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私の棄権宣言を見ていた時のような熱苦しい涙でも、感動していた時の涙でもない。
切島くんは下を向いて、ただ静かに涙を流していた。
「…っく………うぅ…っ!」
こうやって彼が泣く所を見るのはいつぶりだろうか。
こういうのはあまり見られたくないだろうから、私はゆっくりと彼の身体を抱き締めた。
彼が椅子に座っていて私が立ったまま向かい合っているので、私の胸元にちょうど彼の顔がくるような形だ。
今は恥ずかしいとか、お互いにそんなことを考えてはいない…と思う。
『切島くんは強かったよ。大丈夫、大丈夫』
片手を背中に回し、もう片方の手で彼の頭を撫でてやる。
すると彼は辿々しく私の腰に両腕を回してきた。
『いっぱい頑張ったね』
頭を一撫すると、彼はまた嗚咽を漏らした。
***
とんとんと子供をあやすように背中を叩いていると、彼はようやく落ち着いたようだ。
「情けねぇとこ見せてワリィ…」
スッと身体を離す切島くんに私は首を振る。
『うぅん、情けなくなんかないよ』
「…サンキュ」
"情けなくなんかない"ときっぱり言い切ってしまえば、それを聞いた側は割と落ち着くものだ。
先程切島くんも私にそうしてくれたように、言い切ってやる。
「…あとは…"大事な話"についてなんだが…」
『…うん』
ドキッと心臓が跳ねた。
「前にも言ったが、俺は今までモカを一番近くで見てきたつもりだ。でもそんな俺にも知らねェことがあんのかもしれねェと思ってさ…。単刀直入に言うぞ!」
『う、うん!』
じっと見つめられ、恥ずかしいけれど私は見つめ返す。
「…彼氏とか居んのか!?」
『………へっ?』
ギュッと目を瞑って言う切島くんに、思わず腑抜けた声が出た。
だって、だって…!
『居ない…よ』
ずっと切島くんと一緒に居たのに、私に彼氏を作る暇がある訳無いじゃないか。
それに、彼氏になって欲しいと私が思う人は…っ
「居ねェんだな!分かった!それが聞きたかっただけだ!そんだけだ!」
『それが聞きたかっただけ…』
てっきり私、告白されるのかと思ってた…!
うわぁ私めちゃくちゃ恥ずかしいヤツだ、自意識過剰過ぎた。
過去の自分をぶん殴りたい。
「あ!いや、ほら!変な意味じゃなくて!」
『う、うん…!分かってる!分かってるよ!』
私達二人は慌て始めた。
切島くんはそのまま、焦った口ぶりで言葉を続ける。
「やっぱ高校生にもなれば誰でも、恋愛のこととか意識し出すだろ?ちょっと参考にしようと思っただけだ!」
『…え…?』
すぅっ…と、身体の端から冷えていくような感覚がした。