"泣かないで、爆豪くん"



私がそう言うと、爆豪くんはぽかんとする。

「…は…？」

動揺したのか、私の首を押さえる力が弱まった。

これなら先程よりも断然話しやすい。

息が出来る。

『神野の…こと、なんだけどね…』

「…」

『一番最初に言い始めたのは切島くんなんだよ…。私ね、初めは神野に行くの反対してたんだ。"プロに任せるべきだ"って』

「…」

『でも切島くんの想いが私の意見を変えた。それがみんなに派生して、あのメンバーが集まった』

あ、轟くんも最初から行く気だったっぽいんだけど、と付け足す。

『…、』

「…」

ここから先の言葉を私が言って良いのか、少し悩んだ。

私が今から言おうとしていることは、切島くんから爆豪くんに伝えるべきなんじゃないかと思ったから。

けれど今の爆豪くんはきっと、私に"ちゃんと言い切って"欲しいのだろう。

『大切な友達のためなら…爆豪くんのためなら…私達はどこへでも行くよ』

そう言って笑って見せると、爆豪くんはわざと大きく舌打ちをした。

相変わらず照れ隠しが下手くそである。

「…泣いてねェわクソが」

『え、否定すんの遅くない？ていうか絶対泣いて「黙れ喋んな！」んぐっ！』

首に添えられていた手が離れたかと思えば、そのまま片手で頬を鷲掴みにされてしまった。

まさか私が喋った途端、爆破する気なのだろうか…？

顔面を爆破なんてシャレにならないぞ。

『ぐ、グロい…』

「あァﾞ？」

『何れもらいれひゅ…』(何でもないです…)

睨まれてしまった…。

先程の勢いが嘘のように、爆豪くんは静かに私の上に跨がっている。

「…」

『…』

いつ退いてくれるのかなぁなんて考えていると、スッと頬から手を離された。

顔面を爆破される心配が無くなり、ほっと安堵の溜め息をついていると…

「…」

『ん？』



ボフッ



仰向けの私に跨がっていた爆豪くんがそのまま上半身を倒し、私の身体の上に倒れ込んで来たのだ。

…え？

倒れ…込んで…？

『…！？』

私は自身の顔中に熱が集まるのを感じた。

爆豪くんの様子を伺おうにも、ベッドに顔を埋めているため彼の表情は分からない。

『え、うぁ、ば、爆豪くんっ？』

「クソが………クソ…」

すん、と鼻を軽く啜る音が聞こえてくる。

また泣いているのだろうか。

『(どこまでも純粋なんだなぁ、爆豪くんは)』

私は、のしかかってくる爆豪くんの背中を優しく擦った。