誠実な不誠実
貴女のお名前
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不可抗力。
そう、これは不可抗力だ。
名無しさんが扉の仕掛を作動させてしまった。
開ける為の鍵が窓の外、何処かへ飛んで行ってしまった。
しかも、窓の仕掛まで作動してしまった。
全部、全部、不可抗力だ。
「朝まで二人きりだ」
ぽつりと溢れた満寵の呟きに、名無しさんはびくりと肩を揺らした。
「満寵、様・・・?」
腰を下ろしたままの体勢で、無意識に後ろに下がる。
彼の表情は穏やかなのに、その目の奥が笑ってないのが怖かった。
満寵は壁際に追い込むように名無しさんに迫る。
「そんなに逃げなくても良いじゃないか。傷付くなあ」
「なら、少し離れて下さい・・・」
「私が折角の好機を見逃すと思うかい?」
壁にぺたりと背中を付けた彼女を、閉じ込めるように腕を伸ばした。
「愛してるよ、名無しさん」
囁くように言って顔を近付け、名無しさんの唇にゆっくりと唇を重ねる。
短く触れ、軽い音を立てて離すと、彼女の染まった頬が目に映った。
「・・・ははっ、真っ赤だ」
心底嬉しそうな声に、名無しさんは言葉を失う。
「どうせ朝まで出られないんだ。丁度、長椅子も空いている・・・どうだい?」
その言葉は確かに質問だったが、名無しさんに逃げ場は用意されてなかった。
二人の男が、廊下を歩きながら言葉を交わしていた。
楽進と李典である。
「満寵殿が朝飯に来ないからって、別に俺たちが迎えに行く必要はないだろ」
「いえ、もし朝食に来ないようであれば閉じ込められている可能性があるからと言われておりますので!」
そう言って、楽進が李典に持っていた鍵を見せた。
李典はがりがりと頭を掻くと、溜め息を吐いて言う。
「真面目過ぎるだろ、楽進。って言うか、自分の部屋に閉じ込められるってどんな状況だよ。・・・全く、あの人は何処まで迷惑を掛ければ気が済むんだ」
満寵の部屋に着くと、矢張りと言うべきか、錠が下りていた。
楽進が鍵を使って扉を開ける。
「おはようございます、満寵殿・・・」
「満寵殿、朝飯・・・」
二人は目に飛び込んで来た光景に、続ける言葉を失った。
「やあ、おはよう。楽進殿、李典殿」
何やらすっきりとした様子の満寵が薄い中衣姿で長椅子に座っていた、それは良い。
その満寵の膝に頭を預けるように眠っている名無しさんも、二人は恋人同士なのだから、まあ、別に良い。
問題は彼女の姿だ。
満寵の上着を体に緩く掛けているだけで、丸い肩が覗いていた。
長椅子の上に乗せた白い足はすらりとして艶かしい。
何があったかは、一目瞭然だった。
楽進は忽ち、顔を真っ赤にさせると慌てて背中を向けた。
「も、申し訳ございませんっっ!」
李典は呆れたように息を吐く。
「満寵殿、あんた何して・・・いや、聞きたい訳じゃないから、何も言わないでくれ」
満寵自身も、何があったかを語るつもりはなかった。
昨日の夜、自分の中に居る名無しさんがどれだけ可愛かったかなんて、言葉では表し尽くせないし、他の男に知られるのも嫌だ。
ただ、最低限、礼は言っておこうと口を開く。
「助かったよ、楽進殿。矢張り、鍵を預けておいて正解だった」
「い、いえっ!恐縮ですっ!!」
背中を向けたまま、直立不動の楽進が扉に向かって頭を下げた。
「ははっ、楽進殿。そちらは扉だよ」
「で、ですが、私には刺激が強過ぎて・・・。済みません!鍵は開けましたので、これで失礼します!」
そう言って、楽進が脱兎の如く駆けて行ってしまう。
残された李典は、肩を落として満寵を見た。
「・・・あんた、本当に大概だな」
「何がだい?」
「内側から扉が開かないなんて事はないからな、普通は。どうせ細工でもしてたんだろ」
李典の的を得た言葉に、満寵はくすりと笑みを溢す。
「確かに細工はしてたけれど、それは問題なく作動するか確認する為だよ。確認もしないまま、運用はできないからね。誤解のないように言っておくけれど、作動させたのは名無しさんだ。何もかも不可抗力の内さ」
満寵は悪びれもせずに言う。
問題なく作動するか確認するのは当たり前だ。
それを確認もしないまま運用はできないのも、当たり前だ。
それはそうだろうと納得はできるが、何も彼女が居る時に試さなくても良いのではないか。
楽進しか鍵を持ってないなんて事も、先ずあり得ない。
恐らく、不可抗力なんてのは都合の良い言い訳だ。
「全く、あんたって人は・・・。恋人に位は誠実でいろよ、名無しさんが可哀想だろ」
言うだけ言って部屋を出て言った李典に、満寵は届かないと分かっていて呟く。
「心外だなあ、私はいつだって名無しさんにだけは誠実なつもりだよ」
満寵はそう言って、眠る名無しさんの髪をそっと撫でながら、可笑しそうに笑った。
誠実でいるつもりが、人には不誠実に見える、か。
「誠実な不誠実」・・・うん、それも悪くない響きだ。
→あとがき
そう、これは不可抗力だ。
名無しさんが扉の仕掛を作動させてしまった。
開ける為の鍵が窓の外、何処かへ飛んで行ってしまった。
しかも、窓の仕掛まで作動してしまった。
全部、全部、不可抗力だ。
「朝まで二人きりだ」
ぽつりと溢れた満寵の呟きに、名無しさんはびくりと肩を揺らした。
「満寵、様・・・?」
腰を下ろしたままの体勢で、無意識に後ろに下がる。
彼の表情は穏やかなのに、その目の奥が笑ってないのが怖かった。
満寵は壁際に追い込むように名無しさんに迫る。
「そんなに逃げなくても良いじゃないか。傷付くなあ」
「なら、少し離れて下さい・・・」
「私が折角の好機を見逃すと思うかい?」
壁にぺたりと背中を付けた彼女を、閉じ込めるように腕を伸ばした。
「愛してるよ、名無しさん」
囁くように言って顔を近付け、名無しさんの唇にゆっくりと唇を重ねる。
短く触れ、軽い音を立てて離すと、彼女の染まった頬が目に映った。
「・・・ははっ、真っ赤だ」
心底嬉しそうな声に、名無しさんは言葉を失う。
「どうせ朝まで出られないんだ。丁度、長椅子も空いている・・・どうだい?」
その言葉は確かに質問だったが、名無しさんに逃げ場は用意されてなかった。
二人の男が、廊下を歩きながら言葉を交わしていた。
楽進と李典である。
「満寵殿が朝飯に来ないからって、別に俺たちが迎えに行く必要はないだろ」
「いえ、もし朝食に来ないようであれば閉じ込められている可能性があるからと言われておりますので!」
そう言って、楽進が李典に持っていた鍵を見せた。
李典はがりがりと頭を掻くと、溜め息を吐いて言う。
「真面目過ぎるだろ、楽進。って言うか、自分の部屋に閉じ込められるってどんな状況だよ。・・・全く、あの人は何処まで迷惑を掛ければ気が済むんだ」
満寵の部屋に着くと、矢張りと言うべきか、錠が下りていた。
楽進が鍵を使って扉を開ける。
「おはようございます、満寵殿・・・」
「満寵殿、朝飯・・・」
二人は目に飛び込んで来た光景に、続ける言葉を失った。
「やあ、おはよう。楽進殿、李典殿」
何やらすっきりとした様子の満寵が薄い中衣姿で長椅子に座っていた、それは良い。
その満寵の膝に頭を預けるように眠っている名無しさんも、二人は恋人同士なのだから、まあ、別に良い。
問題は彼女の姿だ。
満寵の上着を体に緩く掛けているだけで、丸い肩が覗いていた。
長椅子の上に乗せた白い足はすらりとして艶かしい。
何があったかは、一目瞭然だった。
楽進は忽ち、顔を真っ赤にさせると慌てて背中を向けた。
「も、申し訳ございませんっっ!」
李典は呆れたように息を吐く。
「満寵殿、あんた何して・・・いや、聞きたい訳じゃないから、何も言わないでくれ」
満寵自身も、何があったかを語るつもりはなかった。
昨日の夜、自分の中に居る名無しさんがどれだけ可愛かったかなんて、言葉では表し尽くせないし、他の男に知られるのも嫌だ。
ただ、最低限、礼は言っておこうと口を開く。
「助かったよ、楽進殿。矢張り、鍵を預けておいて正解だった」
「い、いえっ!恐縮ですっ!!」
背中を向けたまま、直立不動の楽進が扉に向かって頭を下げた。
「ははっ、楽進殿。そちらは扉だよ」
「で、ですが、私には刺激が強過ぎて・・・。済みません!鍵は開けましたので、これで失礼します!」
そう言って、楽進が脱兎の如く駆けて行ってしまう。
残された李典は、肩を落として満寵を見た。
「・・・あんた、本当に大概だな」
「何がだい?」
「内側から扉が開かないなんて事はないからな、普通は。どうせ細工でもしてたんだろ」
李典の的を得た言葉に、満寵はくすりと笑みを溢す。
「確かに細工はしてたけれど、それは問題なく作動するか確認する為だよ。確認もしないまま、運用はできないからね。誤解のないように言っておくけれど、作動させたのは名無しさんだ。何もかも不可抗力の内さ」
満寵は悪びれもせずに言う。
問題なく作動するか確認するのは当たり前だ。
それを確認もしないまま運用はできないのも、当たり前だ。
それはそうだろうと納得はできるが、何も彼女が居る時に試さなくても良いのではないか。
楽進しか鍵を持ってないなんて事も、先ずあり得ない。
恐らく、不可抗力なんてのは都合の良い言い訳だ。
「全く、あんたって人は・・・。恋人に位は誠実でいろよ、名無しさんが可哀想だろ」
言うだけ言って部屋を出て言った李典に、満寵は届かないと分かっていて呟く。
「心外だなあ、私はいつだって名無しさんにだけは誠実なつもりだよ」
満寵はそう言って、眠る名無しさんの髪をそっと撫でながら、可笑しそうに笑った。
誠実でいるつもりが、人には不誠実に見える、か。
「誠実な不誠実」・・・うん、それも悪くない響きだ。
→あとがき