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以前と違い、靄に包まれても目を閉じなかった私は空間を飛ばされた瞬間に構えの体勢を取る。
「…あぁ、待ってたぜ」
『死柄木弔…!』
私のすぐ目の前には死柄木弔が腰掛けていた。
以前顔面に付いていた"手"は今は無いため、死柄木弔の表情がよく見える。
彼の紅い目と目が合った。
「流石に飛ばされれて三度目ともなると慣れてしまいますか…」
この靄敵の名前は、確か"黒霧"…
空間移動系の"個性"だ。
私は構えの体勢を崩さずに、目線だけ動かして周囲を見渡す。
『(ここはどこだろう…?見たことない所だ…Barみたいな雰囲気だけど…)』
「余所見するなんて随分余裕あるんだな。この前なんかずーっと泣いてたのにさぁ?」
死柄木弔が私の近くまで来たかと思えば目の前で屈む。
その雰囲気によって、以前涙を舐められた時を思い出させられた私は、こちらに伸ばしてくる死柄木弔の手をパシッと払った。
「…んだよ、今日は機嫌良かったのに…なんか無性にイライラしてきた」
死柄木弔が顔を顰め、突然重くなった周囲の雰囲気に私は"しまった"と後悔する。
私が焦った隙を突いて、死柄木弔は私の首を四本の指で掴んだ。
死柄木弔は最後の一本の指をひらつかせる。
「この指がお前の首に触れた時、お前は完全に塵となる…あんまり俺の機嫌を損なわない方がいいぜ?」
私の耳元で酷くドスの聞いた声をきかせる死柄木弔に対して、私は構えのポーズを取るのをやめた。
これ以上相手を刺激すべきではないと判断したからだ。
『…』
「来い、自分で歩け」
私は後ろから首を掴まれたまま、彼の指示通りに足を進めた。
そしてやって来たのは薄暗い無機質な一室だった。
『何…この部屋…』
ぽつりと声を漏らすと、バタンと自分の後ろで扉の閉まる音がする。
『!』
「…」
この状況は非常にまずい…
私が今ここでコイツに殺されても、誰にも気付いてもらえない。
職場体験中に行方不明なんてニュースの話題になるのは御免だ…
何とかして逃げなければ。
『…』
この部屋に窓は無い…
逃げ道は私の後方部にある扉一つだけだ。
「さっきも言ったが、今日の俺は機嫌が良い…」
確かに以前のように首を絞める等の乱暴はされていない…
それに彼の言動を見聞きしているとまるで子供のようだし、やはり彼自身の言う通り機嫌は良いのかもしれない。
なら、それを利用すれば…
ここをやり過ごせる可能性はある…!
『(冷静に。"何が最善か"を常に考えろ…)』
「俺の望みを叶えろ…そしたら今日は返してやるよ」
『…な、にを…すれば、良いの…?』
私はそのまま後ろから押し歩かされ、部屋の奥へと誘導された。
目の前には、質素なベッドがぽつんと一つ置いてある。
『…』
「…」
『…え?』
思わず顔が引きつった。
『(…まさか、ね。違う…よね?)』
ちらりと死柄木弔の様子を伺い見ると、薄く笑みを浮かべて彼はこちらを見ていた。
『…!』
サァッと血の気が引いた。
「物分かりの良いヤツは嫌いじゃないぜ…?」
あらぬ行為を想像してしまった私は、無理矢理その思考を掻き消す。
『(嘘、無理無理無理…!)』
ベッドを見て身体を硬直させる私を見て、死柄木弔は私の首からパッと手を離した。
『(切島くん…!!)』
グッと身体中を強張らせたその時。
ドサリと、死柄木弔がベッドに横になった。
「ここ。治せ」
『…えっ』
寝転んだまま言う死柄木弔は自分の肩を指差していた。
「せっかく前の傷が癒えてきてたのに、クソにやられた」
よく見ると、両肩に大きな裂傷が見受けられる。
傷を負ってから随分と時間が経っているのか、血は固まりきっていた。
『こ…こんな大きな傷、そんな一瞬で治せなっ…』
「治せないじゃない、治すんだよ。犯されたいのか?」
『(やっぱりソッチの意味も入ってるんじゃん…!)』
私は酷く狼狽した。
治せない訳じゃないけれど、この大きな傷を回復させるには相当な気力を使う。
と言うことは"個性"使用後、最大のデメリット…
眠気が猛烈に襲ってくると言う訳で。
『(こんな所で寝たら確実に殺される…!それに敵の回復をするなんてヒーローとして有り得ないし!)』
中々動こうとしない私に痺れを切らしたのか、死柄木弔が寝転んだまま、私の方に手を伸ばす。
そして私が片手にぶら下げていたコンビニの袋に触れ、一瞬でそれを塵にしてしまった。
『あっ…!』
爆豪くんのお菓子が。
私のスイーツが。
切島くんへの、お土産が。
「俺はこの後出掛けるんだ、時間が無い。早くしろよ」
鋭い目でそう言われれば、私は頷くことしかできなかった。