愛を穏やかに
貴女のお名前
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飽きたのか、それとも夏侯惇の凄みが効いたのか、彼が匙を運べば、赤ん坊は素直に粥を口に含んだ。
「良かった、今度は食べたわ」
「気紛れにも程があるだろう。戦場では使えんぞ」
「まあ、夏侯惇様。この子は未だ赤子ですよ。それに、夏侯淵様のご子息ですもの、きっと夏侯淵様にも負けない立派な将に育ちますわ」
「・・・なら良いがな」
それを想像して、夏侯惇は目元を緩める。
いつか、こいつと並んで戦場に立つ事になるのだろうか。
夏侯惇は赤ん坊の頭をぽんぽんと叩いて言った。
「だが、今は粥を食べ切る事が最優先の任務だ。分かったな」
「あぃっ!」
その夏侯惇と赤ん坊の遣り取りに、名無しさんはくすっと笑う。
私たちの間にも子どもが産まれたら、こんな感じになるのかしら。
騒がしいようで、賑やかで楽しくて。
そう考えて、名無しさんは頬を染めた。
何とか任務を完了し、二人が交代で昼食を採っている間に、赤ん坊は夏侯惇の腕の中でうつらうつらと始める。
「眠いのか」
と、尋ねる夏侯惇の声は穏やかで、名無しさんはそっと箸を置いた。
「何か、掛けるものを・・・」
「いや、俺が行こう。名無しさんは飯を食っていろ。・・・ゆっくりで良い」
先に食事を済ませている夏侯惇は、そう言ってさっさと立ち上がり、赤ん坊を抱えたまま、席を外す。
名無しさんは夏侯惇に甘え、再び箸を取った。
暫くしてから、彼が自分の薄い上着を赤ん坊に掛けて戻って来る。
「すっかり寝てしまったぞ」
安心したように、自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる小さな存在に、夏侯惇の表情は和らいでいた。
「縁側の方が気持ち良いだろう。名無しさんも飯が終わったら来い。片付けは後で二人でやれば早いだろう」
「はい」
名無しさんは頷き、のんびりと汁物を啜る。
昼食を済ませた名無しさんが縁側に行くと、腰掛けた夏侯惇が小さく体を揺らしていた。
そこに先々への幸せを覚え、名無しさんは彼の隣にそっと腰を下ろす。
「可愛いですね」
「・・・そうだな」
赤ん坊は夏侯惇の上着を、その小さな手でぎゅっと握っていた。
騒動が嘘のような静けさ、二人は寄り添いながら、確かにその一時を楽しんでいた。
緩やかに吹いた風が、三人を包む。
その風が冷たくなる頃に夏侯淵が顔を出した。
「いやぁ、助かったぜ。惇兄、名無しさん、ありがとな!」
「もう大丈夫なのですか?」
と、赤ん坊を夏侯淵に渡しながら尋ねる名無しさんの声音には寂しさが滲んでいる。
夏侯惇がそれを察したように口を開いた。
「淵、何ならもう一日位、預かってやっても構わんぞ」
めっ、と言う名無しさんが可愛いかったからな、とは流石に言わなかったが。
「いやいやいや、もう十分だって」
否定して軽く手を振る夏侯淵に、名無しさんがこっそりと肩を落としていた。
その細い肩を、夏侯惇は優しく抱き寄せる。
「そうか・・・まあ、また何かあればいつでも言え」
「おっ、流石惇兄!頼りになるぜ!」
「調子の良い・・・」
苦笑いと共に夏侯淵を送り出し、二人は何となく縁側に座った。
「騒がしい一日だったな」
「そうですね・・・」
名無しさんは答えながら、遠くを見る。
騒がしかった、けれどとても楽しくて幸せだった。
そっと下腹を撫で、名無しさんは隣の夏侯惇を見上げる。
こんな事を言ったら、はしたないと思われるかしら。
でも・・・と、膝の上に置いた手をぎゅっと握った。
「あの・・・夏侯惇様」
「どうした」
彼女に呼ばれて顔を向ける夏侯惇の表情は穏やかだ。
それ故に、名無しさんは頬を染め、思い切ったように口を開く。
「子ども・・・作りませんか?」
それを聞いた途端、夏侯惇の体が強張った。
一瞬、何を言われたのか分からず、いや、分かっていたのだ。
ただ、いつも自分の方から誘い掛けていれば、これまでに彼女から誘われた事は一度もなく、正直、少し混乱していた。
しかし、嬉しくない筈はなく、夏侯惇は緩みそうになる口元を手で覆う。
「名無しさん・・・それは、その・・・」
「嫌、ですか?」
と、上目遣いに聞いて来る彼女は卑怯な程に可愛く見えて、
「嫌な訳がないだろう!」
夏侯惇は即座に否定して僅かに視線を逸らし、咳払いを一つ落とした。
名無しさんの膝の上に置かれた手にそろりと触れ、一呼吸置いてから言う。
「俺はお前を愛している。・・・俺も、名無しさんとの子が欲しい」
「・・・はい」
名無しさんは恥ずかしそうに微笑んで、小さく言葉を溢した。
「私も・・・です」
夏侯惇の手に力が籠り、彼が身を寄せて来る気配に名無しさんはそっと目を閉じる。
軽く触れるだけの口付け、二人は「愛を穏やかに」交わし合った。
→あとがき
「良かった、今度は食べたわ」
「気紛れにも程があるだろう。戦場では使えんぞ」
「まあ、夏侯惇様。この子は未だ赤子ですよ。それに、夏侯淵様のご子息ですもの、きっと夏侯淵様にも負けない立派な将に育ちますわ」
「・・・なら良いがな」
それを想像して、夏侯惇は目元を緩める。
いつか、こいつと並んで戦場に立つ事になるのだろうか。
夏侯惇は赤ん坊の頭をぽんぽんと叩いて言った。
「だが、今は粥を食べ切る事が最優先の任務だ。分かったな」
「あぃっ!」
その夏侯惇と赤ん坊の遣り取りに、名無しさんはくすっと笑う。
私たちの間にも子どもが産まれたら、こんな感じになるのかしら。
騒がしいようで、賑やかで楽しくて。
そう考えて、名無しさんは頬を染めた。
何とか任務を完了し、二人が交代で昼食を採っている間に、赤ん坊は夏侯惇の腕の中でうつらうつらと始める。
「眠いのか」
と、尋ねる夏侯惇の声は穏やかで、名無しさんはそっと箸を置いた。
「何か、掛けるものを・・・」
「いや、俺が行こう。名無しさんは飯を食っていろ。・・・ゆっくりで良い」
先に食事を済ませている夏侯惇は、そう言ってさっさと立ち上がり、赤ん坊を抱えたまま、席を外す。
名無しさんは夏侯惇に甘え、再び箸を取った。
暫くしてから、彼が自分の薄い上着を赤ん坊に掛けて戻って来る。
「すっかり寝てしまったぞ」
安心したように、自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる小さな存在に、夏侯惇の表情は和らいでいた。
「縁側の方が気持ち良いだろう。名無しさんも飯が終わったら来い。片付けは後で二人でやれば早いだろう」
「はい」
名無しさんは頷き、のんびりと汁物を啜る。
昼食を済ませた名無しさんが縁側に行くと、腰掛けた夏侯惇が小さく体を揺らしていた。
そこに先々への幸せを覚え、名無しさんは彼の隣にそっと腰を下ろす。
「可愛いですね」
「・・・そうだな」
赤ん坊は夏侯惇の上着を、その小さな手でぎゅっと握っていた。
騒動が嘘のような静けさ、二人は寄り添いながら、確かにその一時を楽しんでいた。
緩やかに吹いた風が、三人を包む。
その風が冷たくなる頃に夏侯淵が顔を出した。
「いやぁ、助かったぜ。惇兄、名無しさん、ありがとな!」
「もう大丈夫なのですか?」
と、赤ん坊を夏侯淵に渡しながら尋ねる名無しさんの声音には寂しさが滲んでいる。
夏侯惇がそれを察したように口を開いた。
「淵、何ならもう一日位、預かってやっても構わんぞ」
めっ、と言う名無しさんが可愛いかったからな、とは流石に言わなかったが。
「いやいやいや、もう十分だって」
否定して軽く手を振る夏侯淵に、名無しさんがこっそりと肩を落としていた。
その細い肩を、夏侯惇は優しく抱き寄せる。
「そうか・・・まあ、また何かあればいつでも言え」
「おっ、流石惇兄!頼りになるぜ!」
「調子の良い・・・」
苦笑いと共に夏侯淵を送り出し、二人は何となく縁側に座った。
「騒がしい一日だったな」
「そうですね・・・」
名無しさんは答えながら、遠くを見る。
騒がしかった、けれどとても楽しくて幸せだった。
そっと下腹を撫で、名無しさんは隣の夏侯惇を見上げる。
こんな事を言ったら、はしたないと思われるかしら。
でも・・・と、膝の上に置いた手をぎゅっと握った。
「あの・・・夏侯惇様」
「どうした」
彼女に呼ばれて顔を向ける夏侯惇の表情は穏やかだ。
それ故に、名無しさんは頬を染め、思い切ったように口を開く。
「子ども・・・作りませんか?」
それを聞いた途端、夏侯惇の体が強張った。
一瞬、何を言われたのか分からず、いや、分かっていたのだ。
ただ、いつも自分の方から誘い掛けていれば、これまでに彼女から誘われた事は一度もなく、正直、少し混乱していた。
しかし、嬉しくない筈はなく、夏侯惇は緩みそうになる口元を手で覆う。
「名無しさん・・・それは、その・・・」
「嫌、ですか?」
と、上目遣いに聞いて来る彼女は卑怯な程に可愛く見えて、
「嫌な訳がないだろう!」
夏侯惇は即座に否定して僅かに視線を逸らし、咳払いを一つ落とした。
名無しさんの膝の上に置かれた手にそろりと触れ、一呼吸置いてから言う。
「俺はお前を愛している。・・・俺も、名無しさんとの子が欲しい」
「・・・はい」
名無しさんは恥ずかしそうに微笑んで、小さく言葉を溢した。
「私も・・・です」
夏侯惇の手に力が籠り、彼が身を寄せて来る気配に名無しさんはそっと目を閉じる。
軽く触れるだけの口付け、二人は「愛を穏やかに」交わし合った。
→あとがき