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しばらく沈黙が続いたかと思うと、切島くんは一つ頭を掻いた。
「あのな、モカ…"男の本気"って、どんなモンか知ってるか?」
『…?何の話…?』
いつもの切島くんのこだわり、"男"についての話題を出され、私は小首を傾げた。
このタイミングでその話…?
「モカは何も分かってねェよ」
『だから何の…、っ!』
言い終わらない内に、ドンッと木に身体を押し付けられた。
そして間入れず、切島くんの片手で私の両手首を掴まれ、頭上で固定されてしまう。
『ちょっと、切島くん!』
「なぁモカ。俺、今片手でお前の両手首押さえてるよな。これ、解けるか?」
『解けるよ…!』
今までの特訓でも似たようなことはされたことがある。
切島くんが片手で私の両手首を固定し、身動きを封じるというものだ。
いつもなんだかんだで解けるので、今回も解ける。
そう思っていた、のに。
『…解け、ない…?』
どれだけ力を入れても、切島くんの手は私の手首から離れてはくれなかった。
『な、何で…いつもは解けるのに…』
そう呟いた私はハッとする。
「…」
『…いつものは本気じゃなかったってこと?』
捕縛もそうだけれど、もしかしていつもの組み手も…?
『…』
「…、」
切島くんは少し迷った後、ゆっくりと口を開いた。
「…俺がお前を…本気で殴れる訳無ェだろ…」
俯いてそう言う切島くんは、申し訳無さそうに眉尻を下げていた。
『何で切島くんがそんな顔するの…切島くんは悪くないじゃん。むしろ変に気ぃ遣わせてごめんね』
切島くんのことだからきっと、私が特訓に本気で取り組みたいと思っていることを理解していたんだろう。
だからこそ、切島くんは本気を出している"フリ"をしていたんだ。
『なんか情けないなぁ私。…いつから本気じゃなかったの?』
「…中学ン時には、もう…」
…思っていたよりも前だった。
切島くんは中学の時から、私との特訓中に本気を出してくれてはいなかったのだ。
いつの日か、"切島くんとの特訓は殴り合いのようなものだ"と、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに話した時のことを思い返す。
"ケロ…!男の子と殴り合いなんてして大丈夫なの?"
"心配だよ…でも切島くん、女の子相手だと少しは優しく…"
"手加減無しだから良いと思うんだ。それに怪我しても私の"個性"で治せるし、骨折とか大きな怪我はしたことないし!"
『…手加減大アリじゃん』
自嘲気味に笑う私を見て、今度は切島くんが口を開く。
「いや…正直、力は抜いてたけど、手を抜いて特訓してた訳じゃねェ。ちゃんと本気で挑んできた。それはこれからも変わらねェよ」
『…そっかぁ…』
なんだかとても寂しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。
今まで共に歩んできたはずなのに、切島くんばかり強くなっていく。
でも、そうだよね。
体格や身長にも大きな差が出て来ているのに、力に差が無い訳無いんだ。
私は根本的な所から、思い違いをしていたんだ。
「でもよ…やっぱり俺達、"男と女"なんだ」
女は男の力には敵わない、そんな言葉を聞いたことがある。
でも。
そんな情けないこと言ってられない、そんなことで甘えていたら敵と遭遇した時にどうするんだ、そう思っていた。
けれどこれが現実。
現に、私の両手の力は、切島くんの片手の力にも満たない。
…私は非力で、弱いんだ…
「モカ…そんな顔すんなよ…」
掴んでいた両手首を離されたかと思えば。
切島くんは私を見下ろしたまま、両手を私の顔の隣についた。
「違ェんだ、お前を悲しませたい訳じゃなくて…!これからは…俺がお前を…」
「「わぁぁあああーっ!!?」」
「『!?』」
突如聞こえた第三者の声に、切島くんと私は驚いて振り返る。
少し離れた所からこちらを見ていたのは、上鳴くんと峰田くんだった。