四天宝寺
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【 窓 】
しっとりと静かな雨が降り注ぐある日のこと。
微睡みの淵に落ちていた怜はゆっくりと目を覚ます。
覚醒し切らない頭で最初に理解できたのは、自身の左側に感じる温もり。
穏やかな落ち着きを覚える温かさに、そのままぼんやりと身を預けていた。
「…お、目覚めたん?」
ふと、頭上から聞こえた声に、ゆっくりと視線を向ける。
「お早うさん」と穏やかな笑みを浮かべる恋人ーー白石がいた。
「…ごめん、寝てた…?」
まだ頭がぼんやりしているも、怜は白石に凭れていた身体を起こす。
並んでソファーに座り、のんびり過ごしていたはずだが…いつの間にか、眠り込んでいたらしい。
「30分ぐらいやなぁ」
少し乱れてしまった彼女の髪を手櫛で整えながら、白石は続ける。
「首、痛ない?寝辛かったやろ」
「大丈夫」
ーーーーー 白石くんは落ち着くから
さらりと続けられた言葉。
きょとんとした白石だったが、段々と顔を赤らめて行く。
普段は口数の少ない怜が、こうして時折落とす言葉。
付き合い始めてから、白石はそれにいつも翻弄されていた。
(ほんま… 怜ちゃんには敵わんわ)
心の中で、そう呟く白石。
怜の前では常にかっこいい自分で居たいのに、彼女の言葉1つでこんなにも乱されてしまう。
怜からすれば、白石も同じようなことをしているのだが…。
お互い、無自覚らしい。
そんな彼を知ってか知らずか。
怜は視線を窓の外へ向けていた。
「…怜ちゃん?どないしたん?」
「……虹」
怜の言葉に、白石も窓の外へ視線を移す。
朝から降り注いでいた雨は上がり、雲間から青い空が顔を覗かせていた。
そこへ薄くかかる小さなアーチ。
「ほんまや。久し振りに見たわ」
そのまま静かに虹を眺めていたが、白石はそっと怜へ視線を戻す。
表情が乏しい…と言われることの多い彼女だが、白石はそう思ったことなどなかった。
確かに、大きく表情を変えることは無いに等しいものの、その瞳にはたくさんの感情が溢れていた。
現に今も、外を眺めている瞳には穏やかな色が見えている。
「……怜ちゃん」
不意に名を呼ばれた怜が、白石へ視線を移すと…
ーーーーーーーー
間近へ寄せられた白石の顔と唇へ感じる温もり。
その温かさがゆっくりと離れてから、怜は状況をようやく理解する。
それに伴い、白い頬や髪の間から覗く耳がじんわりと赤らむ。
「…急、過ぎる……」
「すまんなぁ。急にしたなってん」
そう言いつつも、悪びれる様子の無い白石は怜の長い髪へゆっくりと指を通す。
「嫌やった?」
「……嫌じゃ、ない…」
怜の返答に穏やかな笑みを浮かべ、白石は彼女をそのまま自身の腕の中へ引き寄せる。
雨上がりの窓辺には、穏やかな光が緩やかに差し込んできていた。
End.
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