、お疲れさん!」
こちらに向かって笑顔で手を振るのは切島くんだ。
「何回か連絡入れたんだけどよぉ、全然返事無ェからもう先に帰ったのかと思っ…」
『切島くん…』
「!」
私の顔を見た途端、切島くんの言葉が途切れた。
『私…約束守れなかったかもしれない…』
視界が涙で滲むのが分かった。
***
普段、放課後によく二人で立ち寄る公園に来た。
「ほら、とりあえず飲めよ」
『ありがと…』
切島くんは話しながら、自販機で買ってくれたジュースを手渡してくれる。
「なぁ。モカは試験中、自分が今何ポイントくらいかって数えてたか?」
話しながら、切島くんは私の隣にドカッと腰を降ろした。
『うん、大体10ポイントくらい…』
「…」
『…』
試験が終わった直後に彼の前で涙を見せるなんて、面倒なことをしてしまったと思う。
早く帰って休みたいだろうに。
『…ごめんね』
「なーに謝ってんだよ」
『…何って…』
カシュッ!と、切島くんが缶ジュースを開ける音がする。
「お前なァ…!そんなシケたツラされっと、こっちが調子狂うっての!」
『だって…だって約束したのに!私、全然ポイント稼げなかった…から…』
やだな、こんなうじうじしたところ見せたくないのに。
「…今回の試験、お前の"個性"は不利だったよ」
いつもと違って落ち着いた切島くんの声のトーンに、少し自分の肩が揺れる。
「そんな中でも、体術だけで仮想敵を何体も倒したんだろ?それだけでも凄ェよ」
そう、戦闘に適した"個性"を持たない私は、"個性"に頼らずに相手を倒していくしかない。
だから私は体術で仮想敵を倒してポイントを確保していたのだ。
『でもそれとこれとは話が別だよ…みんなも凄かった、頑張ってた』
私がそう言うと切島くんは少し考える仕草をする。
「…さっきさ、大体10ポイントくらいだったって言ってたよな?」
『うん…』
絶望的だ。
みんな仮想敵を倒しながら、"今50ポイント"、"やっと40ポイント"とか言っているのを聞いた。
「普段のお前なら、もう少し倒せただろ?」
『…』
黙ったままの私に切島くんは笑い掛けてくる。
「試験中のお前を見てた訳じゃねェから分かんねェけど、"個性"使って人救けでもしてたんだろ?だから体術で敵を倒すのに割く時間が無かったんだ」
『…う、』
「人救け、それってヒーローの仕事だろ。目の前の敵を倒すのも、仲間の傷の手当てをするのも大事なことだ!そんなヤツを落として良いはずねェんだよ、だからお前は大丈夫だ!」
切島くんの言葉に目頭が熱くなる。
『き、切島くん…』
真っ直ぐな目をして、こちらを見る切島くん。
「お前はよく頑張ったよ」
頭を撫でられ、私は下を向いて唇を噛み締めた。