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『あのね切島くん…その前に聞いて欲しいことがあって…』
忘れようとした記憶が…
無かったことにしようとした記憶が、蘇ってくる。
「おぅ…何だ?」
『…』
もう全て言ってしまおうと思った。
こればっかりは、今の弱った心の私には一人で抱え切れそうになかったから。
目の前の彼にだけは、隠し事はしたくなかったから。
ただ…
『………っ』
喉にモヤモヤが支(つっか)えて、私の言葉は言葉にならなかった。
"…あぁ、待ってたぜ"
"死柄木弔…"
"この指がお前の首に触れた時、お前は完全に塵となる…あんまり俺の機嫌を損なわない方がいいぜ?"
"俺の望みを叶えろ…そしたら今日は返してやるよ"
"…な、にを…すれば、いいの…?"
"ここ。治せ"
"こ…こんな大きな傷、そんな一瞬で治せなっ…"
"治せないじゃない、治すんだよ。犯されたいのか?"
職場体験先で黒霧に拉致されたこと。
そこで死柄木弔の大きな傷を治すように言われたこと。
言う通りにして、無事にジーニアス事務所に帰されたこと。
『…ぁ…』
全部が大きな蟠(わだかま)りのようになって、言葉が出ない。
あれ、何だこれ。
『あの…ね…っ』
声が震えた。
自分から話を切り出したくせに、切島くんに話して拒否されるのが怖い。
このことを知っても、切島くんは私に好意を持ち続けてくれるだろうか。
嫌われないだろうか、拒絶されないだろうか。
『…っ』
「モカ」
優しい声色の切島くんをゆっくりと見上げる。
「おめーが俺に何を言いてぇのかは分からねぇけど…そんなに焦んなくて良い。無理して話さなくて良いんだ」
『切島くん…』
目線を合わせながら、切島くんがゆっくりと私の頭を撫でてくれた。
気を遣ってくれているのがよく分かる。
「話そうとしてくれてんのは素直に嬉しいぜ。でも、モカのその辛そうな顔を見る方が俺は嫌だ」
『…あり、がと…』
「何もしてねーって」
小さく感謝の言葉を述べると、切島くんは苦笑した。
『…』
無理に、言わなくても良いんだ。
言えるようになってからで。
私のペースで良いんだ。
『…』
安心した。
なんだか安心した瞬間、急に眠たくなってきた。
「…ん、眠ィのか?」
『…なんか…安心したら眠くなってきた…』
「何だそれ」
切島くんが小さく笑う。
そして…
「今日は寝ろ寝ろ!眠ィ時は寝ろ!」
『わっ…』
グッとベッドに押し込められた。
「今日は俺が寝かし付けてやるよ!」
にししと笑う切島くんに、なんだか自分が赤ちゃん扱いされているみたいに思えてきた。
顔に熱が集まる。
『なっ…い、良いよっ 一人で寝れるって…!』
「遠慮すんなって。俺がこうしてぇんだ」
『う…』
急に真剣な表情をするのはずるい。
『(そんな風に言われたら、何も言い返せないじゃん…)』
再度、頭を優しく撫でられる。
「…」
『…』
心地良い感覚に不思議と瞼が落ちてくる。
「…おやすみ、モカ」
何を答えるより先に、私は夢の世界へと旅立った。