理性と感情がひどく対立し
貴女のお名前
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戦の気配は既に遠く、後方の老営で労いの為の宴が開かれた。
用意された料理が、酒が人の間を巡り、笑い声が飛び交う。
同様に名無しさんもあちらこちらを巡って、いや、巡らされていた。
「名無しさん、こっちいらっしゃいよ。これ、美味しいわよ」
と、孫尚香が呼べばそちらに、
「名無しさんよ、酒の追加を貰えるか」
と、程普が言えば、新たな酒を持ってそちらに向かう。
そして何故か、今は酔っ払った黄蓋の膝の上に腰を下ろしていた。
「ほれ、名無しさん。これ食うか?美味いぞ」
韓当に横から差し出された串焼きを、名無しさんは素直に受け取る。
「ありがとうございます、韓当様」
にこっと笑った彼女に、韓当の頬が緩んだ。
それを黄蓋が誂う。
「何じゃ韓当。だらしない顔をしおってからに」
「いやあ、だって可愛いじゃないか。・・・でも、いつかは嫁に行っちまうんだよなあ。寂しくなるなあ」
それを聞いて、名無しさんはくすくすと笑って言った。
「韓当様ったら。気が早いんですから」
「いやあ、早くなんてないぞ。ついこないだまで、こんなだったんだぞ」
こんな、の所で韓当は親指と人差し指で大きさを示して見せる。
「まあ・・・!そんなに小さくありません」
「いやいや、お主はあやつの娘とは思えん位に小さかったぞ」
「黄蓋!」
と、程普が声を上げたが間に合わない。
何気ない黄蓋の一言に、ぴりと空気が凍り付いた。
黄蓋の言う、あやつ、とは名無しさんの父親の事だ。
孫堅の友人で、当然、黄蓋、韓当、程普とも顔馴染みであった。
子細は知らないが、妻も既に亡く、男手一つで名無しさんを育てて来た彼が、戦場に倒れたのは未だ彼女が幼い頃だ。
幼い娘を独り遺して行く事、どれだけ無念であった事だろうか。
友人の孫堅は彼女を当然のように引き取り、以来、こうしてここに居る。
不自由はないが、不幸でないとは言い切れないだろう。
つい溢れてしまったとは言え、彼女の胸の内も知らずに、と黄蓋はしんみりとした。
「済まんのう、名無しさん。辛い事を思い出させた」
名無しさんはふるふると首を振る。
「辛くなんてありません。私には・・・お父様みたいな人が沢山居るんですもの」
黄蓋様も、韓当様も、程普様も、私のお父様。
そう言って微笑んだ名無しさんに、老兵の涙腺が緩むのも当然で、
「おぉぉ・・・名無しさん・・・」
「おい、黄蓋。大の男が泣くでないわ。・・・みっともない」
「そう言う程普も鼻を啜っておるではないか」
「ふん・・・少し冷えただけよ」
「皆、泣上戸だなあ」
「韓当よ、我輩は泣いておらぬ」
ずっ、と鼻を啜る音が辺りに響いた。
和やかな雰囲気の中、 名無しさんもまた楽しそうに笑っている。
その遣り取りを、少し離れた席から孫堅が眺めていた。
お父様・・・か。
先程、聞こえて来た彼女の言葉が、 妙に耳に残っている。
俺も、その内の一人なのだろう。
恐らく、少し前の自分ならば、名無しさんが見せた笑顔に、放った言葉に、素直に喜んでいた。
独りになった彼女を守り、育て、幸せにすると、今は亡き友に誓ったのだから。
孫堅は酒の入った杯を見下ろす。
水面が僅かに揺れていた。
その揺らぎを認める訳にはいかず、孫堅は一息に酒を飲み干した。
そうして、椅子から立ち上がる。
「親父?どうしたんだ?」
と、声を掛けて来る孫策に、何でもないと首を振って言った。
「いや・・・少し、酔いが回ってな。戦で派手に暴れ過ぎたようだ。策、済まんが後は任せる」
「おう、分かったぜ」
孫策は深く考えずに受け取ると、隣の孫権に酒を勧める。
孫堅は静かに席を後にした。
宴も酣、それに気付く者は居ない、ただ、名無しさんを除いては。
名無しさんは孫堅の姿が見えない事に気付くと、黄蓋の膝からぴょんと下りて孫策に近付いて言った。
「孫策様、孫堅様は?」
「うん?親父なら酔ったっつって部屋に戻ったぜ」
それを聞いて、何故か名無しさんは一つの皿に料理を集め始める。
それも、あっさりしたものばかりを選んでいた。
「名無しさん、何をしている」
孫権の素朴な問いに、彼女は答えて言う。
「孫堅様、お酒ばかりで余り召し上がっていなかったから。何か食べておかないと・・・」
「あら、名無しさんってば、よく見てるわね」
名無しさんは料理を盛った皿を両手で大事そうに持つと、三人に向かってぺこりと頭を下げた。
「それでは、ちょっと届けて来ますね」
「ええ、父様の事、宜しくね」
用意された料理が、酒が人の間を巡り、笑い声が飛び交う。
同様に名無しさんもあちらこちらを巡って、いや、巡らされていた。
「名無しさん、こっちいらっしゃいよ。これ、美味しいわよ」
と、孫尚香が呼べばそちらに、
「名無しさんよ、酒の追加を貰えるか」
と、程普が言えば、新たな酒を持ってそちらに向かう。
そして何故か、今は酔っ払った黄蓋の膝の上に腰を下ろしていた。
「ほれ、名無しさん。これ食うか?美味いぞ」
韓当に横から差し出された串焼きを、名無しさんは素直に受け取る。
「ありがとうございます、韓当様」
にこっと笑った彼女に、韓当の頬が緩んだ。
それを黄蓋が誂う。
「何じゃ韓当。だらしない顔をしおってからに」
「いやあ、だって可愛いじゃないか。・・・でも、いつかは嫁に行っちまうんだよなあ。寂しくなるなあ」
それを聞いて、名無しさんはくすくすと笑って言った。
「韓当様ったら。気が早いんですから」
「いやあ、早くなんてないぞ。ついこないだまで、こんなだったんだぞ」
こんな、の所で韓当は親指と人差し指で大きさを示して見せる。
「まあ・・・!そんなに小さくありません」
「いやいや、お主はあやつの娘とは思えん位に小さかったぞ」
「黄蓋!」
と、程普が声を上げたが間に合わない。
何気ない黄蓋の一言に、ぴりと空気が凍り付いた。
黄蓋の言う、あやつ、とは名無しさんの父親の事だ。
孫堅の友人で、当然、黄蓋、韓当、程普とも顔馴染みであった。
子細は知らないが、妻も既に亡く、男手一つで名無しさんを育てて来た彼が、戦場に倒れたのは未だ彼女が幼い頃だ。
幼い娘を独り遺して行く事、どれだけ無念であった事だろうか。
友人の孫堅は彼女を当然のように引き取り、以来、こうしてここに居る。
不自由はないが、不幸でないとは言い切れないだろう。
つい溢れてしまったとは言え、彼女の胸の内も知らずに、と黄蓋はしんみりとした。
「済まんのう、名無しさん。辛い事を思い出させた」
名無しさんはふるふると首を振る。
「辛くなんてありません。私には・・・お父様みたいな人が沢山居るんですもの」
黄蓋様も、韓当様も、程普様も、私のお父様。
そう言って微笑んだ名無しさんに、老兵の涙腺が緩むのも当然で、
「おぉぉ・・・名無しさん・・・」
「おい、黄蓋。大の男が泣くでないわ。・・・みっともない」
「そう言う程普も鼻を啜っておるではないか」
「ふん・・・少し冷えただけよ」
「皆、泣上戸だなあ」
「韓当よ、我輩は泣いておらぬ」
ずっ、と鼻を啜る音が辺りに響いた。
和やかな雰囲気の中、 名無しさんもまた楽しそうに笑っている。
その遣り取りを、少し離れた席から孫堅が眺めていた。
お父様・・・か。
先程、聞こえて来た彼女の言葉が、 妙に耳に残っている。
俺も、その内の一人なのだろう。
恐らく、少し前の自分ならば、名無しさんが見せた笑顔に、放った言葉に、素直に喜んでいた。
独りになった彼女を守り、育て、幸せにすると、今は亡き友に誓ったのだから。
孫堅は酒の入った杯を見下ろす。
水面が僅かに揺れていた。
その揺らぎを認める訳にはいかず、孫堅は一息に酒を飲み干した。
そうして、椅子から立ち上がる。
「親父?どうしたんだ?」
と、声を掛けて来る孫策に、何でもないと首を振って言った。
「いや・・・少し、酔いが回ってな。戦で派手に暴れ過ぎたようだ。策、済まんが後は任せる」
「おう、分かったぜ」
孫策は深く考えずに受け取ると、隣の孫権に酒を勧める。
孫堅は静かに席を後にした。
宴も酣、それに気付く者は居ない、ただ、名無しさんを除いては。
名無しさんは孫堅の姿が見えない事に気付くと、黄蓋の膝からぴょんと下りて孫策に近付いて言った。
「孫策様、孫堅様は?」
「うん?親父なら酔ったっつって部屋に戻ったぜ」
それを聞いて、何故か名無しさんは一つの皿に料理を集め始める。
それも、あっさりしたものばかりを選んでいた。
「名無しさん、何をしている」
孫権の素朴な問いに、彼女は答えて言う。
「孫堅様、お酒ばかりで余り召し上がっていなかったから。何か食べておかないと・・・」
「あら、名無しさんってば、よく見てるわね」
名無しさんは料理を盛った皿を両手で大事そうに持つと、三人に向かってぺこりと頭を下げた。
「それでは、ちょっと届けて来ますね」
「ええ、父様の事、宜しくね」