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私は目線を逸らして俯いたまま、床を見つめている。
そんな私の隣でギシッと音がしたかと思えば。
次の瞬間、温かいものに身体を包まれた。
切島くんが私を抱き締めたのだ。
『なっ…え、切島くん…』
「…あんま一人で考え込むなよ。俺、モカの泣いてるとこ見んの、すっげー辛ェんだ」
抱き締められているおかげで、半泣き状態の顔は見られていない。
先程から目線を逸らし続けていた私を見て、きっと切島くんが目線を合わせないよう気遣ってくれたのだろう。
「クラスの奴等も心配してたぜ。モカはいつも通りに振舞ってたのかもしんねーけど、俺等にはバレバレだった。それでも誰も深く突っ込まなかったのは、モカのことが本気で心配だったからだ」
『…!』
切島くんの…うぅん、クラスのみんなの優しさに、私は目頭が熱くなった。
『…今日だけ…ちょっとだけ、話聞いてもらっていい?』
「あぁ、もちろんだ!」
力強い声でそう言ってくれる切島くん。
抱き締められたままの体勢で、私はぽつりぽつりと自分の気持ちを正直に話し始めた。
『元々初めて受ける試験で少し緊張してたんだけどね…?』
「あぁ」
切島くんは相槌を打ってくれる。
『私の"個性"は攻撃技じゃないから、他校の生徒と"合格を奪い合う"って聞いて、不安で。なのに必殺技はひとつも完成しない…。クラスの子達はみんな出来てるのに、私だけどうしても出来なくて。みんなに心配させてるのも申し訳無いし、早く習得しなきゃって思えば思う程、焦る気持ちが強くなって…』
「…」
『そんな中で切島くんと久し振りにやった特訓。そこで切島くんが力を抑えてたってことを知って…周りとの力の差を知って…自分の弱さに幻滅したんだ。情けなくて、不甲斐なくて、辛い』
思っていたよりもスラスラと言葉が出て来る。
抱き合ってる状態で、目を見て話している訳じゃないからかな…
話しやすい。
何も隠すことなく、感情のままに。
私は切島くんに自分の思いを全て晒した。
『悔しいし悲しい。このままじゃダメだっていうのも分かってる。でもね、今はなんかもう、何もしたくない…』
「…」
『こんなだから私、敵に目ぇ付けられるのかなぁ…?』
「…!」
私のすぐ近くで、切島くんが息を呑むのが分かった。
「…言いてェのはそんだけか?」
『…』
私は何も言わなかった。
そんな私に切島くんは一呼吸置いてから口を開く。
「あのな…まず、お前は弱くなんかねェ」
『…弱いよ』
「いや、弱くなんかねェ。本当に弱いヤツってのはさ…こうやって考え込んだり反省したりしねェよ。お前は強い心を持ってる」
『…』
抱き締められたまま、トントンと背中を軽く叩かれる。
「必殺技に関しては…俺は正直、あんまりこだわらなくても良いと思う。受験する側として"あった方が良い"ってだけで、必須って訳じゃねェし」
『でもミッドナイトは"必殺技を持たないプロヒーローは絶滅危惧種"って言ってたし…』
「それもただ"少数派だ"ってだけだ、気にすんな!"必殺技"にこだわらず、自分のスタイルを貫きゃいいんだ!」
すぐ耳の後ろで聞こえる切島くんの真っ直ぐな声に、少しずつ心の中のモヤモヤが晴れていく感じがした。
『………そう、かな…?』
「あぁ、そうだ!後、俺が力を抑えてたのを黙ってたことは謝る…悪ィ!」
『切島くんが謝ることじゃないよ、ただの私の力不足なだけで…』
「俺が本気を出さなかった…いや、出せなかったのには理由があんだ。だからモカがそんなに自分を責める必要は無ェ。俺個人の問題だ」
『個人の…問題…?』
切島くんの言葉を繰り返せば、あぁと彼は小さく呟いた。
そして少し身体を離され、パチッと目が合う。
切島くんは私の目元の涙を、そっと親指で拭ってくれた。
「相手がモカだから本気で殴れなかった…お前が特別だから。相棒としては勿論、一人の女として…特別だからだ」
ドキッと、心臓が音を立てて跳ねた。
『き、切島くん…』
「体育祭ん時言えなかったこと、今言わせてくれ」
『待って、切島くん』
私は切島くんの腕に手を重ね、私は切島くんにストップをかけた。
その前に、言っておくべきことがあると思ったから。