理性と感情がひどく対立し
貴女のお名前
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戦は少しずつ、収束に向かっていた。
本陣の天幕に連れて来られた名無しさんは、先に辿り着いていた兵の間を巡る。
「傷を見せて下さい」
本陣とは言え、戦場だ。
やる事は変わらない。
傷口に包帯を巻いて止血するが、やがて足りなくなって来る。
袖を、或いは裾を引き裂いて代用する彼女の耳に、声が届いた。
「名無しさん。届いたわよ」
何がと問うよりも先に、目の前に差し出された包帯に名無しさんは顔を上げる。
「尚香様!」
「駄目じゃない。女の子がそんな格好で・・・」
とは言うが、そこに嗜める色はない。
「補給部隊が合流したわ。さ、名無しさん、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ」
袖を捲る彼女の声は軽く、名無しさんはほっと息を吐いた。
補給部隊の兵も加わり、緊迫した空気が緩んでいく。
「尚香、名無しさん」
と、天幕の入口から孫権が顔を覗かせた。
「権兄様」
「孫権様」
丁度手当も終わった所、二人は立ち上がると、孫権の元へと歩み寄る。
妹と、妹のような名無しさんに孫権は安堵したように笑みを浮かべた。
「二人とも、無事だったか」
「当たり前でしょう?弓腰姫の二つ名は飾りじゃないわ」
「孫権様も、ご無事で。・・・あの、他の皆は?」
孫権は大丈夫だと、一つ頷く。
「心配ない。皆、無事だ。直ぐに帰って来るだろう」
「・・・良かった」
そう言っている間に、俄に外が騒がしくなった。
ばさりと開いた天幕が立てるよりも大きな声が響く。
「孫権殿!姫様!おう、名無しさんも無事か!」
「はあ・・・皆、帰って来れたんだなあ」
黄蓋が、続けて韓当が顔を出し、その後ろに程普が見えた。
「皆!お帰りなさい!」
と、迎える尚香に応えて、三人は武具の音を立てて天幕の中に入る。
黄蓋ががばりと名無しさんに抱き着いた。
「小さいのに、よく頑張ったのう」
「黄蓋様・・・苦しい」
「うん?・・・おお、済まん済まん」
豪快に笑い飛ばしながら、黄蓋は彼女を解放して続けて言う。
「じゃが、これをせんと帰って来た気がせんでのう」
「ふふっ、それもそうですね。じゃあ・・・えいっ!」
「ええっ!?俺かあ!?」
名無しさんは黄蓋から離れると、隣の韓当に自分から抱き着いた。
韓当は驚いたように細い目を開くが、黄蓋と同じく、これがないと帰って来た気がしない。
韓当との短い抱擁の後、名無しさんは静かに立っていた程普に腕を広げて見せた。
「程普様も」
「いや、我輩は・・・」
「とか言って。程普、その手は何?」
と、横から入って来た尚香の声に程普は、はっと気付く。
いつの間にか、名無しさんが腕の中に居た。
「いや、これは・・・」
狼狽える様子を見せる程普に、小さな笑い声が響く。
「名無しさん。そう言えば、私たちも未だだったわね。はい、ぎゅってしてあげる」
名無しさんは程普から離れると、尚香の広げた腕に入り込んだ。
抱き合う妹たちを、孫権の腕が包む。
すると、
「お、何だ。お前ら、もうやってんのか?」
と、一度この場を離れた孫策が顔を出し、三人の塊を確りと抱き締めた。
「ちょっと、策兄様。名無しさんが潰れちゃうわ」
「固ぇ事言うなよ、尚香」
「いえ、兄上・・・本当に潰れそうです」
「ふふっ・・・」
この苦しさが嬉しいと、名無しさんが笑う。
その様子を、孫堅が少し離れた所で見ていた。
いつもの光景だ。
互いに無事を確かめ合い、抱き合う、たったそれだけの行為。
これまでにも、戦の後には何度も目にして来た光景だった。
いや、そもそも、そうするようになったのは、孫堅が名無しさんにそうしたからだ。
初陣の頃、彼女は慣れぬ戦場にいつも震えていた。
それを落ち着かせようと、安心させようと、孫堅が始めたのが切っ掛けだった。
それから、それを見た孫策が、孫権が、孫尚香が名無しさんを抱き締めるようになった。
抱き締められると安心する、それを知った名無しさんは自分からも手を伸ばすようになり、いつしか外にまで広がって、皆でこうする事が当たり前になったのだ。
それが何故、こうも胸を騒がせるのか。
孫堅は天幕に背中を向ける。
しかし、立ち去るよりも早く、彼女の声が孫堅の足を止めた。
「孫堅様!」
屈託なく自分を呼ぶ声に孫堅は振り向く。
「お帰りなさい」
と、駆け寄って来た彼女は、躊躇いなく腕を広げた。
孫堅は一瞬、躊躇った末に、彼女を優しく抱き締める。
初めて、そうしたように。
いつも、そうして来たように。
腕の中で、名無しさんが甘えるように胸に頬を擦り寄せて来る。
孫堅は自分の胸に上がって来た感情に、気付かない振りをした。
本陣の天幕に連れて来られた名無しさんは、先に辿り着いていた兵の間を巡る。
「傷を見せて下さい」
本陣とは言え、戦場だ。
やる事は変わらない。
傷口に包帯を巻いて止血するが、やがて足りなくなって来る。
袖を、或いは裾を引き裂いて代用する彼女の耳に、声が届いた。
「名無しさん。届いたわよ」
何がと問うよりも先に、目の前に差し出された包帯に名無しさんは顔を上げる。
「尚香様!」
「駄目じゃない。女の子がそんな格好で・・・」
とは言うが、そこに嗜める色はない。
「補給部隊が合流したわ。さ、名無しさん、ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ」
袖を捲る彼女の声は軽く、名無しさんはほっと息を吐いた。
補給部隊の兵も加わり、緊迫した空気が緩んでいく。
「尚香、名無しさん」
と、天幕の入口から孫権が顔を覗かせた。
「権兄様」
「孫権様」
丁度手当も終わった所、二人は立ち上がると、孫権の元へと歩み寄る。
妹と、妹のような名無しさんに孫権は安堵したように笑みを浮かべた。
「二人とも、無事だったか」
「当たり前でしょう?弓腰姫の二つ名は飾りじゃないわ」
「孫権様も、ご無事で。・・・あの、他の皆は?」
孫権は大丈夫だと、一つ頷く。
「心配ない。皆、無事だ。直ぐに帰って来るだろう」
「・・・良かった」
そう言っている間に、俄に外が騒がしくなった。
ばさりと開いた天幕が立てるよりも大きな声が響く。
「孫権殿!姫様!おう、名無しさんも無事か!」
「はあ・・・皆、帰って来れたんだなあ」
黄蓋が、続けて韓当が顔を出し、その後ろに程普が見えた。
「皆!お帰りなさい!」
と、迎える尚香に応えて、三人は武具の音を立てて天幕の中に入る。
黄蓋ががばりと名無しさんに抱き着いた。
「小さいのに、よく頑張ったのう」
「黄蓋様・・・苦しい」
「うん?・・・おお、済まん済まん」
豪快に笑い飛ばしながら、黄蓋は彼女を解放して続けて言う。
「じゃが、これをせんと帰って来た気がせんでのう」
「ふふっ、それもそうですね。じゃあ・・・えいっ!」
「ええっ!?俺かあ!?」
名無しさんは黄蓋から離れると、隣の韓当に自分から抱き着いた。
韓当は驚いたように細い目を開くが、黄蓋と同じく、これがないと帰って来た気がしない。
韓当との短い抱擁の後、名無しさんは静かに立っていた程普に腕を広げて見せた。
「程普様も」
「いや、我輩は・・・」
「とか言って。程普、その手は何?」
と、横から入って来た尚香の声に程普は、はっと気付く。
いつの間にか、名無しさんが腕の中に居た。
「いや、これは・・・」
狼狽える様子を見せる程普に、小さな笑い声が響く。
「名無しさん。そう言えば、私たちも未だだったわね。はい、ぎゅってしてあげる」
名無しさんは程普から離れると、尚香の広げた腕に入り込んだ。
抱き合う妹たちを、孫権の腕が包む。
すると、
「お、何だ。お前ら、もうやってんのか?」
と、一度この場を離れた孫策が顔を出し、三人の塊を確りと抱き締めた。
「ちょっと、策兄様。名無しさんが潰れちゃうわ」
「固ぇ事言うなよ、尚香」
「いえ、兄上・・・本当に潰れそうです」
「ふふっ・・・」
この苦しさが嬉しいと、名無しさんが笑う。
その様子を、孫堅が少し離れた所で見ていた。
いつもの光景だ。
互いに無事を確かめ合い、抱き合う、たったそれだけの行為。
これまでにも、戦の後には何度も目にして来た光景だった。
いや、そもそも、そうするようになったのは、孫堅が名無しさんにそうしたからだ。
初陣の頃、彼女は慣れぬ戦場にいつも震えていた。
それを落ち着かせようと、安心させようと、孫堅が始めたのが切っ掛けだった。
それから、それを見た孫策が、孫権が、孫尚香が名無しさんを抱き締めるようになった。
抱き締められると安心する、それを知った名無しさんは自分からも手を伸ばすようになり、いつしか外にまで広がって、皆でこうする事が当たり前になったのだ。
それが何故、こうも胸を騒がせるのか。
孫堅は天幕に背中を向ける。
しかし、立ち去るよりも早く、彼女の声が孫堅の足を止めた。
「孫堅様!」
屈託なく自分を呼ぶ声に孫堅は振り向く。
「お帰りなさい」
と、駆け寄って来た彼女は、躊躇いなく腕を広げた。
孫堅は一瞬、躊躇った末に、彼女を優しく抱き締める。
初めて、そうしたように。
いつも、そうして来たように。
腕の中で、名無しさんが甘えるように胸に頬を擦り寄せて来る。
孫堅は自分の胸に上がって来た感情に、気付かない振りをした。