立海
夢小説設定
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「落ち着け」
ーーー では、よろしくお願いします
ぼんやりとした頭の中で、覚えのある声が聞こえた。
その声を追うように、ゆっくりと意識が浮上する。
(………どこ…)
目を開けて最初に浮かんだのは、そんな疑問。
私の最後の記憶では、駅に居たはず…。
それなのに、何故。
柔らかな布団に包まれているんだろう。
覚醒しきらない重い頭で考えていると、視界の端から見慣れた顔。
「目が覚めたか」
恋人の蓮二くんだ。
彼は私の顔を覗き込みながら、額や首元に手を当ててくる。
少しひんやりとした温もりが、心地良い。
「れ…、じ…く…?」
声が、上手く出ない。
それでも、蓮二くんの耳には届いたらしい。
「熱がある。まだ休んでいろ」
熱…? そういえば…、今朝は妙に怠かった気がする。
ここしばらくは忙し過ぎて…、ほとんど寝る為に帰っていたような状態だった。
でも、そろそろ目処が付きそうで。あと少しで……。
そこまで思考を巡らせていた所で、私はあることに気付く。
「っ…!し、ごと……っ!」
そうだ。
今朝も重い頭と体を何とか動かし、仕事へ向かっていた。
今は何時だ。急がないと…
ーーー ズキンッ
慌てて飛び起きたが、強い頭痛と目眩に襲われる。
「怜、落ち着け」
そんな私を、傍らにいた蓮二くんはそっと抱き寄せる。
「お前の職場には連絡済みだ。問題ない」
いつの間に…?
蓮二くんの手回しの良さには、毎度ながら感心する。
聞きたいことがあるものの、頭が重過ぎて… これ以上は……。
体を起こしているのも辛くて目の前の蓮二くんへ凭れると、優しく頭を撫でられる。
どことなく嬉しそうなのは何故かな…、蓮二くん。
「…さて。まずは、だが…
ここは、俺の家だ」
蓮二くんの家…。そういえば、見覚えがある。
蓮二くんと私は職場の最寄り駅が同じで。
私の乗り換え駅が蓮二くんの家の最寄り駅でもあり、時間が合う時は一緒に通勤していた。
近頃は蓮二くんのリモート勤務と私の繁忙期が重なってしまい、そんな時間も取れなくなっていたけれど。
「偶然、駅でお前を見付けてな。連れて来たのは、正解だったようだ」
出社予定だった蓮二くんも同じ時間、駅にいた。
声を掛けようとした所で私が倒れ込んだため、そのまま自分の家へ運んだらしい。
駅にいた、ということは。蓮二くんも、仕事が…
「俺のことは気にするな。リモートで、事は足りる」
私の言いたいことを、先回りして答えてくれる蓮二くん。
言いながら、彼に凭れている私の頬を指の背で撫でてくる。
……こうやって、猫を愛でるかのように扱われるのは、未だに慣れない。
「……さすがに、」
「…?」
「……肝が冷えた」
ゆるゆると視線を上げると、眉を下げた蓮二くんの顔。
いつも落ち着いている蓮二くんのそんな表情は、初めて見た。
「れん…じ、く… ごめ…」
「謝らなくて良い。お前が悪い訳ではないからな」
「でも…、「怜」
迷惑をかけた。
そう続けようとした私の口に、蓮二くんは指を当てる。
「お前を連れて来たのは、俺の身勝手だ。だから、迷惑などと言わないでくれ」
どこまでも優しい蓮二くん。
そんな彼に、私は何も返せない。
だから…
「れんじ、くん… ありが、とう…」
ふっと優しく笑みをこぼし、蓮二くんは私と額を合わせる。
「さあ、もう休め。傍にいるから」
蓮二くんに支えられながらゆっくり体を横たえると、思った以上に限界だったようで。直ぐに、意識が遠くなって行く。
「お休み、怜」
優しく頭を撫でる蓮二くん。
その手の温もりにも促され、私はそのまま眠りに着いた。
数時間後、目を覚まして体調もいくらか落ち着いた私に
蓮二くんが同棲の提案をしてくるのは、また別の話。
End.