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ベッドに横になる死柄木弔を見下ろす形で立ち、私は回復手当てを施している。
片方の手首を四本の指で掴まれながら。
「あぁ…なんかやっぱ、じわじわして気持ち良いなァ」
悔しい、悔しい、悔しい。
なんで私は敵の傷を癒やしてるんだ。
倒すべき相手を回復させるなんて私は気が狂ってるのか。
もしこれが家族や学校の先生方、クラスメイトに知られたらどうなるのか。
『(訳分かんないよ…頭おかしくなりそう…)』
何も言わず手当てに専念する私に、死柄木弔は私の手首から一度手を離し、寝転んだままの体勢で今度は私の顔へと手を伸ばしてきた。
「…」
『…』
この手を払ったら、機嫌を損ねたら、殺される…?
ヒーローにもなれず、親孝行もできず、切島くんとも仲直りできず…?
「…」
その手が、ゆっくりと私の頬に添えられる。
『(嫌い…嫌い嫌い嫌い…!こんなヤツ…こんなヤツ…!!)』
ギリッと歯を食いしばると、死柄木弔が口を開いた。
「そんな顔すんなよ、俺が悪いことしてるみたいだろ」
悪いことをしていないと言うのだろうか、ふざけるな。
そう言い返したかったけれど言葉を呑み込んだ。
この人を…死柄木弔を、刺激しては…いけない…。
「この傷、俺は被害者なんだぜ?相手が突然斬り掛かって来たんだ、俺は何もしてないのに」
『…』
「なぁ…」
じっと紅い瞳が私を見つめてくる。
私は目を合わさないように患部を眺めた。
そろそろ頭がぼうっとしてきた…
早く完治させないと。
私は気を引き締め直す。
「俺は悪くない…被害者なんだぜ」
『…』
「言えよ、俺は悪くないって」
私の頬に添えている指を、わざとらしくひらつかせる死柄木弔。
完全にこの人、私で遊んでる。
「挨拶代わりに人を斬り付けるとか相当クレイジーだろ?」
『…』
「…」
私が渋っていると、目線で言葉を促される。
『………貴方は…悪く、ない…』
「アハハハハハ!」
…これで良いんだよね、ベストジーニスト。
何が最善か、常に冷静に考えなきゃ。
今この場では、生きて帰ることだけを考えれば良い。
大丈夫、私の選択は間違っていないはず。
命が一番大事なんだから。
「だよなァ!やったぜ、ヒーローのお墨付きだ!」
『(早く治れ…早く治れ…)』
私が思い通りになるのが相当面白いらしく、上機嫌で厭らしい笑みを浮かべる死柄木弔。
今は心を無にしろ、何も考えなくていい。
『(早く…っ!)』
ちょうどそのタイミングで、死柄木弔の傷跡が完全に塞がったのが確認できた。
『治った…!』
「ほんとだ、完全に治った…やっぱすげーな」
死柄木弔は私の頬から手を離し、上体を起こす。
やっと終わった…もうすぐ帰れる。
『約束通り、』
「ちょっと黙ってろ」
後頭部を掴まれたかと思うと…
死柄木弔の顔が近付いてきて。
次の瞬間、生暖かい何かが私の唇に触れた。
それが死柄木弔の舌だと気付くのに時間は掛からなかった。
『(また…舐められっ…)』
後頭部から手を離された私は反射的に飛び退く。
「"この前の"より、こっちのが良いな」
この前と言うのは、たぶんUSJで涙を舐め取られた時のことを言っているのだろう。
「おい、こっち向け。もう一回だ」
死柄木弔は私の腰を掴んで乱暴に引き寄せる。
『(いやっ…)』
「…」
死柄木弔と至近距離で目が合ったかと思えば…
「死柄木弔」
どこからともなく黒霧が現れた。
「黒霧…今お楽しみ中なのが分からないのか?」
「ですが…そろそろ頃合いかと」
「………ヒーロー殺し…」
何の話をしているのかは分からないけれど、ヒーロー殺しって…
色々考えようとするも、頭が上手く働かない。
そろそろ眠気がピークに達しそうだ。
『(もう少し…もう少しだけ頑張れ、私!)』
どこからか黒霧の靄が出て来て、目の前が徐々に暗くなっていく。
「続きはまた今度な…おやすみ、カフェモカ」
『!』
最後に見せられた死柄木弔の表情が、あまりにも優しくて。
『おや、すみ…』
ぼんやりとした思考のまま、私は思わず釣られて返事をしてしまった。