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さて、切島くんとの朝練も終え、今日は仮免取得試験当日。
私は今、1-Aの生徒達と共に仮免許取得試験会場"国立多古場競技場"へとやって来ていた。
「緊張してきたァ」
「多古場でやるんだ」
「試験って何やんだろ…はぁー、仮免取れっかなァ」
緊張する者や不安がる者が居る中で、相澤先生が峰田くんに向かって口を開く。
「峰田、取れるかじゃない。取って来い」
「おっもっ…モロチンだぜ!」
『ブフッ』
これはひどい。
不覚にも私は、焦った峰田くんのセリフに吹き出してしまった。
そんな私や峰田くんを気にすることなく、相澤先生は話を続ける。
「この試験に合格し仮免許を取得出来れば、お前等志望者(タマゴ)は晴れてヒヨッ子…セミプロへと孵化出来る。頑張って来い!」
相澤先生がこうして、真っ直ぐな言葉で私達の背中を押してくれるのは珍しい気がする。
『ふぅ…!』
私はひとつ深呼吸をした。
そんな私の両隣で切島くんと上鳴くんが気合を入れる。
「っしゃあ!なってやろーぜ、ひよっこによォ!」
「いつもの一発決めてこーぜ!」
『良いね!気合入れてこう!』
「あぁ!せーのっ!プルス、」
「『ウルトラー!!』」
切島くんの掛け声に続いて拳を天に突き上げる。
…が、私と共に叫んだのは切島くんでも上鳴くんでもなかった。
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
「あぁしまった!どうも!大変!失礼致しましたぁああああ!!」
「「『ヒィイ!!』」」
文字通り、地面に頭を叩き付けて謝罪のポーズを取る坊主頭の人物に、私達は固まる。
「何だこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような…!」
『何それ、濃っ』
「オイ」
「聞き捨てならんぞ!」
おっと、心の声が漏れてしまっていたようだ。
切島くんは私の肩を小突き、飯田くんは挙手しながら迫って来る。
『どうどう…』
「待って、あの制服…!?」
上鳴くんと私のやり取りを聞いてか聞かずか、響香ちゃんが声を上げた。
「アレじゃん!西の有名な…!」
「東の雄英、西の士傑」
瀬呂くんや爆豪くんに続いて、先程"イナサ"と呼ばれた人物の制服を見てみる。
数ある難関高校の中でも雄英と並ぶほどと言われている、士傑高校の制服だ。
制服もそうだけれど…
制帽を被っているので、彼等が士傑高校の生徒であるというのはとても分かりやすいのだ。
イナサと呼ばれた彼は無邪気な子供のように、私達を見て目を輝かせている。
「一度言ってみたかったッス、プルスウルトラ!!自分、雄英高校大好きッス!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みッス!よろしくお願いしますッ!!」
「あ、血」
坊主頭の人の後方で、小さく呟く女性の姿が目に入った。
『!!…ちょっ…峰田くん、上鳴くん…!』
「あぁ…!」
「流石、分かってるなぁカフェ…!」
1-A生徒のみんなにはきっと"女好き三人組"とでも思われているであろう、私達は顔を突き合わせて頷いた。
「「『彼女…イイ…!!』」」
イナサと呼ばれた人物の隣に立っている、ぷっくり唇が印象的な女子生徒…というか女性を見て私達は盛り上がった。
いや、だって見てよ、凄いよ?
睫毛長くて鼻も高くて唇が色っぽくて巨乳でナイスバディーで、何よりセクシーである。
見ているだけで目の保養になるわ。
『あの人美人過ぎでしょ…!良いなぁ、一回話してみた…ん?』
名前も分からない美人さんを眺めていると、ふと視線を感じた。
その視線を辿ってみると…
「『!』」
美人さんの隣に立つ、糸目の男子生徒と目が合った。
「…」
『…、』
ギロリと睨み付けられ、私は何も考えずに身を一歩後ろに引いた。
切島くんの逞しいガタイを良いことに、さり気なく彼の後ろに控える。
「ん?モカ、どうした?」
『…いや?でしゃばり過ぎも良くないかなと思って』
切島くんに口ではそう言いながら、"何か睨まれるようなことしたっけ…"と脳内で考える。
あれか、初対面で美人さんを下心のある目でジロジロ見てたからか、そうなのか。
「…行くぞ」
結局答えは分からないまま、糸目男子の声に続いて、士傑高校の生徒達は去って行った。