四天宝寺
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「冗談じゃなかよ」
昼間の暑さが尾を引く夜。
千歳は、宿泊先から程近い広場にいた。
(東京も暑かねぇ)
九州で生まれ育ち今は大阪に居る千歳でも、じっとりと纏わり付くようなこの暑さはどうにも落ち着かない。
彼が腰掛けている背の高い花壇。そこに咲く花も、暑さに辟易しているかのように下を向いているものがいくつか見える。
そこへ…
「千里」
「お~。久し振りやね、怜」
現れたのは、青学テニス部のマネージャーである怜。
制服をまとい、スクールバッグを肩にかけている。
学校帰りにそのまま来たのだろう。
「出て来て良いの?」
「問題なかよ」
少し外に出る、とたまたま会ったチームメイトであり部長の白石には話して来た。と、千歳は続ける。
(…苦労してるなぁ、部長さん)
千歳の放浪癖と、それに振り回されているであろうチームメイトに、怜は内心で溜め息を零す。
「……で、用は?」
千歳の隣に並び、彼が腰掛けている花壇に寄りかかりながら怜は尋ねる。
目前に迫る全国大会。
それに出場するべく都内まで訪れたはずの千歳から、突然の呼び出しを受けたのだ。
ーーー 正確には、怜の所へ向かおうとしていた千歳を止め、代わりに彼の元を訪れたのだが。
青学でマネージャーを務めている怜が疑問を持つのも当然だろう。
「もう済んだとよ」
「…?」
「怜に会いたかっただけたい」
「………は?」
全く悪びれる様子もなく、寧ろ満足げな笑みを見せながら答える千歳。
そんな彼に、怜は頭を抱える。
「そんなことで…?」
「俺んとっては大事ばい」
会場でも顔を合わせるだろうに。
わざわざ大会の前に時間を取る必要がどこにあるのか。
千歳の行動が読めない怜には、疑問が浮かぶばかりである。
「好いとるけんね、怜んこつ」
唐突に落とされた言葉。
その意味を直ぐには認識できなかった怜だが、理解すると声を出すことも忘れ、隣の千歳を見上げる。
「冗談じゃなかよ」
怜と視線を合わせるために身を屈めた千歳は、
そのまま彼女の手に指を絡める。
「…っ、千、里…」
「怜を俺んもんにしたかって、思っとる」
いつもと同じ穏やかな瞳ではあるが、その奥にはいつもと違う熱が見える。
真っ直ぐに向けられる熱と、自身の手に触れる温もり。
怜はその熱さから逃れるように俯き、視線を逸らす。
だが、千歳はそのまま絡めた指に先程よりも力を込めてくる。
逃げるのは許さない、とでも言うように。
「…俺にこげんされんのは、嫌とね?」
その手に触れてから怯えるかのように身を固くしている怜へ、千歳は静かに尋ねる。
「………嫌、では…ない、けど……」
そこで口をつぐんだ怜だが、ゆっくりと顔を上げ、千歳と視線を合わせる。
「………大会が、終わるまで…待って欲しい」
ーー ちゃんと、考えるから。
そう続けながら、怜は繋がれた千歳の手をそっと握り返す。
いつも静かに全てを映している瞳。その奥に見える小さな…しかし、揺らがない光。
そんな彼女に千歳は目を見開くが、直ぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「俺は、いつまでも待つけん。ゆたっと考えたらよか」
ーーー ばってん、誰にも譲る気は無かよ
耳元へ口を寄せて続けられた千歳の言葉に、今度は怜が目を見開く。
同時に、彼女の白い頬や口を寄せていた耳にじんわりと赤みが差していく。
それに気付いた千歳は、満足そうに笑みをこぼした。
End.