理性と感情がひどく対立し
貴女のお名前
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宴の喧騒が遠ざかる。
外を吹き抜ける夜風は冷たく、 熱を帯びた頬に心地良い。
名無しさんは両手で皿を抱えながら、 孫堅の部屋へと向かった。
部屋の前まで来た彼女は、一度だけ足を止める。
明かりが灯っていなかった。
「孫堅様?」
扉の外から控えめに声を掛ける。
返事がない、眠ってしまったのだろうか。
そう思いながら、名無しさんはそっと扉に手を掛けた。
微かに軋む音を立てて部屋の中に入る。
「孫堅様?いらっしゃいますか?」
もう一度、声を掛けた。
「・・・名無しさんか」
部屋の奥、寝室の方から孫堅の声が聞こえ、名無しさんは迷いなくそちらへと足を運んだ。
「孫堅様」
と、名無しさんは声を掛けようとして、彼の様子に言葉を飲み込む。
寝台の縁に腰掛けた孫堅は、酷く憔悴しているように見えた。
「孫堅様、大丈夫ですか?」
名無しさんは慌てて皿を床几に置くと、彼の隣に腰掛ける。
「いや・・・ああ、何ともない。少し酔っただけだ」
「でも・・・っ」
そんな風には見えない、名無しさんは孫堅の脈を取ろうと手を伸ばした。
「っ・・・触れるな!」
しかし、孫堅の鋭い声に遮られ、手を強く振り払われる。
名無しさんの瞳が、大きく見開かれた。
その驚いた表情に、しまったと、孫堅は臍を噛む。
「名無しさん」
「すみません・・・私・・・っ」
孫堅が何かを言うよりも早く、名無しさんが謝罪を口にした。
振り払われた手が痛むのか、胸の前で抱えるように重ねている。
違う、震えているのだ、孫堅はそれを見て取ると、
「いや、済まん。そんなつもりではなかったのだ。ただ・・・」
何か言い訳をしようとして、黙り込んだ。
孫堅はそのまま、彼女から視線を逸らす。
それは名無しさんを拒絶する為ではなく、今の自分を見せない為の動きだった。
部屋の中に、二人の呼吸音だけが落ちる。
やがて孫堅が、静かに口を開いた。
「・・・済まんが、一人にしてくれ」
その声は、先程の鋭さとは異なっている。
名無しさんはそっと立ち上がった。
「・・・食べられそうでしたら、召し上がって下さい。お酒だけでは、体に悪いですから」
「ああ・・・」
短く頷く孫堅に一礼して、名無しさんは部屋を出て行く。
再び、一人になった部屋で、孫堅は深々と息を吐いた。
何と無様な真似をしてしまったのか。
しかし、ああする他なかったのだ。
ああしなければ、無防備に触れて来る名無しさんに爪を立てる所だったのだ。
名無しさんを守り、育て、幸せにすると俺はあいつに誓った、それに背く所だったのだ。
そうであるにも関わらず、俺は名無しさんを一人の女として見ている。
孫堅はそこで初めて、それを認めた。
だから、「理性と感情がひどく対立し」、こんなにも苦しいのだ。
戦場で、孫策の腕の中に居た名無しさん。
天幕で、黄蓋たちに抱き着く名無しさん。
宴で、お父様と呼ぶ名無しさん。
孫堅は彼女が持って来た皿を見た。
載せられた料理から、父親を心配する娘の気遣いが分かる。
「俺は、どうしたら良い・・・」
その呟きに、答える者は居ない。
→あとがき
外を吹き抜ける夜風は冷たく、 熱を帯びた頬に心地良い。
名無しさんは両手で皿を抱えながら、 孫堅の部屋へと向かった。
部屋の前まで来た彼女は、一度だけ足を止める。
明かりが灯っていなかった。
「孫堅様?」
扉の外から控えめに声を掛ける。
返事がない、眠ってしまったのだろうか。
そう思いながら、名無しさんはそっと扉に手を掛けた。
微かに軋む音を立てて部屋の中に入る。
「孫堅様?いらっしゃいますか?」
もう一度、声を掛けた。
「・・・名無しさんか」
部屋の奥、寝室の方から孫堅の声が聞こえ、名無しさんは迷いなくそちらへと足を運んだ。
「孫堅様」
と、名無しさんは声を掛けようとして、彼の様子に言葉を飲み込む。
寝台の縁に腰掛けた孫堅は、酷く憔悴しているように見えた。
「孫堅様、大丈夫ですか?」
名無しさんは慌てて皿を床几に置くと、彼の隣に腰掛ける。
「いや・・・ああ、何ともない。少し酔っただけだ」
「でも・・・っ」
そんな風には見えない、名無しさんは孫堅の脈を取ろうと手を伸ばした。
「っ・・・触れるな!」
しかし、孫堅の鋭い声に遮られ、手を強く振り払われる。
名無しさんの瞳が、大きく見開かれた。
その驚いた表情に、しまったと、孫堅は臍を噛む。
「名無しさん」
「すみません・・・私・・・っ」
孫堅が何かを言うよりも早く、名無しさんが謝罪を口にした。
振り払われた手が痛むのか、胸の前で抱えるように重ねている。
違う、震えているのだ、孫堅はそれを見て取ると、
「いや、済まん。そんなつもりではなかったのだ。ただ・・・」
何か言い訳をしようとして、黙り込んだ。
孫堅はそのまま、彼女から視線を逸らす。
それは名無しさんを拒絶する為ではなく、今の自分を見せない為の動きだった。
部屋の中に、二人の呼吸音だけが落ちる。
やがて孫堅が、静かに口を開いた。
「・・・済まんが、一人にしてくれ」
その声は、先程の鋭さとは異なっている。
名無しさんはそっと立ち上がった。
「・・・食べられそうでしたら、召し上がって下さい。お酒だけでは、体に悪いですから」
「ああ・・・」
短く頷く孫堅に一礼して、名無しさんは部屋を出て行く。
再び、一人になった部屋で、孫堅は深々と息を吐いた。
何と無様な真似をしてしまったのか。
しかし、ああする他なかったのだ。
ああしなければ、無防備に触れて来る名無しさんに爪を立てる所だったのだ。
名無しさんを守り、育て、幸せにすると俺はあいつに誓った、それに背く所だったのだ。
そうであるにも関わらず、俺は名無しさんを一人の女として見ている。
孫堅はそこで初めて、それを認めた。
だから、「理性と感情がひどく対立し」、こんなにも苦しいのだ。
戦場で、孫策の腕の中に居た名無しさん。
天幕で、黄蓋たちに抱き着く名無しさん。
宴で、お父様と呼ぶ名無しさん。
孫堅は彼女が持って来た皿を見た。
載せられた料理から、父親を心配する娘の気遣いが分かる。
「俺は、どうしたら良い・・・」
その呟きに、答える者は居ない。
→あとがき